ふと…、思い出す。

「先生、生きるってけっこう大変なんだね…」とある生徒さんに駅のホームで言われたことがある。あまりにシビアなつぶやきに、どう答えたのかさえ思い出せないが（あたふたしたのは覚えているけど…。）、そのときの彼女は、なんだかそのまま透明になって消えてしまいそうだったっけ。。

　あの頃、たぶん、周りからのほんのささいな一言がいちいち彼女の心に刺さり、どうにも動けなくなってしまったんだと思う。
彼女がつむぎだすピアノの音色は、ほんとうにほんとうに、デリケートで、繊細じゃない私なんかにはとても出せない音で、聴きながら「そんなことで負けるなよぉ」と思っていた。
言葉は強気なのに、メンタルな部分がこんなに弱いんじゃないか、と驚いてもいた。

　あれから数年経ち、彼女も大人になった。
あのとき、彼女の周りの大人はみんな、どうにかして助けてあげたい、とほんとに思っていた。でも、結局、それは彼女自身との闘いだった。だから、私は、一緒にいてあげたり、見守ったりすることしかできなかった。
ようやく、どうにかこうにか長いトンネルから出てこられたとき、びっくりするくらい大人になってしまっていた。それから、あっけらかんと「先生、今度遊びにいこうね！」なんて言っていた。

　いつか、自分の子供達もきっと通るであろう道だと思う。
そのとき、どんな人が、どんなできごとが道しるべになってくれるんだろう..。
ちゃんとみつけられればいいな、と思う。そして、親である私はどんなことがあろうと、堂々としていなくてはならないんだ、と思う。

「ママは、毎日おいしい料理を作ってくれて、笑ってくれているだけでいいんだから。」と、当時、彼女は、動揺を隠しきれなかったお母さんに、そう言ったそうだ。

今では、すっかり年頃の女性になってしまった彼女。今度、日本に戻ってくるときには、いろんな話をしたいな、と思う。