変装あるいは異性装は、文学の本質的なテーマではなく、付随的な現象と考えられがちである。しかし、マルク・ブロックやペーター・ビュルクの研究が明らかにしているように、人類学は変装という現象に重要な位置を与えている。イギリスの文学研究がシェークスピアの演劇研究の分野において、このテーマに大いなる関心を払っていることは周知の通りである。変装や両性具有のテーマは、ロマン主義文学が好むテーマのひとつでもあった。バルザックの『サラジーヌ』『セラフィータ』、スタンダールの『ヴァニーナ ヴァニーニ』、ゴーチエの『モーパン嬢』は、その一例である。ジョルジュ・サンドも、この時代に「変装は流行であった」と書き残している。実際、サンドの百冊近い諸作品の中に、あるいは26巻におよぶ書簡集や『我が生涯の記』には女性作家の知られざる一面である「変装する主人公たち」が登場している。ヒロインたちは、とりわけ新たな世界に身を置くために自分の性を隠す必要に迫られて変装をする。
変装は世界観を広げるための自らのアイデンティティを求める手段として、主人公の存在のあり方と緊密な関係を示しつつ、時として小説空間を席巻している。サンドの創作にみられる変装は挑発的な色合いを帯びている。変装は、主人公に因習や慣例が取り決めた境界を越えさせ、勇気ある大胆な行動を引き起こすことを可能にしているからである。
挑発の語源的な意味は、何かを誕生させることであり、より広義の意味では、他者に考える欲望あるいは必要を生じさせ、行動する可能性を呼び覚ます。そこでは、変装は外界と主人公との間の仲介者として重要な役割を果たし、女性作家の作品においては、女性たちが排除されている場でよりダイナミックで厳格なやり方で立ち現れることを特徴としている。
このような文脈において、サンドの創作に登場する変装と存在論的な側面との間の演繹的な関係を明らかにすることは、強ち意味がないこととはいえないのではないだろうか。サンドの創作のテーマは、しばしばヒロインの性的、社会的、実存的アイデンテイテイに深く根ざしているが、それはまたとりもなおさず、作家-語り手のアイデンテイテイ、すなわち、ジョルジュ・サンド自身のアイデンテイテイでもあるのだから。
共著『"La Provocation en Littérature』の拙稿「Provocation et déguisement dans l'oeuvre de George Sand」より(和訳)
'Provocation et déguisement dans l'oeuvre de George Sand' in "La Provocation en Littérature", Editions Le Manuscrit, 2009.
Actes du Colloque de L'Association Internationale de la Critique Littéraire accréditée auprès de l'UNESCO depuis 1971, siège
social à l'Université François Rablais de Tours, qui s'est droulé au Prieuré de Saint-Cosme les 17,18,19 septembre 2008 et
soutenu par le Conseil général d'Indre-et-Loire, France. pp.45-60.