総務省が6月、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」において改正電気通信事業法に基づく新たな省令案を示しました。
【大手キャリアの販売コーナーでもミドルレンジのスマートフォンの比率が高まってきている】
この省令案には定期(2年)契約の解除料は上限1000円、端末代金の値引きは最大2万円までという内容が含まれています。前回の連載では、これが携帯電話事業者の乗り換え(MNP)につながるかどうかという視点で、販売スタッフから話を聞きました。
今回は、この省令案が機種変更を含むスマートフォン(端末)の売れ行きにどのような影響を与えるのかという視点から、引き続き販売スタッフの意見を聞いていきます。
フラグシップモデルが中心に売れてきた日本市場
今まで、日本の携帯電話市場では販売価格が10万円を超える、「フラグシップ(旗艦)」あるいは「ハイエンド(高機能)」のスマホが販売の中心にいます。Appleの「iPhone」シリーズの最新モデルが、その典型例といえます。
なぜ高価な端末が売れるのかといえば、過度な端末購入補助に一因を求めることができます。10万円超のスマホでも、「キャンペーン」を使うと半額、場合によっては“一括0円”で販売されることがあります。
機種やブランドの知名度と割引額の大きさが相まって、ハイエンド機種に人気が集まるのも致し方ない状況だったといえます。
「割引上限2万円」で注目されるミドルレンジスマホ しかし……
ここで端末代金の値引きが上限2万円に“抑制”された場合、ユーザー視点では現在の人気機種は金額面で「買いづらい機種」になってしまうことは避けられません。一方、販売に携わる店舗スタッフ側から見ても「端末を売りづらくなるのではないか」という不安があります。省令案がどう着地するのか、警戒心を強めているのが現状です。
省令案がそのまま「省令」となった場合、その施行後は安価に購入できる端末として実売価格が3万円前後のミドルレンジスマホに注目が集まると思われます。
しかし、この価格帯のスマホはAndroidのものがほとんど。これだけ「iPhone大国」となった日本において、販売スタッフは「安価であってもiPhone以外のスマホ受け入れられるのか?」という不安を抱えています。
それでは現在、販売の最前線ではミドルレンジスマホをどういう人が購入し、どういう人が購入しないのか、販売スタッフの意見を交えつつ見ていきましょう。
買う人は「こだわりのない人」「料金を安くしたい人」
まず、安価なミドルレンジスマホについて、売れ行きやユーザーの反応、販売員から見た印象を聞いてみました。
「そもそもミドルレンジスマホは売れているのか?」という質問に対しては、こんな回答が多く寄せられました。
以前よりも売れてはいます。ただし、(機種やメーカーの)指名買いではなく、お客さまから話を聞き、それを踏まえて提案した結果、(ミドルレンジスマホを)選ばれるケースが多いです。
簡単にいえば、店員のアドバイスを受けて購入に至るケースが多いということです。
さらに、「ユーザーにはどのような提案をしているのか?」と聞いてみると……。
お客さまの話を聞いてみると、スマホでやりたいことが高性能な機種でなくても十分にできるケースが増えています。それを踏まえて「安価な機種でも十分にやりたいことができますよ」と伝えています。
その上で「毎月の料金も安くなります」と案内すれば、「iPhoneがいい」といったこだわりがない限り、ミドルレンジモデルを買ってもらえます。
とのことでした。機種やメーカー、あるいは機能面でのこだわりがない人がミドルレンジスマホに流れている傾向にありそうです。
このような話もあります。
始めから「安いスマートフォンはないか?」と聞いてくる、料金重視のお客さまが年々増えています。そもそもの端末価格が安いミドルレンジスマホは、乗り換え(MNP)でなく機種変更であっても販売しやすいです。
端末価格の安さを重視する人にも、ミドルレンジスマホは受け入れられているようです。
買わない人は「iPhoneでないとダメ」
このように、ポジティブな話がある反面、ミドルレンジスマホを巡るネガティブな話もあります。
スマホの販売価格が高騰する中、通信料金を安くできるMVNOサービス(いわゆる「格安SIM」)の認知が進み、販売価格の安いミドルレンジスマホと組み合わせて「格安スマホ」として訴求する場面も増えています。
しかし、こんな話もあります。
「どうしてもiPhoneがいい。けれど高いから今は買わない」というお客さまも一定数います。
「なぜiPhoneじゃなければダメなのですか?」と尋ねてみると、「Androidはすぐに調子が悪くなる。安い機種ならなおさら信用できない」という答えが返ってくることが多いです。
あと、iPhoneを長く使っているユーザーが多すぎる、という問題もあります。アプリへの課金を始めとして、iPhoneやAppleに囲い込まれているユーザーに対して、Androidスマホを今更お勧めしても、機能や価格に納得できても買い替えは難しい面もあります。
簡単にいうと、Androidスマホに良い思い出がない、あるいはApple(iPhone)のエコシステムにがんじがらめになっているという理由で、どうしてもミドルレンジスマホを勧められないというケースもあるのです。
iPhoneばかり売れた結果、店員の“知識”に課題が
筆者自身も店員時代、国産Androidスマホの黎明(れいめい)期にお客さまから“不満”をぶつけられたことがあります。
「防水」「おサイフケータイ」といったiPhoneにはない機能を搭載し、鳴り物入りで登場した国産Androidスマホ。それに引かれて購入したお客さまも少なからずいます。しかし、メーカーがスマホ開発に不慣れだったせいか、少なからず不具合も見受けられました。
買って使ってみたら調子が悪い、何度も修理に出す羽目になった――こんなクレームを日々受けていたのです。
初期のAndroidスマホの不具合に悩まされたお客さまの多くは、次の買い替えにiPhoneを選んでいきました。ある意味でAndroidスマホが「自爆」したことによって、「iPhone指名買い」が増えたのです。
指名買いでiPhoneばかりが売れていくようになった結果、販売スタッフも当然iPhoneに“特化”する人が出てきます。結果としてAndroidスマホに対する知識の浅いスタッフが少なからず出てきました。
Androidスマホに対する知識も深いスタッフであれば、機種代金や月額料金(維持費)といった金銭面だけではなく、機能面でも不安要素はないことを漏らすことなく伝えられます。さまざまなな面でiPhoneにこだわるお客さまにも、お得さや安心感を伝えられるだけの“一押し”もできます。
しかし、その前提となる知識がないとなると、改正省令の施行後に端末販売台数を維持することが困難になる可能性もあります。ある販売店のスタッフは「豊富な知識を持つスタッフ育成が大きな課題になっている」といいます。