今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

落ち着いて考えれば・・・

2015-03-30 15:02:33 | あの日、あのとき


最近はテロやなぜ?と思うような航空機事故が多いのが気になる。

あれはもう何年も昔の事だけれど、南米に行った帰りの事、何度も乗り換えて、そのたびに乗り換えの待ち時間が長くて、それでいて、乗り継ぎの飛行機がいつ出るのかわからない、ただ待つだけの耐え難い時間!どこでも眠れる人は良いが、私は眠れない人間なので、最後の乗り継ぎのニューヨーク、ケネディー空港で惨めな大失敗をしでかした、今も思い出すと恥ずかしくて、ひや汗が出る。

なにしろ、長い時間寝ていないのと、20日近い山旅の疲れから、ちょっとした判断もできなかったようで・・・

ケネディー空港で、あれは多分、正規の出口ではなかったのだろう!
なにを、どうしてあのドアを開けたのか?ドアを開けた瞬間に<クマみたいに大きな黒人の男性に両手で押さえられてがんじがらめ>そのうえ、頭の上から大声でまくしたてられ、私は、頭が、真っ白、何が何だかわからなくて、怖くて、泣きそうな状態になってしまった。

私はこれからどうなるのだろう、ただ怖かった!

落ち着いて考えれば何のことは無い!
一歩違ったドアを開けたらそこは<アメリカ>だった!
正規の出口ではないから<不法入国者>になるところだった!

セキュリテーを通れば何のことは無い!<無事通過>

今、思うに、現在だったら、銃で撃ち殺されても仕方なかったかも?

何とか、アメリカ入国が出来て、その夜はニューヨーク泊!
あの有名な、ティファニーのお店の近くのホテルに泊まって、その夜のデナーは、美味しいステーキだったそうだけれど、私はおなかが痛くて・・・
その次の日はニューヨーク観光だったけれど、<自由の女神>もその他いろいろといったようだが、私はただ、バスの中・・・

もう一泊したかどうかは忘れたが、飛行機に乗ったは良いが、その年のニューヨークは何年かに一度の大雪で、飛行機は雪かきを何度も、何度もして、長く待たされたが、無事飛び立ち帰国できた。

十数か国の山旅で、その時、それぞれに思い出深い、忘れがたい出来事があった、今、テロや世界情勢の変化で、私が旅した頃とは違う怖さがあるのだろうと思う、旅は良いものです!
私の今は、国内の旅もなかなかできないけれど、小さな旅くらいは出来る体で居たいです。

<歩いて><歩いて>

素晴らしき出逢い

2015-03-26 17:27:28 | 「美しき人」からのおくりもの

私に、生きる事,命の大切さを悟してくれた出逢い!
美しき人「ビョンホン」さんの素晴らしき感性に魅せられて・・・

日本と韓国の関係が気になる、ファンとしても、ひとりの日本人としても、両国の良い関係であってほしい。

下の詩はチャンイの頃にこんな詩を書いてました、純粋な想いでいたいから・・・
載せてみました。


何を語りたいのですか
何を伝えたいのですか
今、瞬間の戸惑いを感じさせて
私をみつめてくれるように
美しい瞳が語りかけて来てくれるような
いつもこの扉を開けると
貴方の輝きに私は立ち止まる

ふと、あの素敵なお声が聞こえて来るように
深い思いと美しい微笑みが
伝える勇気に励まされて
つよい一瞬の輝きを放つ時
あの、チャンイなのでしょうか
それとも愛しき人への愛に悩む
暗黒街のボスなのでしょうか

それともご自身の心に
新たなる思いを感じられて
あつい思いに心震わせているのですか
貴方のその憂いにみちた姿に
エネルギーを感じて立ち止まる
あの眩しいほどに心揺れる表情に
ひと時のストリーに酔いしれて
今日がはじまる・・・


遠い昔の物語

2015-03-23 20:05:02 | ひとりごと

最近の私は、どうしたことか、昔の事ばかり思い出す。

あれはもう50年以上前の事だけれど、私は18歳で東京に出てきて、働き出した、私の故郷は福島県の山奥の村だった。

ある日、どうゆういきさつであの本を手に入れたのかはもすれてしまったけれど、ある週刊誌だったと思うが、あの時代に田舎でこと、週刊誌など見る事さへ珍しい体験だった。

今、考えてみると、あのことが私の運命の分岐点だった。
その週刊誌の中の一枚の絵「北川民治」の絵に心が釘づけになって、頭から離れなくなった。

確かに絵を描くのは好きだったけれど、その時の感情が理解できなかった、ただ、何故か、東京に出たい、行かなくてはと、強い思いになって、思い切って家族に「東京で就職したい!」
東京に行かせてほしいと言った事を覚えている。

四女の私はこのまま田舎で暮らす必要もないので、家族はむしろ私の申し出を喜んでくれて、ただし、就職先は限定された。

それまで、東京に親戚がいたことなど知らなかったが、なんでも遠い親戚なんだとか、確かなことはもう忘れてしまったが、従業員が数名の小さな印刷会社だった。

東京に出てしばらくは社長の家に住み込みで、印刷の仕事以外にも家事を手伝いして、自由になる時間はほとんどなく、私自身が思い描いてた東京ぐらしとはほど遠いものだった。

そんな中で不思議に思うことがあった!月に一度くらいの割合で会社に訪ねてくる人がいて、30分くらい社長と話しては、社長から封筒を受け取りながら、何となく違和感を感じる空間が不思議だった!
何度かそんな光景を見ていて、不思議に思い、思い切って社長の奥さんに聞いてみた「あの人は誰ですかと!」

かえってきた答えが!「あの人は毎月来る社長の友人で学友だと」帝大(今の東大)卒業のエリートで終戦までは満州で成功した人だそうだ!だが、戦争が終わって18年も過ぎてるけどいまだに仕事もなく学友や知人をたより歩いてお金を受け取ってるそうだ!と、奥さんは苦笑いの顔で答えてくれた、

私はふと、父を思い出した、私の父も戦時中は軍属で朝鮮にわたり仕事に成功して羽振りが良かったとか、私は朝鮮で生まれている、昭和20年に引き上げてくるときには財産のほとんどを置いてきたことで、父は死ぬまで酒に溺れた、荒れた生き方しかできなかった人だった!

今、思い出すに、このエリート満州帰りの人と私の父も、世渡りのへたな、負け組の人生を歩いたのだろうと、複雑な心境になる・・・



旧友との再会を願いながら・・・

2015-03-16 11:33:39 | 生きて行くこと

70年の歳月を生きて、今、思うようには動けないからだをいたわりながらも、小さな我が家でも、昔から、整理整頓のダメな私は、物を捨てるのも苦手だから、家のどの部屋にも荷物があふれてる。

もし、私に何かがあった時、困るのは家族だから、せめて今出来ることをやっておこうと!思うだけで毎日が過ぎていく・・・

まずは、私の生きがいでもあるブログの更新のために写真の整理から始めようと、重くて動きの悪い、古いパソコンを新しいものと買え変えたら、さぁ~大変、私の出来る「パソコン技」は全部ダメ!なにしろ私は自己流、独学で覚えたに等しい・・・

そんなわけで新しいパソコンになってからは、悪戦苦闘の連続だ、だが、こんな私でもなんとかなるもので、今、やっと、写真の取り込みが出来るようになった、55インチの大きなテレビ画面にパソコンをつなげて大きく映しても、眼がよく見えないし、痛みがあるので長くは続けられないけど、それでも、写真の取り込みやブログの更新が出来たときは嬉しくて楽しい!

