「リストカットは自殺未遂ではない、生きるためにしている」
と某番組で耳にしました。
でも自殺者のデータを見ると「自傷歴あり」という言葉も目につきます。
・・・どう考えればいいのか、わかりません。
リストカットを繰り返す中学生、
ココロの問題を相談しようと精神科を受診しても、
「ここは高校生から」と門前払いされるという話も聞きました。
彷徨う思春期の自傷行為を止められない子どもたちに、処方箋はあるのでしょうか。
精神科医の松本俊彦先生を取材した記事が目に留まりましたので紹介します。
親がリストカットに気づいたとき、
「やめなさい!」
ではなく、
「何があったの?」
と声をかけるのがよいと書いてあります。
・・・あれ、このフレーズ、どこかで聞いたことがあるような・・・
そうそう、幼児の兄弟ゲンカの際、上の子に
「やめなさい!」
ではなく、
「何があったの?」
と声をかけましょう。
と育児本に書いてあるのですね。
その行為に至った子どものココロを見つめることが大切、ということ。
また、自傷行為は“悩みを痛みで解消する”という面があり、
例えていえば、オーバードーズ、過食・拒食、仏教の厳しい修行にもその要素がある、
という説明に一部頷きました。
そして気になったキーワードは「解離状態」。
人間はあまりにもつらい体験をするとそれから逃れるために“意識を飛ばす”ことがあります。
もう1人の自分を作り、そこに逃げ込むことで本能的に自分を守る。
小説や映画でよく扱われる「多重人格」は、
幼児期に受けた虐待の記憶から逃れるための解離という説もあります。
そんなトラウマを抱えた子ども達に、周囲の大人は何ができるのでしょうか?
<ポイント>
・女子中高生の12.1%はリストカットの経験がある。一度でもリストカットをしたことのある人のうちの6割が、10回以上繰り返していた。
・彼女たちの多くは、怒りの感情をストレートにぶつけられず、つらい記憶や感情を打ち消すために自傷してしまう。自分では手に負えない感情に対処するため、つらい感情を一時的に緩和するための行為、それがリストカットだ。
・歴史を遡っても、人間は耐え難い心の痛みや困難を克服するのに身体の痛みを使ってきた。1980年代には、居場所のない子どもたちが煙草の火を腕に押し付け合う根性焼きという現象が見られた。根性焼きもリストカットも自傷行為。細かく考えれば、聖書にも自傷と思しき描写があり、禅宗では僧侶が過酷な修行をする、あれも自傷的である。
・歌舞伎町を居場所とする中高生を「トー横キッズ」と呼ぶ。家に安全な居場所がなく、人の繋がりを求めて歌舞伎町に集まってくる女の子たちの多くが、カミソリやカッターナイフで自らの腕を傷つけるリストカットをしている。
・本人ははっきりと言葉で説明することができないが、われわれ精神科医が整理すると、それは、怒りや恐怖、緊張がごちゃまぜになった、名前をつけることのできない強烈な感情。生きているのか死んでいるのかさえわからない不気味な感じ。その感情が心に渦巻いている状態から回復するために、本人は解離状態になる。自分自身から解離することによって、言葉にならない強烈で不気味な感情をリアルに感じないで済む。でも、つらい感情が去ったあとも解離状態が続いていると気持ちが悪い。それで腕を切る。すると最初は痛みを感じないのが、ザクザク切っているうちにだんだん痛みを感じるようになってきてそこで現実を取り戻す。
・死ぬことを目的として行為の結果を予測して自分の体を傷つける自殺に対し、非致死的な結果を予測して傷をつけるリストカットは、生き延びるための行為なのだ。
・一方で、10代での自傷行為経験者の10年内自殺既遂リスクは400~700倍にもなる。長期的に見ると自殺の危険因子でもある。生き延びるために自傷を繰り返す少女たちだが、初めての自傷の際には死のうと思っていたというケースが実は多い。死にたいと思いつめて自傷したけれど、失敗した。ところが、死にたいくらいつらい状況を一時的に生き延びるのに自傷は役立つと発見してしまう。リストカットによる苦痛の緩和が報酬となって、自傷が常習化していく。依存性があるため効き目が弱くなっていって、当時と同じ効果を維持するために頻度や程度がエスカレートする、また、手段や方法が過激になっていく。
