“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

子どもの“こころの問題”を精神科は診てくれない

2024年07月26日 16時23分42秒 | 子どもの心の問題
当院は小児科開業医です。
小児科はこどもの病気一般を扱いますが、
外科系(ケガや手術)などは扱えず、
「小児内科」と呼ぶ方が正しいですね。

そして昨今増えてきた“こころの問題を抱える子ども”。
これは内科というより精神科の分野なので、
やはり従来扱ってきませんでした。

では精神科で診療してもらえるのかというと、
どうやらそうでもなさそうです。
精神科や心療内科に中学生が受診すると、
「高校生からです、
 中学生以下は診療していません」
と門前払いに会うことがほとんど。

精神科の中には「児童精神科」「小児精神科」という分野があるようですが、
その専門医の数はとても少ないようです。

しかし「小児科」はこどもの病気の入口として(外科以外)何でも診療していますので、
「精神科」も子どもを診てくれてもいいのでは、と思ってしまう私です。

というわけで、中高生の“こころの問題”を抱えて困っている患者さんが、
全国にたくさん彷徨っているという状況です。

さて、当院の取り組みですが...
年齢別に考えると、以下のようになるでしょうか。

(乳児期)夜なき
(幼児期)睡眠障害、かんしゃく・こだわり、パニック、落ち着きのなさ
(学童期)同上
(思春期)同上、月経前症候群(PMS)

すべてに対応できるわけではなく、
また心理師はいないのでカウンセリングもできませんが、
効果を実感して通院する子どもが最近増えてきました。

そんなタイミングで以下の記事が目に留まりましたので紹介します。
米国では“思春期の抑うつ”を主訴とする患者がプライマリ・ケアと精神科を受診した際、
寛解率に差がなかったという内容です。

日本の現状を考えると、ちょっと想像できないこと。
おそらく医療事情が大きく異なるのでしょう。
それとも米国では、小児科医が精神科の研修も受けている?

■ 思春期の抑うつ、対応は小児科?精神科?〜重症度や寛解率を比較
 思春期の子どものうち20%程度が「抑うつ」を経験するとされる。これは自殺行動にもつながる重要な公衆衛生学的な問題だが、思春期はそもそも精神科へのアクセスに消極的という課題がある。そのためプライマリケア環境で「抑うつ」の評価と治療を行い、必要に応じて精神科の助けを受けることが推奨されている。
 成人では、抑うつを主訴に受診する患者の重症度はプライマリケアと精神科で同程度であり、同一のケアを提供した場合、寛解率に差がないことが報告されている(STAR*D研究)。これはプライマリケアが専門的治療の良い代替になりうることを示唆するが、思春期の抑うつに対し小児科が同様の役割を果たせるかは明らかでない。そこで今回、小児科と精神科で思春期のうつ病治療を比較した米国の研究を紹介したい(J Child Adolesc Psychopharmacol 2024; 34: 80-88)。
 ちなみに、医療インフラは日本や米国では民間を中心に形成されているのに対し、英国では英国保健サービス(NHS)を中心に家庭医(GP)の配置を行う政府管理システムを構築している。また、日本と同じくフリーアクセスを採用していたフランスは、2005年にかかりつけ医(Médecin Traitant)制度を導入し、登録を国民に義務付けることでプライマリケアを強化している。
 国の医療システムがどの程度プライマリケア提供を支援しているかを示す指標(プライマリケアスコア)は、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均を下回っており、特に「プライマリケアを提供する医療者の地理的配分がどの程度計画、調整されているか」および「longitudinality(患者登録/患者パネル)が存在するか」の項目で低いことが示されている(Health Serv Res 2003; 38: 831-865)。

▶ 研究のポイント:抑うつの寛解率は同等も、小児科を訪れる患者で軽症傾向
 今回の研究は、うつ病のスクリーニングと測定ベースのケア(measurement-based care;MBC)によるプライマリケアモデルであるVitalSign6プログラム(Pharmaceuticals 2019; 12: 71)の評価プロジェクトの一環として実施された。治療期間、小児科と精神科のいかんにかかわらず、さまざまな主訴で大都市の子ども病院を受診した3,498例に対しPatient Health Questionaire(PHQ)-2(0〜6点)を用いてスクリーニングを行い、2点以上だった患者1,323例(平均年齢14.3±1.9歳)を抽出。PHQ-9(0~27点)を実施し、10点(中等度のうつ)以上の患者のプロファイル、治療内容、経過について小児科(121例)と精神科(495例)を比較した。
 検討の結果、精神科を訪れた患者は小児科を訪れた患者と比べ、抑うつの重症度(15.9±5.0点 vs. 12.1±5.5点)、大うつ病性障害と診断される割合(60.6% vs. 24.7%)、薬物療法が提供される割合(54.8% vs. 6.6%)が多く、精神科医と比べて小児科医は、薬物を使用せずに治療する割合(4.3% vs. 36.3%)、他院に紹介する割合(5.7% vs. 27.7%)が高かった。そして興味深いことに、寛解率では精神科と小児科で有意差を認めなかった(χ2=0.99、P=0.32)。

