1月にBSTBSのロケで西穂高岳を目指した。当日は強い冬型の気圧配置になり、この山域では猛烈な風が吹き荒れた。西穂山荘での朝の気温はマイナス19℃。山頂を目指した僕らが体験したのは、体感温度マイナス40℃の世界だった。時折歩けないほどの風に僕らは翻弄され耐風姿勢をとる。露出した頬や鼻の頭が猛烈に痛い。指先も千切れんばかりに痛む。指先を温めるため行動中も必死で指を動かす。独標を折り返し点として下山してみれば、撮影班の大方のメンバーが顔面に凍傷を負っていた。僕はその後鼻の頭の皮がすっかり剥けてしまった。
リベンジロケは2月24日からとなった。冬山の登頂率は天気が良くて五割ぐらいだと僕は思っている。過酷な冬山で登頂するには、晴れて、風がなくて、雪の状態がよくて、しかもメンバーが充実している事が不可欠だ。その全がそろう確率はそう高くはない。果たして今回はどうだろう?天気予報では登頂予定日の二日目は予報が悪い。
初日夕方から雪と風が強まり、二日目の朝出発をする時点ではまたしても天候は雪で、絶望的な程風が吹き荒れていた。気温は前回に比べればずっと暖かいが、それでもマイナス12℃だ。ガイド達で打ち合わせをし、出発を遅らせる。リベンジでもあるし、何とか登頂を実現させたいとスタッフ全員が思っているのだが、思うにままならない。明け行く空が恨めしい。未明の出発予定はどんどん繰り下がって、とうとう午前9時になってしまった。今日の登頂は時間的にもう無理かもしれない。しかし午後になれば若干天候は回復してくると言う目論見もあったので、トレーニングと割り切って取り敢えず僕らは出発した。
前回よりは大分ましだが相変わらず風は強い。だが、顔面や手足の指先に感じるその体感気温は前回ほどではない。強いながらも風は安定していて、耐風姿勢を取るような事も無い。登るにつれ時折青空も顔を見せてはいるのだが、この状況に一日晒されていれば、スタッフの体力は持たないであろう。歩きつつも番組制作を取り仕切る川原ディレクターの頭の中にはいろんな思いがグルグル巡っているのだろう。何とか番組を成立させなければならない訳だから、その責任は重大だ。彼の葛藤が伝わって来る。演者の海洋冒険家白石康次郎氏も今回こそ登頂したいという並々ならぬ意欲を持っている。全員が良い画を撮りたいと思っている。しかしそれが自然相手となるとどうにもならない事もみんな知っている。そこまでこのスタッフ達は成長してきているのだ。いろんなパターンを考え話し合いながら、時折撮影を交え僕らは上を目指した。
独標基部でガイドと一対一或いは一対二でロープを装着し雪と岩の混じった独標に登る。そして行けるところまでと言うことで、僕らは更に上部に踏み込んだ。強い西風が斜面を駆け上がり、激しいブリザードが砂嵐の様に容赦なく僕らの顔面や目を刺す。前回ゴーグルを着けたメンバーのみ凍傷を負った事を検証するため、今回僕はゴーグルはしていかなかったので、その痛さと来たら半端ではない。ただただ目を細めるしかなかった。視界の悪い足下には雪庇が発達し、もし踏み抜いてしまえば僕らはたちまち奈落の底に引きずり込まれてしまう。ピッケルを刺してみたり、足で蹴ってみたりして、一つ一つ足場を確かめるのだ。左は風に磨かれた岩混じりのアイスバーン、右手は大量の雪が降り積もった70度もある雪壁だ。どちらに墜ちてもただでは済まない。
小ピークを四つほど行くとピラミッドピークだ。時間的なことも有り、本日はここまでとした。明日は天候が回復するはずである。早朝の出発で何とかやっつける。スタッフの意志は固まった。雪煙の中に西穂高岳の山頂が見え隠れしていた。
・・・・・・・・・・・つづく
心配で早く続きが読みたい!!
今回は、上手くいきそうな予感がしますが?
どうしようかなあ??
続きは番組でってことでどうでしょう?
待つしかないですよね!!
そうとう首が長~くなりそうですが。
がまん・ガマン・・・楽しみは後に
読んでいるだけでもあの凍るような緊張感が鮮明に蘇ってきます…
でもそれ以上に厳冬期の山に魅せられました。 本当に美しい!
また機会がありましたら宜しくお願い致します 続編を楽しみにしております
さて続編ですが、書いていいものやらなんやら。まあ、そのうち書くでしょう。
請うご期待!!