今、心惹かれる一枚の写真、数年前に、40数年ぶりに再会出来た旧友との写真が出てきた、テレビ画面でうつるふたりの顔、懐かしい青春の思い出とはちがう姿かもしれないけれど、あの青春の日々、毎日のように語り合った友、!!!

<私は貴女にとても刺激を受けていました>

あの頃、あなたに出会っていなかったら、今とは違う人生だったかも知れないと思うのです。
貴女から受けた好奇心、そして、何かを学ぶ心を貴女からとても刺激されました。

もちろん、他のたくさんの事、私の知る狭い世界から、もっと広い世界(世の中)のある事を学んだとも思うのです、あの数年間を共に過ごした時間は私の<青春の日々の宝>だと思っています。

歳の違う大人たちの中で仕事をしていて、友と呼べる人も私の周りにはいなかったから、若き日の出会いは本当に嬉しかった、あの時期がなかったら、私はどんな大人になっていたでしょう、今、50年近い歳月が過ぎて、あの頃のことがとても懐かしいです。

眼と耳がダメになって、再会を願いながらも連絡をとることも躊躇している自分が情けない思いですが、思い切って電話をしてみようかと、今日は決心したところです!









いつも感謝しています。

2015-03-14 15:56:53 | 生きて行くこと

たくさんの方々のご訪問頂きまして、つたない言葉(文章)をお読みくださって、本当にありがとうございます。

一時期はひらがなも思い出せないほど記憶が曖昧で、不安の中でブログの更新を続けてこれたのも、皆様のご訪問、そしてお読みいただける事の喜びを感じて、耳や眼の不自由さにも耐えて頑張れる元気をいただいています。

これからもよく見えない眼をいたわりながら、思いつく言葉をつづっていけたらと願っています、どうぞよろしくお願いいたします。

皆様に
<感謝、感謝です!!!>

今日、何事もない幸せ
明日はきっと
今日よりも元気になれる

春風が
しみる眼の痛さも軽くして
さんぽ道の花の香り優しく

生きる道の楽しさを知る
季節がかわる風の匂い香し




どうしたら良いのだろう・・・

2015-03-12 15:35:03 | 生きて行くこと

今日は3月12日
昨日は、いえ、いつだって
あの日3月11日を
忘れることは出来ない
4年の歳月が過ぎて行っても

あの日から私は故郷に戻ってはいない
私の故郷「福島」へ
帰郷したいと思うけれど、心と体が動けない
今も福島には肉親がいる、不安がつのる
どんな思いで、暮らしているのかと

そんな気持ちを逆なでするように
伝えくる<原発事故、事故>の4年
何も変わらぬ、いえ、むしろ戸惑いと不安を募らせて
それでもなを原発を稼働させるのだとか
10年後、20年後、100年後の日本は
<核>のごみにうずもれてしまうのだろうか

聞くところでは「放射能の汚染」が薄れるのは500年も先だとか
今、この世に生きている人はそのころは誰もいない!
だから、責任など感じないと言うことなの?

起きてしまった<原発事故>を無かった事にはできない
過ぎた時間はもとに戻すことは出来ない
覆い隠すこともできない
<原発事故>の責任を誰がとるのでしょう
地震は天災、これからも起きることだと思う
けれど<原発事故>は人災だ、

知恵ある人間、権力欲ある者の起こした人災だ
日本国の発展には必要な技術で、経済の救い主かもしれない
けれど、人間に牙を向けた今だからこそ
立ち止まって考えましょう、
「地震大国日本」に安全な原発があり」
稼働出来る<絶対的安全を保障出来る原発>

私のような一国民は不安ばかりが募ります

100年後の日本、その頃は自分がいないと思わずに
100年後の日本を思い描いてください

<お願いです>
知恵ある、学者、科学者さまへ
利権や権力を持つ方々へ
何もできない一国民からのお願いです!!!

愚痴ってもいいかしら・・・

2015-03-09 15:16:17 | ひとりごと


 ☆いつ、逢えるのだろうか、この美しき姿に、待ちくたびれて…☆


今に始まったことではないが、どうしてこうも紛争や戦争が収まらないのだろうと思う、大きな戦争ではないかもしれないが、地球上のあちらこちらで殺し合いをしている。

テレビドラマや映画を観れば、人を簡単に殺す場面を嫌でも観ることになる、この歳、70年も生きていれば良いことも嫌な思いもたくさん経験してきた。

人間はいつかは死ぬ、誰もが逃げることのできない事、特に私は何度も死を覚悟したことで<命>の大切さをより身近に感じている、だからこそ、この地球上で不本意な殺され方をする人が一人でも少なくなる事をを祈るばかりだ・・・

先日、ある韓国の映画をテレビで観ていて気になる、イラついた言葉があった、映画の中の大統領の一言「いつ、つぶれるかわからない、隣の小さな島国のことなど、どうでもよい」確かそのような言葉だった。

私は韓国の映画やドラマをよく観るほうだと思っている、時代物から、現代ものまで、その中で日本にかかわる部分の描き方があまりにもひどいと感じることが多い!

ここであれこれと書き並べたてたところで、どうにもならない事だろうが・・・

韓国に政治家も中国も政治家もよく「歴史認識」という言葉を言うけれど、いつになったら今の日本の立場を認めるのだろうか・・・

確かに1910年から1945年まで日本は中国や韓国にも侵略したことは事実でしょう、けれど、中国や韓国に対しても、敗戦国としての戦後補償をして、政治決着がつき、中国や韓国と国交を結んだわけですから・・・

一国民としては、難しい政治の事はわからないけれど、隣の国同士がいがみ合うことは、なんとも気分が悪い!

世界のあちら、こしらでテロや紛争が起きている中、せめてお隣の国同士が上手く付き合えることを願わずにはいられません。

<美しき人、ビョンホンさんのファンで良かったと思い続けたいですから>

時空の記憶 (短編小説)

2015-03-09 15:15:00 | 短編小説集


(六)
祖母が、あの男をつれて、蔵に入るところを見た私は、なぜか、祖母に対して、今までのただ毛嫌いする思いとは別の軽い嫉みのような、自分の気持ちを上手く理解出来ない感情の不安定さに驚きながらも、蔵から出てくるふたりの姿を、怒りのような、落ち着かぬ心情が、なお私を戸惑わせる。

祖母が、あの男をつれて、蔵を出て来た時は、私自身も考えてもいなかった行動をする自分に又驚きながらも、私はあの男の手を取り、「戦争ごっこ」をするから来て・・・
そんな風な言葉を言って、ふたりで、祖母のそばを、少しでも早く、離れたい、あの男を、祖母から離さなくてはダメだと、とっさに思うのだった。
お前は、馬のかわりに、私を背負って走るの・・・
早く、背負って、おぶって・・・
あの森まで走るの・・・
私の心にも無かった言葉が次々と出てきて、あの男への向ける命令のような、言いようは、恥ずかしさよりも、驚きと混乱さえも覚えて、なお、強い口調で・・・
早く走るのよと、何度も、口走る私はもはや、今までの私の姿ではない、別の私がそこにいる・・・
その事に気づいた時、思わぬ姿、「鎧をまといながら走る、女武者の姿」を、一瞬見たような・・・
錯覚なのか、現実の事ではないと、思いながらも、男と私はいつしか、あの森の中をふたりで走っている、その感情は、とても、気持ちの良い、木々の香りにつつまれて、体のすべてが喜びに打ち震えている。
男の力強い肉体は、益々美しく輝き、ふたりの肉体を包む込むように飛び交う蝶の姿は、虹色に輝き、やがて、森の奥へふたりを運ぶ、虹を描きながら・・・
まるで、蝶の化身のように、七色の虹は、何処までも森を照らすひとすじの光となり、そこだけが真昼のように・・・
深い森は、一瞬の血の色に変わって、私は16歳の少女に戻った。