私の考察①:プライマリケア環境としての小児科は、精神科の良い代替になりうる
 本研究が実施された米国と日本では、患者側の医療へのアクセスの容易さや、経済的な負担が異なり、医療者側としても費やせる時間(と、おそらく提供される医療の質)が異なるため、結果をそのまま当てはめることはできない。とはいえ、重度ではない思春期の抑うつに対し、プライマリケア環境としての小児科が、精神科の良い代替になりうる可能性が示されたことは意義深く、日本における思春期医療の政策的な課題を考える上でも示唆に富む。
 日本における10〜19歳の自殺者数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴って増加した。成人の自殺者数が大きく増加した日本列島総不況(1998年)、リーマン・ショック(2009年)では、19歳以下の小児・思春期への影響は乏しかったが、COVID-19では成人とともに増えたのである。
 特に女性でその傾向が顕著であり、経済的理由以外では社会的つながりの希薄化などが大きく影響したと推察される。ちなみに10歳代の日本における死因第1位は自殺であり、主要7カ国で唯一である。また、10歳代の自殺死亡率はフランス、英国、ドイツ、イタリアの3〜4倍程度である(厚生労働省「令和5年版自殺対策白書」)。

私の考察②:精神科へのアクセスはハードル高く、支援は不十分
 本研究の土台となるVitalSign6プログラムでは「抑うつ」というある程度定量化が可能な指標を用いてスクリーニングおよび介入がなされているが、小児・思春期はライフステージ(学校の各段階)や、立場(社会との接点)ごとで状況が大きく異なり、認識できるつらさの対象(友人関係・家庭環境・いじめ・学業など)もさまざまであることから、一元的な対策で全体効果を得ることは難しい。
 そのため、子どもが接する社会単位ごとの取り組み(学校での自殺予防教育の導入、スクールカウンセラーの配備など)がなされ、周辺者らが利用可能な危機察知ツールの開発なども用いて、受け止め・つなげる支援体制の構築が広がりを見せている。しかし、つながり先としての精神科へのアクセスは、心理的にもリソース的にもハードルが高く、「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた小児・思春期への支援は十分ではない現状がある。
 一方、小児科臨床医は既に1万8,000人ほどおり、ワクチンや健診を通じて親子に接する機会も確約されている。小児・思春期はこころの葛藤が身体化しやすく、初期には高率で小児科を訪れている。抑うつが重度ではなく、まだ死が強く意識されていないこの前段階で小児科が適切な介入を行い、限られた高リスク患者のみを精神科につなぐ構造的合理性について、本研究の結果は支持するものといえる。

私の考察③:日本における小児科の課題を解消し、良い受け皿として機能させたい
 とはいえ、感染症診療を中心とした薄利多売を求められる日本の小児医療構造下で、この負担を一方的に押しつけることは現実的ではない。おそらく「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた子どもを放っておいてよいと考える小児科医はいない(筆者は小児科医をとても信じているのだ)が、それができない実情があると考えるべきであろう。
 診療にかけられる時間、経営上の理由、技能・知識の不足、認識の問題、医療者自身の安全性など、解決しなければならない課題があるのだと推察している。筆者は現在、厚生労働大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の支援を受け、課題と介入効果を明らかにするための大規模アンケートの実施に向けて取り組んでおり、政策提言や実装のためのシステム構築に発展させる予定である。
「こころ」とは、広い、冷たい、折れる、盗まれる、騒ぐ、砕くなど、さまざまな表現がしっくりと当てはまるように、正解がないものであるように感じる。今回の研究では、重度ではない思春期の抑うつに限れば、薬物療法の割合が少ない小児科が、精神科と比べ寛解率に差を認めないという結果だった。治す対象としての「精神」ではなく、理解する対象としての「こころ」について、小児科医が果たせる役割があることを示した研究といえるだろう。

