西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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『ある夢想者の物語』

2013年12月13日 | サンド・ビオグラフィ
ジョルジュ・サンドの作品には、ギリシャ時代の哲学者プラトンを想起させる場面や作中人物が登場している。その表現は間接的な示唆であったりあるいは直接的な表象であったりと多様な形をとっている。哲学とは人間はどのように生きるべきかについての探求である。プラトン哲学の何がサンドを魅了し、それはどのように作品に再現されているのであろうか。

1924 年にLa Revue des deux Mondesに掲載され、1931 年に 単行本として初めて孫のオロール・サンドAurore Sandにより出版された『ある夢想者の物語 Histoire du rêveur』(1830)は、明らかにプラトンの「人間球体説」を反映している作品である。
Cf. "Histoire du rêveur", in Œuvres complètes 1829-1831 George Sand avant Indiana, vol,1., Edition critique par Yves Chastagnaret, Honoré Champion, 2008.

サンドの1830年の作品『ある夢想者の物語』には、性が定かではない不思議な存在が登場する。
ロバ一匹を道連れにシチリアの火山エトナ山のクレーターの見物に訪れた若き孤独な旅行者アメデAmédéeは、山中で野宿をした夜、不思議な経験をする。山間に美しい歌声が木霊するのを聞いたのだ。歌声の主は、赤いマントを着たシチリアの少年であった。二人は交代でロバに乗り旅を続け、強風の中を手に手を取り、エトナ山のクレーターに近づく。ところがこの少年はアメデの目の前で、赤いマントを身につけた美しい女性に変身する。この不思議な存在にアメデは言いようのない感情を抱く。

アメデは理性が混乱するのを感じた。彼が虜になってしまった女性のまばゆいばかりの姿に魅了されるがままに、頭の中は熱情で燃え上がった。彼はもはや地面をかすっているとしか思われないような身軽な足裁きで移動する相手のマントをぐっと強く握りしめた。
Amédée sentit sa raison se troubler. Cédant aux prestiges qui l'environnaient, son cerveau s'embrasa. Un transport frénétique s'empara de lui. Il saisit plus fortement le manteau de son compagnon, dont les pas légers semblaient ne plus effleurer le sol. 

そして、アメデは必死になって叫んだ。「君が実際に生きているとは思えないこの現実の世界で細々と生きている僕を救ってくれないか。君がすでに包まれているこの渦巻きの中に連れていってくれたまえ。」
Ne me laisse pas végéter dans cette vie réelle, à laquelle tu sembles ne pas appartenir, s'écria-t-il avec enthousiasme, ange ou démon : entraîne-moi dans ce tourbillon que je vois déjà t'envelopper.

大音響とともに火山が爆発し、火を噴き灼熱の溶岩を吐き出す。見知らぬ少年はいつの間にか聖霊となってアメデに赤いマントを投げかけ、「人間の生に別れを告げ、霊界まで私についてきてください」と言うのだった。火山は恐ろしい勢いで溶岩を流れさせ、彼らのところまでやってきた。


Il passa, et Amédée se sentit, pénétré jusqu'aux os par la flamme dévorante. Il se retourna et vit son corps à demi consumé que la lave emportait loin de lui et dont les misérables débris flottaient sur une mer de feu. Au même instant, ce qui restait de lui se sentit entouré par des bras voluptueux, et son compagnon au manteau rouge devint une femme plus ravissante que houris tant vantées du Prophète.

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