嫉妬する想い
この体だけが知る感覚
誰が私を導くの
人間の醜さを
人間の喜びを
今朝蝶が力なく飛び立つ
冬の寒さがもぎ取った
虹色の羽根は
地の中へ溶けて行く
まだ心だけは激しく燃えているのに
ひとは私を速すぎる愛だと
誰もがけぎらう愛だと言う
それでも私は愛を信じる

はじめて、あの男の存在を意識してから、もうどの位の時間が過ぎたのだろう・・・
私は、あの男が我が家に来た時を知らない、気づいた時には、冬の庭の椿がたくさんの紅色の花びらが毒々しく散り、薄雪が地面を微かに白色に変えた中で鮮やか過ぎる色が一瞬の情念を見るような景色の中の絵のような美しい姿を見たような・・・
だが、16歳の私がその景色は、男の美しさなのか、まるで、椿の花の化身のような、不思議さと驚きと、説明の出来ない欲望、私の異性への憧れを持って、あの男を見ていたのだろう。
それは、いつの頃の記憶なのか、私には幼い頃から、不思議な記憶がある、狐のお面をかぶり、たくさんの裸の男の姿がうごめき、いくつもの揺れる炎がまるで、私に向かって飛んでくるような怖さと、又、異常な白さで男達の下半身の動き、とくに、鍛え上げられた締め込みの姿は私の目の前で幾重にも乱れて動く、男達のお尻の姿が、子供心にも、美しく、なにやら、私の心を興奮させる事としての記憶が、鮮やかに残っている事だった。
今、あの男の、はっきりとした姿は、あの記憶と共に、重なりあう、私の意識と欲求、そして好奇心をそそる事であった。
祖母が常にいつごろからだったのか、あの男をそばにおくようになった。
その事が私をいらだたせて、ふと、よぎる思いは、言葉に出来ないほどの残酷さで、私は、たった今、見ていた、雑誌の口絵の描かれていた、血みどろの復讐劇を、祖母の姿に合わせて見る形相は、まるで、現実にあることのような色彩で、一瞬を描いていた。
耽美的な祖母の生き方が憎むべき事の一つとして、私の欲望のすべてを奪いながら、私をがんじがらめにしている祖母を心の中の刃が、少しずつ、研ぎすまされていくような、16歳の私は心だけが走り出している。
あの男の引き締まった青春の肉体、香り立つ、まるで、あの森の巨木の放つ、私を包み込んでしまうような力強さで・・・
私を歓喜の炎で体の奥深くから、焼き尽くすような感覚を覚えて・・・
私は男の名を「員・かず」と私だけの呼び名をつけた。

椿の化身の貴方は
薄雪に咲く刹那
物言えぬ哀れみを
美しき艶やかさで放ち
死をも恐れず
私を求めてくれるのか
悪しき戯れの中で
活動写真の絵のような
接吻を求める私に
悔恨と孤独を残して行く

(七)
情念を漂わせて、初雪を染めた椿の紅色も、やがて、長い冬の季節、私のすべてを変えた、あの冬、老いた体が、今もなお、熱くする、あの日の思い・・・
長い冬のはじまり、淡い雪を降らせたあと、何度かの小雪は、やがて、本格的な大雪が我が家を包み込んで白一色に、障子越しに差し込む光が、ほの暗い冷たさを、私の心は、やがて、私だけが呼ぶ、あの男の名「員・かず」を、はじめは私の心の中だけで、呼んでいたが、いつの間にか、少しずつ、声を出して呼んでいた。
それは、この家が、深い雪に埋もれていく、姿にあわせるように、私の声は大きく「員~」私のそばに来て~と、まるで、祖母に嫉妬して、声をあらだてているように、時には、狂わんばかりに、激しく、「員~」と、だが、員はいつも、落ち着き、もの静かに、顔色ひとつ変えず、私のそばに来てくれる。
員は言葉を話す事ができない、だが、耳はきちんと聞こえている。
私は、員がなぜ、話せないのか、話せなくなったのかを、員に尋ねた事があるが、ただ、にこやかなる、微笑みをたたえて、私に優しく微笑んだだけで、何も、答えなかった。
たとえ、言葉が話せなくても、言葉を書く事は出来るはず、いつも、祖母の代筆をする文字は、力強く、美しく流れるような、筆さばきは、その見事さが、私が員を恋狂いするほど魅せられるひとつでもある。
員の声が聴きたい!
私は、いつしか、その思いに駆られて、祖母の寝静まる時を待って、この隠居部屋に続く、あの男「員・かず」の眠る部屋の引き戸を、音もたてず、静かに、静かに、引いた。
そして、員の眠る薄い布団に静かに、音も立てずに、入る。
私は、生まれたままの姿になり、寄り添い、員の手をとり、員の細くて、美しく力強い手を、はじめは私の頬へ、そして、首筋へ、そして、まだ幼さの残る、かたい乳房へ、員の手の大きさが丁度よい、包み込み、優しく刺激する・・・
員は、私のなすがままに、ただ、私が員の体に顔をうずめて、員の激しくなった呼吸が私に伝わる喜び・・・
その員の手の温かくて、柔らかにすべるような、心地よさを、六十数年の時が過ぎても、あの時の、体中を流れた衝撃と喜びの感覚がよみがえる。
あの夜に、私は、聴いた、「員・かず」の囁く声を・・・
「好きだよ!!!」の声を・・・
あれは、員の心の声だったのだろうか・・・
私はあの時、私のすべてを「員・かず」に捧げた。
そして、私は魔女の心を宿して、祖母への心の刃を向ける。