子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」への対応

2024年07月26日 08時45分42秒 | 子どもの心の問題
近年話題になっていることですが、
小児科医の私には基礎知識しかありません。

主に児童精神科医が担当する分野と思われますが、
その児童精神科医の数が少ないため、
悩んでいても満足のいく医療を受けることができないのが現状です。

心理士の解説を参考に、ポイントをまとめてみました。
一読してみての感想は、
・依存症に陥る子どもは、ほかに悩み事を抱えていることが多い。
・家族だけで抱えず、専門家のサポートを受けることが解決への近道。
に集約されると思いました。

<ポイント>
・「スマホ依存」という単語を耳にする機会が多いが、実は医学用語ではなく定義も定められていない。
・依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になること。スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態。
・子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難。
・治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてる。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要。
・病院を嫌がるときは無理強いをしない、本当のこと(受診する)を伝えずに連れていってはいけない。
・子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよい。
・うまく病院受診につなげられない場合は、子どもを受診させる考えをいったん捨てて、家族だけで相談できる場所を探す。信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切。
・次のような機関でもスマホ依存の相談可能:
 ✓ 各都道府県の精神保健福祉センター
 ✓ 市役所や保健所の子育て相談窓口
 ✓ 自治体の教育支援センター
 ✓ 小中学校のスクールカウンセラー
・まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にする。「苦しい」「助けてほしい」、そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼る。
・病院受診はゴールではない。やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされる親は少なくない。スマホ依存は治るのに時間がかかる。「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たちの思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関。
・苦しいときほど、人とつながってください。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれる。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 公認心理師が「やりすぎ」と「依存」の境目を解説
#1 スマホへの依存度を判断するためには?
公認心理師:中井 ようこ
2024.01.16:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ゲームやSNSを簡単に楽しめるスマホ(スマートフォン)は、子どもが夢中になりやすいコミュニケーションツールの一つです。しかし、使い方によっては依存傾向が高まり、子どもの心身に大きな影響を与えることも。・・・1回目では、子どものスマホ使用に悩む保護者に向けて、子どもがスマホ依存症なのかを見極めるポイントを教えていただきます。

<目次>
・スマホ依存の症状とは?
・日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
・将来起こりうる問題
・専門家の手助けがスマホ依存から救う

▶ スマホ依存の症状とは?
 近年、「スマホ依存」について耳にする機会が多くなりましたが、実は医学用語ではなく定義も定められていません。スマホ依存とよばれる症状を考える前に、まずは「依存症」という大きな概念を知っておきましょう。
 依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になることです。特定の行為を繰り返す、より強い刺激を求める、いつも頭から離れないなどの特徴があります。この定義をスマホ依存に置き換えると理解しやすいでしょう。つまり、スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態といえます。
 では、スマホ依存の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
 ソウル聖母病院のキム・ダイジン教授のグループによって作成され、多くの言語に翻訳されている「スマートフォン依存スケール」では、スマホ依存の症状が10項目が挙げられています。
 それぞれの項目について「全く違う」「違う」「どちらかというと、違う」「どちらかというと、その通り」「その通り」「全くその通り」の6段階で評価し、回答の合計点が31点以上の場合を「スマホ依存症の疑い」としています。

▶ 日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
 スクリーニングテストをすると「うちの子にほとんど当てはまる……」とドキっとした方もいるかもしれません。
 スマホの使い方で気になる様子があったら、まずは子どもと話しあってみましょう。本人に改善する様子が少しでもみられる場合は、しばらく見守っても良いでしょう。
 たとえば、テスト前はスマホを見ないように我慢していたり、時間制限を守ったりするなど、子どもが努力してスマホと距離を置こうとしていたら、見逃さずに認めてあげてください。
 しかし、本人がスマホを手放せずに日常生活に影響が出ているようであれば、依存症である可能性が高まります。
・・・
▶ 専門家の手助けがスマホ依存から救う
 子どもをスマホ依存から救うには、適切なタイミングで病院受診や専門家への相談をすることが大切です。「子どもの様子が今までと違う」と思ったら、それが家族にとって適切なタイミングといえます。
 子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難です。そのため、子どもを支える家族がスマホ依存について正しい知識を持ち、受診や相談をする必要があります。
 しかし、スマホ依存を専門的に治療できる病院は全国的にも少ないのが現状です。まずは、近くにある児童精神科か心療内科に問い合わせをするのが良いでしょう。久里浜医療センターが作成したリストを参考にしてください。どうしても相談先がみつからない場合は、かかりつけの小児科や民間のカウンセリング機関に相談する方法もあります。
 いざ受診をしようとなると「病院でどんな治療をするの? 痛いことは嫌だ」と心配する子どもも少なくありません。実際にどんなことをするのか、保護者も子どもも知っておく必要があります。
そこで、一般的な治療の流れをご紹介します。

