<退位後称号>「上皇」使わず 政府、「前天皇」など検討
政府は天皇陛下が退位した後の称号について、歴史的に使われてきた「太上天皇」と略称の「上皇」は使用しない方針を固めた。上皇が天皇より上位にあるとして政治に関与した歴史があり、皇位の安定性に懸念を抱かせる恐れがあると判断した。代わりに天皇より上位とみなされにくい「前天皇」や「元天皇」とすることを検討している。今春以降に国会に提出する退位の関連法案に明記する。
退位後の天皇、皇后の敬称については、政府内で「即位前の『殿下』に戻すわけにはいかないので、『陛下』のままがふさわしい」との意見が出ている。この場合、現在の天皇陛下を退位後は「前天皇陛下」や「元天皇陛下」と呼ぶことになる。
上皇は平安時代後期から鎌倉時代中期にかけ、政治に関与する「院政」を敷くことがあった。政府の有識者会議では「現行憲法下の象徴天皇と結びつけるのは飛躍がある」として、懸念は不要という意見もあった。
しかし、上皇は歴史的な称号で権威を与えかねず、新天皇に即位する皇太子さまとの「国民統合の象徴の分裂」が起こる懸念がある。「二重権威になっていさかいが起こるイメージがある」(有識者会議関係者)こともあり、使用を見送る判断に傾いた。
陛下は2010年7月の宮内庁参与らの会議で「自分は上皇になる」と述べていた。関連法案には、退位した天皇の称号や敬称のほか、皇位継承順位から外す規定などを盛り込む。
「平成」30年で区切り…皇太子さま即位へ
政府は2019年1月1日に皇太子さまが天皇に即位し、同日から「平成」に代わる新しい元号とする検討に入った。平成は30年までとなる。政府は現在の天皇陛下に限った特例として退位を認める特別立法とする方針。政府は退位を実現する関連法案を今春以降、国会に提出する。
陛下は昨年8月のおことばで「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には平成30年を迎えます」と述べ、「平成30年」に言及していた。政府関係者によると、安倍晋三首相は今月に入って菅義偉官房長官、杉田和博官房副長官と退位に関する法整備などについて協議したという。
政府が元日からの新元号を検討しているのは国民生活への影響を最小限に抑えるためだ。このため政府が元号を公表した後、19年の元日までに一定の周知期間を置く可能性もある。
退位の時期については、関連法案には明記せず、政令で定めるとの方針を記載するにとどめる案が有力。退位が「国民の総意」であることを示すため、退位時期を閣議決定する前に、首相や衆参両院議長、最高裁長官、皇族らからなる皇室会議を開き、審議を求める案もある。ただ、政府関係者は「国権の最高機関である国会が関連法案を成立させ退位を認めることになれば、皇室会議の審議は必要ない」と指摘している。
退位に関する安倍首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は今月23日に退位容認の方向性を示す「論点整理」を公表する予定。また、衆参両院の正副議長は16日に退位に関する協議を始め、その後、各会派から意見を聴取する。
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