雪深い、寒村の私の住む村は、春の訪れまでは、我が家ヘ訪れる人も少なくて、そのうえ、両親も今は、はじめたばかりの事業に本腰を入れているようで、この家にはいない。
通いの手伝いのおばさんも、雪が降る日は来ない事もあり、祖母と、員と私の3人で過ごす日が多く、祖母は、女の感とでも言おうか・・・
員と私の、あの夜の出来事を、感づいているようで、少しでも私が員を近づけようとすると、激しく私を束縛する言葉を浴びせては、おさえつけて・・・
<おまえの体には魔物が棲み付いている>
この言葉は、私のすべての動きを止めてしまう、息が出来ないほど、体が硬直して、祖母に逆らう事ができず、祖母のそばで、与えられた、私にはおおよそ、興味の持てない難しい本を読み聞かせてほしいと、強く、強要する姿には、みじんも優しさなど感じる事が出来ない、憎しみを強くして、怒りだけが、私の心をしめて行く・・・
雪に閉ざされたこの家の中だけが、私の世界、祖母からの束縛から逃れたい、ただ、それだけを考えている、長い一日が過ぎて、待ちかねた、夕暮れの雪明りに照らされた、障子越しの部屋に、私はひとりでいる、広い庭を隔てた場所にある、蔵の窓から、時折光が漏れてくるのが見えた。
祖母と員はあの薄暗い中で、一体なにをしているのだろうか、性の喜びに目覚めたばかりの肉体は、否応無く、あの喜びが体ごと思い出しては、現実にはありえない事だと思いながらも、祖母に対する嫉妬の思いが炎のように熱い怒り、わけもわからぬ憎しみを祖母へ向けていた。
私は、夜の闇だけを待ちわびて、員の姿だけを追い求めている。
言葉をなくした員の音の無い世界を思いながら、静かに引き戸が開けられる事を待ち、員の力強い手が私に触れる瞬間、その時の訪れを、ただただ、待ちわびる・・・
私の心は、あの夜の員の手の感触だけを思い、喜びを感じて、員の姿だけを追い求めている・・・
あの夜から、もういくたびの夜が過ぎて行ったのだろうか、祖母の寝息を確かめては、静かに、私は床を離れようとするが、その度に、祖母は、私の手を掴み、そして、明かりをつけて、私に、胸が苦しいから、そこの水指しをとっておくれ!と言い、祖母の眠るまでの長い時間を、私は、切なく、心が乱れて、そのような事を幾たびも繰り返して、朝を迎えてしまう・・・
短い、浅い眠りから、覚めて、員が祖母の為に、手桶に少し熱めのお湯を運んで、このヘヤに入って来る時を待ちながら、まだ、ぬくもりの残る布団の中で、私は、員・かずを想いながら、そーと、私自身のふくらみに触れてみる・・・
あの員のたくましい肉体を、思い出しながら、私は、この体が熱くなって行く、喜びを感じながら・・・
そして、静かに、障子が開き、朝の輝きが、尚いっそう美しさを際立たせて、員・かずは、微笑みながら、なにひとつ、変わらない、落ち着きを保ちながら、祖母の前に、湯桶を差し出す。
私の夜の苦しみ、切なさなど、知らぬような、大人の男の姿を、今、この老体にも、喜びと幸せを、思い起こさせて、よみがえる・・・
もう一度、「員・かず」に逢いたい!私のすべてを捧げた、あの日を想うたびに、私の心は、私の体中の細胞が喜びを思い出す。

雪深き里に
ふたりの熱き肌をあわせた
ただ情熱だけがふたりの
命を語る瞬間
誰がふたりを引き裂いて
誰がふたりの愛を止めて
女はぬくもりを
男は輝きを
求めあうひとつになる想い
近すぎてはかない契り

あの十六歳の私の輝ける日々から、六十年の歳月が過ぎて行ったけれど、私の強烈で、激しい愛の日々を、今も鮮やかに思い出す、現実の事だったのか、幻の事だったのか、ただ一つ言える事は、員の美しき肉体に、私のすべてを包み込んで、溶け込んで行けた日々、それは、私の人生の全てを賭けて、この胸の奥に刻み、私の生きてきた日々の支えだった事だけは、何ものへもかえられぬ、私だけの宝石だ・・・
今、私は命の尽きる時を迎えた。
あの美しい、みどり深い森に今たどり着いた時、私をやさしく迎えてくれた、物言わぬ員の美しき肉体に包まれて、静かに眼をとじた。
森の奥深く、人間の気配など全く無い、神が支配する場所、幾千年もただここに生きて、生き物全ての姿を、見続けた、巨木の天を突く力強さで、この世界に存在する。
美しき、みどり濃く、黒い森のこの巨木に、寄り添うように私は眠る。
私の眠る場所には、巨木と同化した、美しき肉体の若き男性の古い一部は白骨化した死体があった。
それは、不思議なほど、美しい男性の死体だった、科捜研の判断では、60年も前になくなった人だという・・・
その同じ場所に、つい最近、命が消えたと思われる老女の遺体が、まるで、この場所で、若き美しき男の屍と一体化かのように、見える、ふたつの遺体はこの幻影とも思える美しき森に包まれて、ひとつの風景になっていた・・・

                       おわり



時空の記憶 (短編小説)

2015-03-07 14:52:53 | 時空の記憶<短編小説>

(一)
美しさ、美という奴に取り込まれると実に厄介で自由にならぬ不自由さが摩訶不思議で、神秘的な事、この私の心を捉えては、惑わせて、悩まし、やがて、滅びを選択する心もようを、残酷なまでに、私自身に、見せつける。
それは花の美しく咲く姿と似ている、生きる事と死する事と、とても似ていると私は思う。

十六歳の私は美しき「魔女なのか」それとも好奇心旺盛で未成熟な単なる少女なのか、美しいものすべてに心のすべてを吸い寄せられるように、虜にして、うわべでは世間の何処にでもいる、清純な少女を魔物に変える一瞬の不思議!
この私のまだ未成熟な体は、訳もなく、心の中で囁く声に導かれて、私の意志などお構いなく、どこかへ私を運んでしまう、この私の体は、清らかで、汚れのない美しき姿、神は私にどうして欲しいのか・・・

いつの体験だったのか、私には分からない、あの、衝撃的な体験が、現実の事のように、突然現われては悩ます残像が私を別の私に換えてしまう、ソドムのはじまりのように・・・

あれいは、妄想の中で理想の真人間のおこないを示すマドンナの姿なのか!
この私を苦しめているのはそのどちらでもなく、遥か遠い昔の体験を、常に心と体が一人歩きしている感覚、謎めいた私の違和感と心地よさの共存する感情なのだろうか、あの、洞窟のような暗闇が続く道をただ彷徨い歩くように、それは、今、この世に生まれ出る母の産道を歩く風景にも思える、一瞬の明るさが、私の歩む方向をみちびき、私の心をよみがえらせて、もちろん、それは、はっきりとした意識としてはあるけれど、私の中で、感覚的にある事ではなく、真の理想の美しさを求めて、歩む。
それは、海の青さと、深く苔むしたみどりの黒い森が続いて、細く強い光が、いくすじもつづく、儚さを見ている私の現実の事としての日々なのか、十六歳の少女の精神と未成熟な肉体の艶めく女の感情のはざまで、まるで、火柱のように、私の目を激しくさえぎるような、輝きで、美しく光る。
その美しい存在は確かな何かの確証も無い、無限の神秘を感じて、私の心を恐ろしいまでに、虜にする。