・外来診療での問診、身体的な検査や心理検査
 ↓
・問診や検査をもとにした依存症の診断・治療方針の決定
 ↓
・精神科医による診察、心理師によるカウンセリング
 ↓
・ 認知行動療法やソーシャル・スキル・トレーニングなどを組み合わせた治療
 ↓
・必要があれば入院治療

 認知行動療法とは、物事に対する考え方のクセに気づき、さまざまな考え方を身につけることでストレスへの対処法を増やす心理療法の一つです。認知行動療法を基盤とし、コミュニケーションの技法を練習するソーシャル・スキル・トレーニングなどを行います。
 著しい日常生活の乱れ、体調不良や家族への暴力などがあるケースでは、入院治療も一つの方法です。スマホやメディアから離れ、運動やレクリエーションなどを通じ、周囲とのコミュニケーションや日々の生活に自信をつけていきます。
 このような治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」です。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてます。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要なのです。
 親にはなかなか打ち明けられないことも、専門家に話せるケースもあります。子どもの悩みが明らかになってきたら、子どもの気持ちを理解するようにしてみてください。家庭でも子どもに寄り添いながら回復をサポートしていきましょう。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 病院受診の無理強いがNGな理由を公認心理師が解説
#2 病院への受診を子どもが嫌がったら?
公認心理師・中井ようこ
2024.01.17:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

<目次>
・病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
・スマホ以外の子どもの悩みを聞く
・病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう

▶ 病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
 「スマホ依存」の子どもを、いざ病院に連れていこうとすると、受診を嫌がって抵抗されることは珍しくありません。「スマホを取り上げられるかもしれない」「痛いことをされるかもしれない」など、何をされるか分からない不安があるからです。
 そんなときに、つい家族がしてしまいがちなのが、「本当のことを伝えずに連れていくこと」。
 以前、私のところに寄せられた相談では、「すぐに終わるよ」「行ったら○○を買ってあげる」などと、病院に行く目的をしっかりと話さないまま、子どもを連れて行ってしまったケースがありました。そのお子さんは、おとなしく受診しましたが「長い間待たされた」「知らない人に聞かれるのが嫌だった」など、ネガティブな体験だけが心に残り、その後受診をしなくなり、さらには部屋に引きこもるようになってしまったのです。

▶ スマホ以外の子どもの悩みを聞く
 受診につなげるための子どもへの接し方としては、スマホ以外で子どもが望んでいることは何かを探してみてください。「スマホ以外で?」と思うかもしれませんが、少し視点を変えて声をかけるのがポイントです。
 たとえば、勉強や友達、進路など、子どもが悩みを抱えやすい話題について話し合ってみましょう。
「勉強のことがすごく不安」「教室で気軽に話せる相手がいない」など、子どもが心の奥底で抱えている本当の悩みにフォーカスしてみるのです。
 子どものニーズがだんだんと分かってきたら、悩みに沿った声かけで受診を促します。次のような例を参考に、子どもとコミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。

「病院の相談室やデイケアでは、勉強や進路について話せるみたいだよ」
「同じ趣味の人で集まって話せる場所があるみたいだよ」

 このように、病院は決して子どもを苦しめる場所ではなく、悩みや不安を一緒に解決してくれる所だと伝えることが大切です。
 子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよいでしょう。家族も病院への信頼感を持てて「とても優しい先生だったよ」などと教えてあげられますね。

▶ 病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう
 子どもと向きあいながら話し合ってみても、うまく病院受診につなげられない場合もあるかと思います。
 そのようなときは、子どもを受診させる考えをいったん捨てましょう。家族だけで相談できる場所を探し、信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切です。
 子どものスマホ依存を診察する病院の多くは、家族だけでも受診できるシステムが整っています。子どもの様子や家族の悩みについて相談できる場所の一つです。
 子どもの依存症に悩む方のために「家族教室」を開催している病院もあります。スマホ依存に関する知識だけでなく、他の家族の体験談やアドバイスを聞くことができる貴重な場です。
 さらに、次のような機関でもスマホ依存の相談ができます。