・市販薬や睡眠薬を過剰服用するオーバードーズや、過食・拒食も、自分を傷つける行為だ。オーバードーズは、つらい記憶や感情がフラッシュバックした際に、死にたい、消えたい、怖いといった意識をシャットダウンすることができる。だがだんだん効きが悪くなるため致死量を超えて服用してしまう危険がある。
・自傷行為は子ども時代に体験した家族ドラマを象徴的に再現しているという説がある。切る自分と切られる自分とその一部始終を無力感を持って眺めている自分、それは暴力を振るうお父さん、殴られているお母さん、両親がこんなに中が悪いのは、私が生まれたからこうなったんだと勝手に意味付けしてしまう子ども自身という三者をリストカットによって再現している。
・風俗も自傷行為と捉えることができる。外来で診ているリストカットする女の子たちの多くが、風俗でバイトしている。風俗をする子たちの多くが子ども時代に性的な虐待や身体的な虐待を受けていて、自分は大事じゃない存在なんだという意識が染み込んでいる。風俗で見知らぬ男性に抱きしめられているとこの世にいていいんだという感情を持つことができると松本氏に話したある女の子は、その繰り返しによって少しずつ自己愛をためていき生き延びられている。
・もしリストカットに気づいたら「何があったの?」と言葉をかけてほしい。頭ごなしに「やめなさい」と言うのは意味がない。最も苦しいのは本人だ。周囲の大人にできることは、感情的にならずに、自傷について話せる関係をつくること。
では、記事本文を。
▢ 決して好きで痛い思いをしているわけではない…「リストカットを繰り返す少女たち」の悲しい共通点自傷行為を「やめなさい」と否定してはいけない
三宅 玲子:ノンフィクションライター
(2023/08/11:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);
女子中高生の12.1%は「リストカットの経験がある」という調査結果がある。調査した精神科医の松本俊彦氏は「彼女たちの多くは、怒りの感情をストレートにぶつけられず、つらい記憶や感情を打ち消すために自傷してしまう。親など周囲の人は、頭ごなしに否定するのではなく『何があったの?』と声をかけてほしい」という。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが聞いた――。
▶ なぜ少女たちは自分の腕を傷つけるのか
新宿・歌舞伎町で警視庁が「トー横キッズ」の一斉補導を実施し、26人が補導されたと報じられたのは、夏休み直前の7月16日だった。歌舞伎町を居場所とする中高生をトー横キッズと呼ぶ。ここ数年は低年齢化が進み、文字通り、小学生のキッズも紛れ込んでいる。
家に安全な居場所がなく、人の繋がりを求めて歌舞伎町に集まってくる女の子たちの多くが、カミソリやカッターナイフで自らの腕を傷つけるリストカットをしている。援助交際やデリヘルなどに入り込む女の子もいて、彼女たちのリストカット率は極めて高い。
彼女たちがリストカットをせずにいられないのはなぜなのか。そのわけを依存症の研究者で精神科医の松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)に聞いた。
女子中高生の12.1%。これは松本氏が行ったリストカットに関する調査結果だ。さらに、一度でもリストカットをしたことのある人のうちの6割が、10回以上繰り返していた。実は女の子たちにとってリストカットは遠いものではないのだ。
▶ 心の痛みを克服するために身体の痛みを使う
自分では手に負えない感情に対処するため、つらい感情を一時的に緩和するための行為、それがリストカットだと、松本氏は語り始めた。