私のすべてをかけて
私のこの体と心と
引きずり回す
このソドムの真実は
神が私に与えし
こころみの美しき姿
成熟出来ぬ心
成熟できぬ体

この神秘なる世界に幼さを残して、なお、矛盾に満ちた、どうする事も出来ない現実が、この私の心は、ガラス細工のようにもろくて美しく輝く・・・
そんな幼児期の私は、祖母が与えてくれる絵本の世界にのめり込む事が日常だった。
あまりにも檄愛する祖母は、私をひとときもそばから離そうとせず、束縛した。
幼い、私の心は、時には憎しみが増すほどの気持ちを持たせて私を束縛していた祖母を、今、六十数年を経て、祖母の精神の異常さがなんとなく理解できる気がする。
十六歳のあの頃の私に、何を夢見させるのか、時には、大人たちが、この私を訳もなくさげすむように、笑い、あざける、ただ、私の脳裏にひらめき、その言葉は、時にはとっひも無い事を口走る、それは、赤ちゃんのように無邪気な言葉でわめくように言う、
「洋服など着たくない!裸のままで過ごすのが好き!」
私はなんのためらいも無く、計算された言葉でもない、もちろん、誰かに好かれたいとか、意図的なたくらみもない、自分は十六歳の少女らしい行動をしていると思っていた。
けれど、まわりの大人たちは、私が、知能の発育が遅れた、かわいそうな子だと決めつけてた。
「お前さんは誰とも話してはいけない!」
滅多な事を言ってはダメなのだと、噛み砕くように、言い聞かせて、何とか私を黙らせようとする。
ある親戚の伯母たちなどは、恥ずかしくて、世間さまに顔向けできないから、他人の目に触れない家の中に閉じ込めておくべきだと、まるで、私の存在を隠す事を本気でがなり立てる。
そんな光景をただ見ているしかない自分が情けなくて、私の中にある感情をはっきりと説明出来ない事の心と体のバランスの悪さと不思議さを持て余す、そして、なかば怖がりながらも、面白がり、からかう、そして、年齢にそぐわない、私の未成熟で豊満な肉体に興味を持つ男たちはただ好奇な目で、ぎらつかせてみつめる。
ほんの少し前に生れたと思っていたら、いつの間にかりっぱな女の体になってるよ!あの娘はと噂する・・・
まだ、幼心を持つ、十六歳の私は、その言葉ひとつひとつに、深く傷つきながらも、そしらぬふりをしては、わざとおどけてみたりして、祖母や家人を欺きながらの日々だった。
私を取り巻く人たちへ軽い憎しみが日々募らせていく、妄想の世界が広がり際限なく他人への憎しみを込めて・・・
今、この地に存在する、私の青ざめた顔と姿は、この平和を乱す者として、この地に住むものは、私をじゃけにしては、恥らうような顔で見ている。
私の中で、すべての物事が矛盾し、美は神秘的でありながら、私を無恥で理性など存在しない人間に育てて、美の持つ魔力だけが、私を純粋とみだらな心を際立たせていつしか十六歳の少女とも大人の女の体にも、似つかわしくない人間として成長している。
私は何をしたと言うのか、私はただ、生まれて、赤ん坊がまだ何もわからない時のように、私に囁きかける声を頼りに、行動していただけなのに、時には、祖母までが、気恥ずかしさと、心配が入り混じった顔で、おまえが白痴だと思われては、これから、ここでは暮らせないのだと、ぶつぶつと独り言を言う。
まだ、幼かった頃には、その言葉がどういうことなのかがわからずに、笑う大人が、私の幼心にも、嫌であったが、ある時期から、私は、記憶と現実の中で、子供と大人の心を行き来しては、芝居じみたしぐさが、やがて、本当の事として、私の中で成長していった。
人は私を汚らわしき聖女のように、時として、恐れと欲望の眼差しで見ては、理性と感情の混乱がなお、私を遠ざける、小さなこの山里の世界で、少しずつ、私の生きる世界を柵のない檻に閉じ込めて行く。
それは、十六歳の私には体験のない、記憶が私の心の叫び、誰か、別人が私の中で生きているような感覚が、いつも私を束縛する。
時には音楽を奏でるここちよさと、ただ、耳障りにしか聴こえない擬音が私を苦しめては、私を呼ぶ声がして、私はその声に従うしかない、アンバランスな、心と体!
その呼び声は、時には、あまりにも美しくて・・・
その、微かに、見え隠れする姿が、幻なのか、美しく光り輝き・・・
その美しさがいよいよ、私のすべてを虜にして・・・
その眩しいほどのエネルギーは、拒む事のできない魔力・・・
美と精神を虜にする、不思議な感性を支配する魔力・・・
それは、現実の事なのか、いよいよ、私に近づいて来る・・・
音無き足音が私のすべてを支配して・・・

(二)
私は物心がつくまで、そして、十六歳になる、今もなお、祖母の部屋で育ち、生活している。東北の雪深い、寒村ではあるが、私の家は、ある程度の財があった。
幼い頃に何度かあった記憶がある程度で、ほとんど、何も、祖父の顔は覚えてはいないが
いかついからだと形相の恐ろしさだけが私のトラウマのように、時折現実味ない、恐ろしさで、私に恐怖感をよみがえられる。
いつの間にか、私の中で、怪物が育ち、恐怖だけをうえつけているものがいた。
つねに、事業欲のある人だったとかで、事業の成功と失敗の繰り返しで、私の幼児期は、とても人の出入りが激しかったようで、特に、祖父は、女性への欲情も人並みはずれた人物だったと、祖母の口癖のように、私に物心がつくや着かずの内から、まるで、お念仏のように、言って、聞かせられていた。
時には、屋敷うちの離れ部屋に、私には、まばゆいほどの色彩が揺れ動く事がどのような事なのかが、分からずに、ただ興味があって、そ~と、覗き見る事は、わけも無く、私の鼓動が早なって、苦しくなる、風景であった。
やがて、私が気づいた頃には、祖父は、行方も知らない、生死も定かではない人物になっていて、私は祖父の顔を、おもい出せない存在になっていた。
その頃の両親は、私を、祖母に預けたまま、長い年月を、外地に出て、やはり、父も事業欲のある人間であったが、時代は、最悪の時をむかえていて、敗戦と同時に、両親だけが、体ひとつで、私のいるこの家に戻って来たが、祖父の莫大な借財で、残されていた、田畑、山林、家屋敷、そして、屋敷林までも、すべて、人出に渡り、今、住んでいるこの家は、元々は、我が家の持ち物だったが、祖父の手と足となって、働いていた者の所有に、いつの間にかなっていた。
そのいきさつを尋ねたくても、祖父の生死さえ、分からな現実が、使用人であった、その男の言うがままに、まるで、お情けで、住まわせて貰っているように、家族は、その後の祖父の所在すらわからぬまま、祖母の狂乱するほどの祖父への憎悪と憎しみを増す日々・・・
両親の祖父への恨み、憎しみ、蔑んだ、ある狂信的に、祖父の黄金の夢物語の中で時代の変化に取り残された、人間の姿で、無力な、息遣いを続けるしかなかった。
そんな両親の姿を見てはいても、私は、不思議なほど、何か、眼にみえぬものに守られている安心感のような、温かさを、感じては、気づかぬうちに、あの、ほの暗い森の中を彷徨い、歩く、ひとりの時間が、なぜか、とても嬉しく、楽しかった。
どこまでも続く、この、緑深い森の中を何かに導かれるような思いで歩く、この木々の匂いが、今の私の唯一の喜びであり、すべて心が、体が、解放される場所だった。
私の日常はつねに祖母の監視の目がついて周り、自分では誰にも迷惑をかけているとは思わないが、祖母は、私の存在が、目障りなのか、それとも、他の子供とは、何かが違う事がひどく気に病んでいて、外の出ることを極力嫌う、庭の奥にある祖母の部屋、隠居部屋に、私を閉じ込めるように、つねに、私を監視するように、私が誰か、他人に見られる事をひどく気にしていた。
そんな生活の中で、16歳の私は今、祖母の喘息の発作のゼイゼイと呼吸する音が堪らなく、いやで、身震いするほど、胃の中の物すべてが逆流するように、全身から冷や汗が出て、寒気立ち、体中が締め付けられるように、苦しさが伝わってくる、そして、老いの匂いに
むせ返るような、又、死臭とも、思えるほどの祖母の病室のようなこの隠居部屋に押し込める祖母がたまらなく、毛嫌いしている私は、あの森の匂いが、何物にも変えがたい、私の居場所で、生きる場所であった。
あの森に近づくと、すべての触覚がとぎすまされ、地を這う、草やつたのように、何処までも伸びる根や枝葉が、雨あがりの輝きのように、花開く、私のすべてが喜びにうち震え、感情の高まりと共に、森の中に吹く風が、強く、又、優しく、ひとつ、ひとつ、心と体を
解放して、生れたままの姿へとかえて行く。
それは、まるで、魔女の手が美しき魔者のすべてをつつみ込むような光景は、お互いを、どこまでも深く取り込みあい、天高くそびえる巨木をも、私の緑の触覚のつたが絡み合う、一瞬のように、離れず、離さず、力の限り取り込んで行く。
周りの風景と一体になった、二つの生き物が、この森の一つの木や草になった瞬間だ。
突き抜ける痛みがこの風のように私の中を通り過ぎて行った、あの時、木々はまるで、血の海のように一瞬のまばたきに驚きを隠して、もう一度、ゆっくりと瞳を開けて見えた、青い空に澄み渡るひとすじの淡い白い雲がゆっくりと流れる、空と川の流れのような風景に、私の中でこの身に起きた事の不思議を、微かに揺らぎながら、遠ざかる、美しき魔者の消えて行く姿が、この森の中の実体験なのか、妄想の中の出来事なのか・・・
美しき魔者の虜になる、私の肉体と心がふたつに分かれた姿を見ている私自身の感覚は決して恐ろしい事ではなく、むしろ、それは、私だけの秘密の花園での出来事として、この森の中、幸福で特別な時間だった。
あれは、16歳の初夏の森の緑深き、輝きの中で、夢見た事なのだろうか・・・