・各都道府県の精神保健福祉センター
・市役所や保健所の子育て相談窓口
・自治体の教育支援センター
・小中学校のスクールカウンセラー

 精神保健福祉センターでは、スマホ・ゲーム依存の自助グループや家族会を紹介してくれることも。同じような境遇に悩んでいるメンバーとの出会いは、先の見えない不安を抱える家族にとって大きな心の支えになるはずです。
・・・
 まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にしなければなりません。「苦しい」「助けてほしい」。そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼ってくださいね。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 小5息子の依存で自信を失ったママパパの「回復策」
#3 長く続く治療を親子で乗り越えるために

 スマホ依存は治癒までには数年かかることも。大きな試練を親子で乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか?・・・

<目次>
・はじまりはオンラインゲームから
・スマホ依存の症状があらわれ不登校に
・「病院受診はゴールではない」
・「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント

▶ はじまりはオンラインゲームから
・・・
 寒くて手先が凍える12月の夕方5時ごろ、公園の片隅に子どもたちが集まっていました。それぞれゲーム機を握りしめ、対戦ゲームに熱中しています。
 その中に小学校4年生のA君がいました。前年のクリスマスに買ってもらったゲーム機がマイブーム。放課後は友達とのゲームが習慣となっていました。
 5年生になると、まわりの友達がスマホを持ちはじめました。クラスにLINEグループができ、その中で盛り上がった会話をクラス内で話す子も。オンラインゲームもできると聞き、A君はスマホが欲しくなり両親に頼みました。
 すぐにスマホを買ってもらえたA君は、さっそく友達数人とオンラインゲームをするように。みるみるうちに夢中になっていきました。
 Wi-Fi環境がないとスマホを使うのが不便なため、公園に行くことはもうありません。家にいながら友達とつながることができるスマホ。画期的なアイテムを手に入れて、A君は楽しく放課後を過ごしているように見えました。

▶ スマホ依存の症状があらわれ不登校に
 スマホの使用頻度がどんどん上がっていったA君。次第に今まで見られなかった様子が表れはじめた5年生の2学期。A君の両親は、担任からの紹介でスクールカウンセラーのもとをはじめて訪れました。

スクールカウンセラー・ヨウコ(以下、スクールカウンセラー):担任の先生より、息子さんのことで悩んでいるとお聞きしました。

A君ママ:はい。昼夜逆転していて、朝起きられない状態です。最初は遅刻しながら行っていましたが、夏休みが明けてからはほとんど通えていません。

スクールカウンセラー:それは大変でしたね。原因として何か思い当たることはありますか?

A君ママ:(しばらく言葉に詰まって)……スマホです。5年生になってから買い与えました。朝から晩までスマホを見ています。ゲームをしたり、インスタグラムを見ていたり。

スクールカウンセラー:そうなんですね。スマホから離れる時間はありますか?

A君ママ:いいえ。お風呂場やトイレにも持っていきます。最近では食事の時間に呼んでも来なくなり、外出も嫌がるようになりました。外食に行こうと誘っても「今、友達とゲームしている」と。家族の時間よりもスマホが大事なのかと……。(涙ぐむ)

スクールカウンセラー:それはとてもつらい状況ですね。息子さんとスマホについて話し合いはできそうですか?

A君パパ:話をするのは……、とても難しいです。ついこの前も、息子が食卓の上にスマホを置き、LINEで通話しながらパンを食べていたので「いい加減にしなさい」と𠮟りました。

それから、スマホを取り上げようとすると、息子が激高して私に暴言を吐いてきたんです。スマホを取り返そうと暴力もふるってきて……。

A君ママ:「ご飯をしっかり食べなさい」と言っても、スマホに夢中でちゃんと食べません。夜中もずっと起きているので、朝方に寝落ちしてしまうんです。

「頭が痛い」といつもイライラしていて親や兄弟に暴言を吐きます。兄弟のフォローも必要だし、私たちも精神的につらくて……。親としての自信もありません。(涙が止まらない)

A君パパ:実は、息子がスマホアプリで高額な課金をしていたことが分かりました。妻のクレジットカード番号を入力したようです。正直、とても情けなくなってしまい、息子のことも信じられなくなってきました。

こんなことは担任の先生にも話せないし、どうしたらよいのか分からなくて……。何か方法はあるのでしょうか?

