福原愛には涙も笑みもなかった。準決勝と3位決定戦で、一方的に敗れたことはショッキングだったに違いない。それでも2日後にスタートする団体戦に今一度、気を引き締めるように、あふれる涙を、目を赤らめながらぐっと押しとどめていた。

「中国の方が応援してくださったり、ブラジルの方、日本の方......みなさんが喜んでくださる結果を残したかったんですけど、残念です」

 午前中に行なわれた準決勝――ここまでの3試合をすべてゲームカウント4−0で勝利してきた世界ランキング8位の福原の相手は、ロンドン五輪の金メダリストである李暁霞(中国)。これまでの対戦成績は福原の1勝9敗である。

 第1ゲーム、先制のポイントは福原だった。だが、その後、9連続でポイントを失い、4−11で落とすと、気がつけば試合が終わっていた。

 クセのある回転のかかったボールをなんとか打ち返しても、さらに李からは鋭い回転のボールが返ってくる。ネットにかかるようなミスも続いた。緩急をうまく使われ、スマッシュの行方をただ眺めることしかできない場面が何度もあった。

 試合を通してわずか9ポイントしか奪えず、30分あまりで金メダルへの挑戦権を失った。

 すべて上だった。手も足も出なかった。福原もそう認めた。

「攻めていこうという気持ちで臨んだんですけど、1ポイント目のあと、連続失点してしまって。相手がすぐに気持ちを切り替えてきた。勉強になりました。パワー、回転......そういったものがすべて上回っていて、今まで対戦した誰よりも重いボールだった。すごいなと思いました」

 完敗であるがゆえに、気持ちはすぐに3位決定戦に向かっていた。

「自分のミスで負けたのではなく、実力差で負けた。試合を振り返っても、自分ができることはすべてやったという自負がある。次の試合も、やるべきことはやったと思えるような試合に......」

 およそ10時間後に行なわれた3位決定戦は、3回戦で石川佳純にゲームカウント4−3で競り勝った世界ランキング50位のキム・インス(北朝鮮)だった。「かすみちゃん」と呼ぶ後輩のためにも、そしてシングルスにおいて男女を通じて初めてのメダルのためにも、負けられない一戦だった。

 しかし、キムは福原が苦手とするカットマン。そして、初対決。ワールドツアーなど国際大会への出場機会が少ない相手であるために、情報には乏しかった。準決勝からのインターバルの間、保持するキムの試合のビデオをすべて観た。

「(福原が4回戦で対戦した同じ北朝鮮の)リ・ミョンスン選手よりもパワーがあると聞いていたんですけど、実際に対戦してみて本当にパワーがあるな、と。同じ北朝鮮のカットマンといっても、タイプは違いました」

 キムは福原の強打を拾ってラリー戦に持ち込み、福原の返球が少しでも浮けば力強いスマッシュを狙ってくる。キムのボールの回転に対応できず、福原は第3ゲームまで落としてしまう。

「カットマンと対戦するときは、回転に慣れたりする必要があるので、そういった意味で、挽回勝ちをすること多い。ちょっと序盤は焦りすぎてしまったかなと思ったんですけど、カットマンとやる上では、(強打がアウトになったり、ネットにかかったり)そういったミスを繰り返しながら、回転とかがわかってくる。もっと早く回転が読めるようになっていたら違った展開になったかもしれない」

 シングルスでは過去4度の五輪で、ベスト8が最高成績だった。あの泣き虫愛ちゃんも27歳になり、日本チームの女子では最年長だ。「集大成」というような言葉も使い始める年代である。

「正直、自分がベスト4に入れるとは思っていなかったので......そういうと語弊があるかもしれないんですけど、本当にみんな、すごく強くて、一戦一戦、戦って勝っていくのがすごく難しい。その中でベスト4に入っても、メダル決定戦で勝つことができなくて、ものすごく悔しいですし......この悔しさを団体戦にぶつけたい」

 ふたつの敗北は、女子団体戦への試金石となったはずだ。第2シードの日本は、卓球大国・中国とは決勝で当たる。前回の「銀」以上に輝くメダルを狙う。

 

勝負の世界はきびしいね