(三)
祖母が私を他人の目にさらす事を、病的なまでに気にするのには、たぶん、私の性格から来る、特異性があるのかも知れない、私自身は、誰かと自分を比べて見ている訳ではないので、然したる思いも、自分の感覚が誰かを奇異の目で見るほどの違いがあるとは、何一つ思わない。
だが、私の幼き日、三歳の時、苦しさと表現の出来ない体験を私はしている、今はっきりとした残像がある、それは、誰かに説明の出来る事ではなく、私を今も苦しめている思い悩む記憶でもあった。
世間で言う、臨死体験とでも言えば、分かりやすいのだろうか、けれど、三歳の私が説明の出来る事ではないから、記憶にあるままを話しているわけだが、何の病気であったのかは分からない、大人たちのあの時を知る者が、昔の出来事として、時々聞く話の中で、そ
の時の私は、祖母をはじめ、私を見守る、誰もが、私は死んだものと思い込んで、葬儀の準備を始めていたのだそうだ、だが、不思議と、私は、その時の記憶と、残像があるのだ、その残像には、小さな子が布団に寝かされている、動かない姿を大勢の大人が泣き叫びながらその子を見ている情景、その場に、三歳の私は訳も分からず、その様子を部屋の片隅で見ているのだ。
その時の私の感覚は無いものの、あの残像だけが、今もはっきりとした記憶としてあり、その後の私は突然、大人たちの前で、話し出しては、まわりの大人たちを驚きと気味の悪さを感じさせて、祖母をはじめ、家族に混乱と不安感を持たせて、幼い私を気遣いながら
も三歳の子供として見る事の異常が、祖母の病的なまでに、私を閉じ込めておく、異常な行動を加速させて行った。
私を他人の目にさらす事を狂乱して、毛嫌いするひとつの原因なのかもしれない。
私は、その事を、話し出した時期は、いつの事だったかは、覚えていないが、はじめの内は、自分が話す言葉の意味も分からぬままに、誰からかまわずに、大人たちの、何か気味悪理ながらも、面白がり私をはやし立てて、大げさに驚く仕草が、幼な心を満足させていた。
私の気持ちはいっそう加速していき、得意げな行動さえも、目立ちだした。
私を大満足させる出来事であって、その歪んだ喜びに酔いしまっていた。
やがて、その喜びにも、嬉しさからも、少しずつ、私は幼さの中で、何か違和感を持っていき、大人たちの気をひく事を考えては、その時に思いついた事を付け加えて、得意げに話して、大人達にもてはやされていたが、いつしか、私は、変わり者の子供として、時として、嘘つき、精神がおかしい、狐つきで、いまに何か危害を加えられると、怖がる人も出てきた。
その事が、祖母のプライドをひどく傷つけて、病的なまでに、私を監視し、祖母の部屋に閉じ込めようとした。
十六歳に成長した私を、大人たちは、好奇と疑心を持ち、このふくよかで、未成熟な女としての匂うほどに魅せる姿の肉体は、男達の欲情をそそる存在として、近づきながらも、誰も、私に触れる者はなかった。私の家は、没落したとはいえ、この地では、時別な地位を持っていた事も、好色な男たちは、辛うじて、理性を働かせている。
けれど、その状況もいつまで保たれるかが、極めて危うい、生ぬるい空気が漂い、若き血を滾らせる男たちは、落ち着かぬ、いらだちをつのらせていた。
だが、むしろ、私の中で、好色な野獣のような男たちのいらだつ姿をどこか高みの見物的な気持ちでいることが、不思議なほど大人びた、底知れぬおぞましさがある自分の気持ちを持て余している。
だが、心の片すみでは、別の私がいる、それは、十六歳の清純で無垢な心が悲しみ、苦しむ感情の混乱する思いをどうすれば良いのかが分からずにいる自分を何処か、眼に見えないところから見ている自分の存在が不思議だった。
そして、その、清純な思いの中に、私を救い、この残酷で窮屈な状況から連れ出してくれる存在のある事を、私はこの胸のときめきと共に待ち焦がれている。