スクールカウンセラー:つらい状況をよく話してくださいましたね。今のお話だと、息子さんは「スマホ依存」の可能性があるかもしれません。スマホ依存は早めに治療が必要ですので、息子さんに合った方法を一緒に考えていきましょう。

▶ 「病院受診はゴールではない」
 最初の相談から数ヵ月後、6年生になったA君の両親は再びカウンセリングに訪れました。
 A君は学校でのカウンセリングを嫌がったため、自治体の教育相談に行くようになり、病院受診をすすめられました。

スクールカウンセラー:その後のA君の様子はいかがですか?

A君ママ:特に大きくは変わっていないのですが、先月初めての病院受診をしました。予約をしてから半年待ちで、その間に心が折れそうでしたが、なんとか受診できてホッとしています。

A君パパ:医師からスマホ依存は治るのに時間がかかると聞きました。病院に行けば治る、状況が変わると思い込んでいたので……。私も妻もかなりショックを受けています。

A君ママ:息子は相変わらず学校には行けないし、自宅に引きこもりの状態です。友達とはスマホでつながっているようで安心していますが……。

息子をこんな状態にしたのもスマホだけど、外とのつながりをつくっているのもスマホなんですよね。頭の中がすごく混乱していて「これからこの子はどうなってしまうんだろう」という不安でいっぱいです。(涙が頰をつたう)

スクールカウンセラー:話してくださってありがとうございます。つらい気持ちはどこかで吐き出さないと、体や心に悪い影響をおよぼしてしまいます。よかったらご両親だけでもこちらに通ってください。何かお力になれるかもしれません。

▶ 「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント
 A君の両親はその後、1ヵ月に1回のペースでカウンセリングに訪れました。病院の医師にも相談を続けており、A君との関わり方やスマホ依存の知識を学ぶ中で、考え方に変化があったようでした。

A君パパ:息子に聞いてみたんです。「何か悩みがあるのか?」と。そのときは何も返ってきませんでしたが、別の日に、「お父さんも気持ちが沈んでいたとき、現実逃避がしたくてパチンコばかり行っていたな」と話しかけてみたんです。
 すると、息子の表情が少し変わって、久しぶりに他愛もない会話ができました。息子の悩みは今も分かりませんが、きっと何かあるんだろうなと感じています。

スクールカウンセラー:息子さんとのコミュニケーションができてきましたね。パパは何か心境の変化があったのですか?

A君パパ:はい。病院から紹介された「家族会」でヒントをもらいました。スマホ依存や、ゲーム依存の子どもを持つ親の会ですが、同じ境遇の方と話すうちに子どもと、もっとかかわることが大切だと気づいたんです。そこで、息子とつながるにはどうすればよいか、考えるようになりました。

スクールカウンセラー:それはよかったです。ママのほうはどうですか?

A君ママ:息子は病院やデイケアを嫌がりはしませんが、積極的に行こうとはしなくて。医師や心理師からは「焦らずに。見守りながら、できたことを認めましょう」と言われています。
 以前だったら「うまくいかないことばかり。もう逃げ出したい!」という気持ちでいっぱいだったと思います。でも今は、この相談室でも自分の気持ちを話せますし、病院や家族会の人たちも助けてくださる。
 まわりから見たら何も変わっていないのかもしれませんが、もし話せる場所がなかったら、皆さんとつながっていなかったら……、きっと前には進めなかったと思います。

スクールカウンセラー:少しずつ親子関係にも変化があらわれていますね。

A君パパ:そうなんです。今度、息子と一緒に町内のお祭りを手伝うんですよ。息子の友達も参加するから、「それなら行こうかな」と言ってくれて。当日になったらどうなるか分かりませんが。
 でも、こんなふうに息子のことを誰かに話せるようになったのは、すごく大きな進歩です。

スクールカウンセラー:そうですね。本当に頑張っていらっしゃると思います。息子さんが元気になると信じて、少しずつでも前に進んでいきましょう。

 A君のご両親は、現在でもA君に合ったスマホ依存の治療方法を模索し続けています。病院受診をきっかけに、いろいろな人のアドバイスを受けたことで、確実に親子の距離は近くなっていると感じました。
 いつかきっと、A君は両親に本当の悩みを打ち明けてくれるでしょう。A君との心の距離に悩むご両親を、さまざまな人とのつながりと支援で変化が訪れたと気づかされたケースでした。
「病院に行けばスマホ依存が治ると思っていたのに」やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされるママパパは少なくありません
「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たち。そんな思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関です。
 公認心理師として言えるのは、苦しいときほど、人とつながってください、ということ。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれるでしょう。