日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

「洒脱自在」

2009-08-30 16:24:04 | ファッション
副題 ー大人としてシックに服とつきあう本ー
著者:遠山周平、発行:中央公論社(2006年)

大人の男のファッションの基本を教えてくれる内容です。
著者は服飾評論家であり、かつ自分で服も造ってしまう行動派。
たくさんの蘊蓄満載で、ファッション雑誌を読んでいてもピンと来なかった用語や表現が「そういうことだったのか!」と理解できました。

話は永井荷風の洋服論から始まります。
洋服は文字通り西洋から来たものであるから、そのルールは西洋のそれに従うべきだ、とのこと。
事実、スーツを着用するようになったのは明治時代であり、日本における歴史はまだ140年なのですね。

サイズ表示の見方など基本ルールから、自分のカラダに合う服の考え方、見つけ方、そしてたまった在庫から処分すべき基準まで示してくれます。
一つ一つが勉強になりました。

■ 日本ではスーツには白シャツが基本であるが、西洋では淡いブルーが基本である。白シャツは汗をかかない上流階級が着るものであり、サラリーマンを含めた労働者はブルーシャツである。これはホワイトカラー、ブルーカラーとしても表現され、日本人は少々誤解しているようだ。

■ 西洋ではシャツとネクタイの組み合わせを重視するが、日本人はシャツとネクタイとスーツのバランスまで考える。西洋の油絵と日本の水墨画の違いを感じる。つまり、西洋的にはスーツは額縁になるが、日本ではスーツも画の一部でグラデーションを重視するということ(なるほど!)。

■ 西洋では人前で靴を脱ぐことは下着になるのと同程度に恥ずかしいことらしい。一日中履いていると夕方には足がむくんできつくなる(足の大きさは朝と夕方では異なる)ので、調節できる紐靴が標準となっている。湿度の高い日本では靴を一日中はき続けるのはつらく、脱いだり履いたりの繰り返しなので慣れないと大変(そこでスリッポン、ローファーが愛用されるのですねえ)。

■ ウイングチップの由来;イギリスのカントリー(つまり田舎)で履かれた靴。ヒースなどの草が積み重なった湿原を歩くときは濡れてしまう。防水性を強化するため、つま先・側部・かかと部分などの革を二重にしたのが原型。しかし水分を含んでしまったあとの二重革は水はけが悪く、速乾性を高めるために革の表面に小さな穴をたくさん開けたのがメダリオン(穴飾り)の始まりだと言われている。

■ ベルトは愛用していると弓形にしなってくる。上質のカーフでないとこうはいかない。

■ チノパンの語源;チノクロスパンツ、略してチノーズは、アメリカの陸軍で採用されたカーキ色の綿パンツのこと。チノとはチャイニーズを縮めた名前。アメリカ軍が南方用の軍服(第一次世界大戦頃)を作るとき、中国で生産された丈夫な綿の綾織物をイギリスを通して購入したために、この名称が使われるようになった。カーキ色は負傷時に対応するために考えられた色。赤い血の色を見るとパニックに陥る兵士は多い。しかしカーキ色の生地は血を含むと黒変し、パニック防止となるわけ。

■ アメリカの太ったおじさん達がジーンズをはきこなせるのには理由がある。彼らは上半身がブクブクでも、腰の位置が高い。また、膝から下が細く長いために、裾が狭くできているジーンズの良さを生かしてはくことができる。一方、日本の中年男性はシルエットが細いためにはきこなしにくい傾向がある。

■ ジーンズの「タテ落ち」の正体;ジーンズの濃い藍が薄く変化していく過程で、縦糸の一部に青い色が残った状態を表し、ヴィンテージ・ジーンズの特徴の一つ。これは昔のデニム地が不均一だったために起きた現象、いわばタテ落ちは紡績技術が未熟だった証である。

■ 車を運転するときはマッケイ製法の靴がよい;良い靴は重厚なグッドイヤーウェルト製法というイメージがある。一方マッケイ製法は軽快で、靴底を薄くし、靴のコバの出っ張りを少なくできるので、微妙なアクセルワークも可能。車好きの方にも推し。
※ 私はトリッカーズのカントリーシューズを履いて車に乗るとアクセルを踏む際に靴先がつかえて困ってます。

■ 日本にTシャツが登場したのは第二次世界大戦以降のこと。本来下着であるTシャツは人前で見せる物ではなかった。それをアウターウェアとして認知させたのは「勝手にしやがれ」というフランス映画のヒロインがアルバイトの際、販促用のTシャツを着ていたことが始まりだった。


通読して感じたのは、伝統的な上質素材で造られている服は使い込むほどに唯一無二の味わいが出て手放せなくなる(著者は「スティル・グッド」と呼んでいます)けど、化繊混紡のものは使い込むと棄てたくなるなる、ということ。
例外として、スーツに合わせるシャツは混紡でも上手く使いこなせばOKと記しています。形状記憶など便利ですからね。カジュアルシャツはオックスフォード・ボタンダウンがベター、これにはブルックスブラザー好きの私も大賛成です。

飴色に焼けた濃い茶の鞄、使い込んでよれたコットンギャバジンのコート、履き込んで自分の足にフィットした革靴はソールが減ったら張り替える・・・ウ~ン、イギリス的でいいなあ。
私は昔からエルボーパッチ付きのツイードのジャケット、茶色のウイングチップを見ると惹かれてつい購入してしまう傾向があり、結構たまっています。
これはイギリスのカントリージェントルマンの出で立ちなのですね(このフレーズ、以前にも書いた記憶が・・・)。


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