まだ見えぬ存在
救い主はどこに
あの美しい姿
魂の喜びを語る
この淫らな肉体を
清めたかめて
あのみどり深い森へ
私をいざなう存在

幽体離脱とでも言うのだろうか、私は不思議な幼児体験した事を大人へ、得意げに話した日、あの日まで祖母は、私を狂信的に檄愛していて、この地方では、求められない、
西洋人形など、私のために何処からか買い求めては、私に与えていた、祖母の私に対する愛情は、おそらくは、買い与える人形と同じように、今の私の幼児の可愛い、生き物で、もうこれ以上成長しないままに、祖母の命令に忠実に従う、玩具のような存在なのかもし
れない。
そんな祖母の心情を私は幼いながらも、どこか祖母への嫌悪感をこの頃からめばえだしたように思う。
その人形を持つはじめて、祖母から与えられたあの日、私は言いようのない感覚として、今もこの手や体にあるのだが・・・
その後の私の行動を、祖母は、ひとつ、ひとつ、驚きとおぞましいものとして、少しずつ、私の存在が恥ずべき子、汚れた子として、他人の目から隠す事しか、考えられなかった。
あの人形はすでに、私の手元から祖母が取り上げて、何処かにしまい、隠されて、見る事も、触る事も、私には許されない、私には、限られた、貴重な、心を許した、大切な物だったのだが、そんな気持ちを祖母が気づくはずも無く、幼い日々の私の苦い経験だった。
あの人形のその後の運命は、どうなってしまったのか、十六歳の今までに、我が家は、何度も、祖父の事業の失敗から、経済的に、とても苦しい時があったので、あの人形は、とても高価な物だったとおもうから、お金にかえられてしまったのか、今も定かではない。
幼かった私には、想像もつかない、祖父のつくった莫大な借財に、祖母や両親は狂乱して祖父をののしりながらも、病的なまでに、財物や虚栄心でその場を整えては、虚しい虚飾をに包まれた生活をしていた。
子供ごころに、私は不安な感情と苦しみを誰にも伝える事が出来ない心だけが怪物のような生き物に成長して行ったのだろうか・・・
あの残像が、私の中で、増幅されて、浅い眠りの時、私に大人たちの叫び声や、時には笑い声に、変わる、増幅された響きになって、私は身動きの取れない、得体の知れない、魔物が、私に襲いかかる夢を常に見ていた、恐怖と救いを期待して、硬直した体は苦しみながら、夜明けを待つのだった。
十六歳の今も、何度と無く、同じ現象が起きていた。
そして、数ヶ月前のある夜、いつもの浅い眠りの中で、あの現象が、新たに、私の中で起きた。
何を意味する事なのか、わからぬまま、私はその声を聴いた、最初の啓示に従い、あの森を歩く私は何かに導かれて、姿は見えていないけれど、魂の喜びが私をあの森に導く・・・
ほの暗い森はひとすじの月の光が銀色に輝き、私をてらしつづけて、私の背中には美しい天使の羽があるように、体がふわふわと舞い飛ぶように軽く、心地よい感覚に酔いしれて、森に奥へ導かれて行く・・・
どこまでも夢の中を彷徨い歩いて・・・
まだ見ぬ、あの、美しき肉体に出逢う為に彷徨う心。
若き肉体はただ喜びを求める無邪気さが私を狂わせて、救い主なのか、魔物なのか、心のおもむくままに、深い森に吸い寄せられて行く、月明かりが銀色に、いよいよ輝き、私のすべてが虹色に染まる頃、あの幻の姿が私を抱き寄せて走る。
まるで、苦しみのない世界に存在する女神だあったり、時には、白馬の化身に跨る美しき、若き裸体を輝やかせた青年が現れて、ほの暗い月明かりの中を、私と二人は夢のようなひとときに戯れる中に、不思議な呼び声が、私をひきつけて放さない、その声は、何処かで聴いたことがあるようで、でも、はじめての響きでもあった。
この体は、硬直して、動けないままのはずが、あのほの暗い森を走り、木々の匂いが私を高揚させて行く、もはや、とめどなく、私をあの森が、音楽の調べのように、私のすべてを包み込んで、心地よい風に、私はなにひとつまとわず、生れたままの姿で、この木々かもし出す香りと共に、この森の中を駆け巡り、時折、木々の間から差し込む、月明かりに照らされている私を、私は夢の中で眺めている、別の私自身が見ているのだった!
それは現実と夢の世界を行き来する、天国と地獄の絵図を描くように私の中の出来事としての現実を認識する瞬間だ!

私は、この世の中で、めぐり逢える記憶、自分では気づかない欲望が広がっていく心のざわめきが、精神と肉体をアンバランスにして混乱させる事を嫌いながらも、何処かでそれを楽しんでいる自分がいる事に気づいている。
それはまるで、自分の中にもうひとりの私がいるように、見ている私の姿がある。
ひとりの私は、誰よりも、清らかで、すべてに美しく、優しさが常に言葉に表れる良き人の顔、だが、一方では、16歳の少女ではいられない大人の女の顔が、まるで、獣のように、ただ欲情する思いに悩まされている自分が、ひどく、恥ずかしくて、汚らわしくて、その女の部分を、私自身から切り離したい思いに悩む日常だ。
まるで、自分ではないこの感情を、時には、狂おしいまでに、恥ずかしくなり、ちょっとしたしぐさでも、ひどく、汚らわしく思い、ただひたすら体を洗い流す行為を繰り返しては、祖母がその行為をいぶかしげに見ているのを私は、刺すような視線を感じながら、皮膚が裂けるほど洗い流さずにはいられないその時の心情なのだ。
だが、別の顔した私は、浅い眠りの時、あの予感がする、あの啓示の声がする、声が少しずつ近づいてくる、この体は硬直して動かないはずなのに、いつも、あの森の中を喜びにあふれて、あの声のほうへ、よびごえのほうへ・・・
私は何を求めているのだろう、あの時の私はまだ何も分からない16歳の少女だった。
私のみじかには、誰も、何も、教えてはくれない・・・
ただ、私は感情のおもむくがままに、生きていくしかない、心が寂しくて、だが、その自由さが、その頃の私を狂わさずに、冷静さを保つ事ができていた。
春の宵を、祖母は、まだ肌寒いのに、月明かりの花見、庭の隅に植えられている、遅咲きの八重桜を見たがり、古く色あせた障子を開けてほしいと言うが、その日はまだ、月明かりなど望めないのに、満月だと言い張り、とうとう、祖母の欲求に負けて、障子を開けたと同時に入ってきた、冷たくて、少しつよい風がこの祖母の匂いのしみついた部屋の匂いを消していくようで、私には、冷たさよりも、胸の中が清められたような感覚になって、少しだけ、気分がよい。
ふと、突然、あの、説明の出来ない、感覚が私を戸惑わせる。
この冷たい風と共に、別の何かが、この少し冷えた体に伝わるものを感じる。
今までに感じた事の無い、皮膚感覚とでも言おうか、昔、七色をした蝶が幼かった私の体をなでまわすように、私の体に七色の吟粉をふりまいて、飛び去っていった時のように、私の体は、ここちよい、痛さ、苦痛と喜びの入り混じった感覚で、私は一瞬の夢を見た。

銀色の蝶
春に交わした私の心の約束
毎夜飛び交う言葉遊びのように
昨日の約束を忘れて
今日別の想いがやってくる
あれは春の頃の出会いだったのですね
夏の暑さにひっそりと木陰に身を隠して
緑色に染まっていました
誰にも見つからないように
この銀色の羽根が痛まないように
貴方だけにみつめてほしい
そんな欲張りは罪ですか
もう秋は過ぎて行ったけれど
この心だけが炎のように待つ
私にまだ何も答えてはくれない
銀色の羽ばたきは春を装いながら
静かに静かに時が過ぎて行く
いつまでも待ち続ける
切ないほどの私だけの心の約束
きょうの冬空のように
あおすぎるほど美しい私の想い