「居場所のない子どもたちが煙草の火を腕に押し付け合う根性焼きという現象が見られたのが80年代でした。根性焼きもリストカットも自傷行為です。細かく考えれば、聖書にも自傷と思しき描写がありますし、禅宗では僧侶が過酷な修行をする、あれも自傷的です。歴史を遡っても、人間は耐え難い心の痛みや困難を克服するのに身体の痛みを使うというのがあったと思います」
松本氏は薬物依存症をはじめ依存症を30年にわたり研究している。リストカットは2000年代に入ってその数が目立ってきたという。女の子がリストカットをする際、心の中ではどのようなことが起きているのか。
▶ 生き延びるために自傷を繰り返すのだが…
「本人ははっきりと言葉で説明することができないのですが、われわれ精神科医が整理すると、それは、怒りや恐怖、緊張がごちゃまぜになった、名前をつけることのできない強烈な感情です。生きているのか死んでいるのかさえわからない不気味な感じです。その感情が心に渦巻いている状態から回復するために、本人は解離状態になります。自分自身から解離することによって、言葉にならない強烈で不気味な感情をリアルに感じないで済むのです。でも、つらい感情が去ったあとも解離状態が続いていると気持ちが悪い。それで腕を切るわけです。すると最初は痛みを感じないのが、ザクザク切っているうちにだんだん痛みを感じるようになってきてそこで現実を取り戻すのです」
死ぬことを目的として行為の結果を予測して自分の体を傷つける自殺に対し、非致死的な結果を予測して傷をつけるリストカットは、生き延びるための行為なのだという。それでも、10代での自傷行為経験者の10年内自殺既遂リスクは400~700倍にもなる。長期的に見ると自殺の危険因子でもある。
また、生き延びるために自傷を繰り返す少女たちだが、初めての自傷の際には死のうと思っていたというケースが実は多い。
▶ オーバードーズや摂食障害も「死」と隣り合わせ
「死にたいと思いつめて自傷したけれど、失敗した。ところが、死にたいくらいつらい状況を一時的に生き延びるのに自傷は役立つと発見してしまうわけです。リストカットによる苦痛の緩和が報酬となって、自傷が常習化していく。依存性があるため効き目が弱くなっていって、当時と同じ効果を維持するために頻度や程度がエスカレートする、また、手段や方法が過激になっていきます」
市販薬や睡眠薬を過剰服用するオーバードーズや、過食・拒食も、自分を傷つける行為だ。オーバードーズは、つらい記憶や感情がフラッシュバックした際に、死にたい、消えたい、怖いといった意識をシャットダウンすることができる。
だがだんだん効きが悪くなるため致死量を超えて服用してしまう危険がある。昏睡こんすいするほどに効かず酩酊めいてい状態になった場合、衝動のコントロールが悪くなり、つらいという感情から自殺念慮が生じて飛び降り自殺や首吊り自殺の衝動に突き進んでしまうこともある。
▶ 「何があったの?」から始まる関係がある
頭ごなしに「やめなさい」と言うのは意味がない、そして、もしリストカットに気づいたら、「何があったの?」と言葉をかけるよう松本氏は勧めた。
「親はショックかもしれません。でも、感情的に反応すると余計にエスカレートしたり隠すだけになったりします。何かあったの? と尋ねてみても、本人は言葉にすることはできないと思うのですが、次、切ったらちゃんと教えて、と親御さんは娘さんに語りかけてほしい。自傷について親子で話せるようにして、ひどく切ってしまったときや切っても効き目がなくなったときに、早めに教えてもらえるような関わりをつくった方がいいです」
だが、親との間にそのような対話が成立していれば、そもそも女の子たちは自傷しないのではないか。ところが、松本氏は、そこから対話が始まった家庭があると、次のケースを話した。
その家庭では、母親に過干渉の傾向があった。娘がリストカットをするのに気づいた母はしばらく気づかないふりをして時期を過ごしたが、不安になり松本氏の勤務する病院に相談に訪れた。そこで母親はリストカットとはどういう行動なのか説明を受け、感情的にならずに娘のリストカットに向き合う方法を学んだ。
▶ 親が「育て方が悪かった」と自責する必要はない
「リストカットが少なくともすぐに死ぬ行動ではないこと、今すぐ死ぬのを延命している行動でもあること、でも上から押さえつけると、リストカットの背景を話せなくなってしまう、というメカニズムを、お母さんに説明しました。その結果、親が感情をコントロールして向き合えるようになったのがよかったのでしょう」
親に対してのアドバイスを求めると、松本氏はこう話した。
「自分の育て方が悪かったんじゃないかと言うお母さんもいらっしゃいますが、自責するのはおかしい。どの家にも問題はあるわけですから。年をとってから子どもに爆発されるのではなくて、今、たまっていたものが出た、ということで、それをきっかけに、自分たちの家庭のあり方について、修正すべき点はどこなんだということを早めに言葉にして話し合う。そして自傷について子供と会話できる関係をつくっていったほうが良い」
自傷行為の背景や言葉にできないつらい感情の程度には、女の子一人ひとり、グラデーションがある。複合的な自傷行為へと進んでしまった末に自殺念慮が強まった結果、自死してしまった患者も残念ながらいるという。
▶ 「自分は大事じゃない存在だ」という悲しい意識
「例えば僕が外来で診ているリストカットする女の子たちの多くが、風俗でバイトしています。風俗をする子たちの多くが子ども時代に性的な虐待や身体的な虐待を受けていて、自分は大事じゃない存在なんだという意識が染み込んでいます。僕の調査では、精神科外来に来る10代の女の子の67%が深刻なトラウマを抱えていました。人生のどこかで暴力の持つパワーを体験している人たちです。
精神分析の専門家の中には、自傷行為は子ども時代に体験した家族ドラマを象徴的に再現しているという説を述べる人もいます。つまり、切る自分と切られる自分とその一部始終を無力感を持って眺めている自分、それは暴力を振るうお父さん、殴られているお母さん、両親がこんなに中が悪いのは、私が生まれたからこうなったんだと勝手に意味付けしてしまう子ども自身という三者をリストカットによって再現しているというのです。そういうセルフイメージを持っている女の子たちが、風俗やAV出演の誘いに敷居が低くなっているのは間違いありません」
風俗も自傷行為と捉えることができる。風俗で見知らぬ男性に抱きしめられているとこの世にいていいんだという感情を持つことができると松本氏に話したある女の子は、その繰り返しによって少しずつ自己愛をためていき生き延びられている。一方で、風俗で働くうちに自傷がエスカレートして性的なトラウマの蓋が開き、覚醒剤に手を出してしまった女の子もいる。
「物事にはポジティブとネガティブの両面がある、その最たるものが自傷行為だと思います。だから、自傷を頭ごなしに否定するのは意味のないこと」
▶ 精神科医が「話を聞くことしかできない」と言う理由
親との関係をはじめ、人によって傷ついた女の子たちが、必要な出会いを得て、回復していく可能性もあるという。その土台を整える大切な場となるのが診察なのだ。だが、松本氏は意図的に女の子に期待させないようにしている。
「そもそも人を信じることのできない子たちですから、変に期待を持たせてがっかりさせることは避けなくてはなりません。ですから僕に任せてなどとは決して言いません。『できることは話を聞くことだけなんだよねー、しかも5分だけ』(笑)と最初に限界を明示して、『でも、応援しているからね』と」
そうしてなんとか嵐をしのいでいくうちに、恋愛や友達との出会いによって、女の子たちが自分から変わっていくこともあるという。
嵐が吹き荒れる間、最も苦しいのは女の子本人だ。周囲の大人にできることは、感情的にならずに、自傷について話せる関係をつくること。このスタンスを大人が心得て初めて、リストカットをせずにいられない心のうちを知る一歩が始まるようだ。