(四)
あの森の中は、私に安らぎと、興奮の狭間の中で、常に私は恋しがる思いが付きまとう。
あの数ヶ月前もそうだった。
春の宵の体験が、すべて現実の事のように、その感覚が、私自身の中で説明の出来ない、喜びであり、鋭い悲哀にも感じる事なのだが・・・
この身が燃え尽きるほど、何かに向かう熱を帯びたこの体は、冷えた風を求める。
だが、一方で、その思いを永遠に排除してほしいとも願う心が、激しく、短い時間の中で戦い続けて、いつも、気がつくと、私はひどく疲れた、傷だらけの体がまるで、この森の中を何ひとつまとわず、風に乗って飛び交っているように、微かな記憶を残しては、現実の自分の姿を見ている私は、虚無と活力、ゆがんだ欲望の抜け殻のような自分が、そこには存在する私の姿・・・
私は知りたい!、いや、知りたくない、こんなに、拒みながらも、私の中の官能を求める自分がいる事さえ認めたくないのだ。
世間から蔑まされている時の私は、一瞬、悪魔が宿る、そのすざましいまでの、怒りが、この全身にみなぎり、この思いとは裏腹な、汚らわしき言葉を吐き、正気ではないこの血の逆流する、おぞましいまでの悪口雑言を並べ立て、人々へ浴びせている私の汚れすぎたその姿は、益々、世間を狭くして行く事への恐れを知りながらも、そこまで、私自身をおとしめなくては、やり過ごす事の出来ないその時なのだ。
私の清らかさと、優しさと、自分を高める品位をおもんじる行為は、私の官能の中で、作り上げていく、心理が働かせる、私の中のもう一人のせめぎあいの中から、勝ち誇る時の行為・・・
あの私の体を突き抜けて行く、痛みと喜びが、私を変えて行く・・・
その喜びが、すべての理性と罪意識を捨て去る私の幼さの中で、強烈に大人に、女に代わる瞬間・・・
まだ、はっきりとした、何者の誘惑なのか、悪魔の囁きなのか、夜の闇が、すべての現実の世界から私を特別の世界へ運んでしまう、不思議で、これが快楽と言うものなのだろうか・・・
16歳の春の宵の出来事は、いつまでも、私を、混乱と喜びの記憶が、遠く、長い時間を、私の中で生きて、悩ませては、永遠に続く事のような苦しみをもたらし続くて・・・
あの森は、私に最高の幸せを贈ってくれる、木々の香しき匂いはすべての苦しみを忘れさせて、月明かりが木々の根元に咲く、この世の物とも思えないほどの美しさで、私を魅了する、花たちが、この脳をとろけさすほどの、刺激する輝き!、私のすべてを狂わせてしまう、あのほの暗い森の中の出来事・・・
君の囁きが、いよいよ、私を虜にして、捕まえに来る・・・
その姿は、悪魔なのか、天使なのか・・・

いつの間にか、冷たい風も通り過ぎて、春の宵も、この幼さの柔らかで、そっと触れると、弾けそうな、美しい肌にも、ここちよく、私自身にはそんな言葉など思うことも無いが、私の家に訪れる大人たちは、半ば、憧れと特異な眼差しで、特に男達には、欲情をそそる存在でありながら、ある一面のあまりにも、気高さを感じさせる瞬間が、そのいやらしい気持ちを抑えては、常識のある大人としての振る舞いを保てていたのだ。
春の盛りは、あの森は、一段と木々の緑も深まり、香しき木々の香りが、私を正常さと清らかさが、もうひとりの私を押し隠して、ただ美しき少女のままの日をすごしている。
だが、どこかで私は、説明の出来ない後ろめたさのような、不安のような気持ちが、正常さと、隣りあわせで、私はいつしか、情緒不安定な思いに囚われ始めていた。
相変わらず、祖母も両親も、いまだに、祖父の残した莫大な借財と、夢物語の中で、まるで、くもの糸に絡まれて、身動きのできない、もう、羽根がもぎ取られて、醜さだけが、哀れさだけが、この眼を覆いたくなる姿のアゲハ蝶のように、時々、思い出したように、無駄なもがきのように、狂ったように、動き、声を荒げては、疲れた姿が、私を悲しみと苦しみの日々に戻していく。
私は、そんな時、姿かたちの見えない白馬に乗った勇敢な騎士が、私を何処かへ連れて行ってくれるような、夢を見る。
凛々しくて、たくましくて、眩しいほどの輝きを放ちながら、あの森の中から、私を迎えに来てくれる、そんな思いが、いつしか、現実の事として、こころの奥深くに秘めて、私は、この昂ぶる感情の激しさに、今、はっきりと近づいて来る、姿は、男なのだと、初めて男性だと認識した。
その男が、わたしのすべての苦しみを、悲しみを、喜びを、与えてくれる運命だとは・・・
16歳の私には、ただ、不安と喜びの心が波打つ事だけが、はっきりとした、感情が、あの森へ向かう事を急かせている。
現実の中ではもう、私には、呼吸さえ出来ないほどの汚れきった空気が、姿の見えない祖父の吐き出す、毒ガスのように私覆い、祖母や両親の全身から吐き出す、よどみ切った重い空気と私を包み込んでしまう臭いが、少しずつ、私をこの場所から遠ざけている。
もう、私は、あの森の中へ走る事しか残されてはいない。

近づいて来る想い
もうこの心はすべて貴方に向かう
この苦しみを喜びに換えて
いつも私を光り輝かせて
こんなにも素敵に
こんなにも痛みを忘れさせて
今日美しい人は
一つの言葉を贈ってくれた
明日に繋がる力を

あの森からの呼び声にいつも私は、心と体の一致しない感覚が、浅い眠りの中で、せめぎあいしながら、ある、一瞬は、あの森の木々からの香しい香りにつつまれて・・・
美しい世界、森の精の魔法にかかる・・・
私の体は、果てしなく続く音楽の調べ、この上もない喜びに、打ち震える波が長い夜を忘れさせてくれる。
祖母の隣で、がんじがらめに、刺すような監視の目は、たとえ寝ている時でも、16歳の私には辛すぎる空間、耐える事の出来ない嫌悪感を持たせて、私に現実の中の復讐を描かせる。
幻想の中で、美しき呼び声に惹かれて行く自分の心を抑える事の出来ない逃避なのだろうか・・・
時として、私は女ではなく、男の美しき肉体の輝きに変わるときもある。
その姿は、昔、祖母が私に与えては、まだ、文字さえも読めない私に、一文字、一文字、この頭にねじ込むように、読み聞かせた、西洋の騎士の姿、白馬に跨り、剣を天高く振る姿は、幼心にも、華やいで、心が興奮する時間ではあったけれど、祖母の狂気のような叫び声が、私には、怖ささえ、感じてしまう、絵本の中の騎士の凛々しい姿を讃美しながらも、祖母のそばから逃げてしまいたい思いに、子供心にも、身動きの出来ない苦しみに、耐える時間であった。
そのような気持ちは、16歳の今だから、言葉に出来る事だけれど、いつしか、魔性のような、残虐さと微妙で、不安定な罪悪感が私に成長と共に生れて、この体は、いつの間にか、私自身の正常さと現実ではない姿を、見ているもうひとりの私がいる。
私が作り上げたもうひとりの私は性をはれやかに描き快楽と憧れだけに結びつけては、誰にも止められない、官能の世界で、あの呼び声に走る。
そして、すべてが木々の緑の中で、一瞬の出来事のように、私を通り抜けていく痛みは、血の色に染まる、すべてがあの森の中で、自らが求めて、巨木の力強さを、私の中で天高く伸びて行くつる草の命と絡み合いながら・・・
その姿は、まるで、美しき巨木を小さな白い花で埋め尽くしたつる草の化身が。今の私の姿のように・・・
だが、一方で、正常な私は、極めて、耽奇な目でその光景を眺めている。
そんな日はきまって、祖母の喘息がひどく発作を起こして、私に掴みかかるような、訴え、助けてと、哀願するように「水を飲ませて!水をのませて!」と言い続けて、だが私は、何かに怯えるように、この体が動かない、動けないのだ!
目の前で苦しむ祖母の姿が、私の長い年月に、新たな苦しみを増やして行く・・・
逃げようの無い、心の中に、黒い闇がおおい尽くしては、又、あの美しき呼び声に、私は闇を払いのけて、飛ぶ、森の月明かりは、眩しいほど、美しくて・・・
祖母の苦しむ姿が、60数年後の私自身の姿をみているような、錯覚とも、真実の自分の事のような、時をこえて、私の錯乱した姿なのか・・・


(五)
どんよりとした曇り空が幾日も続いて、祖母の体調は益々悪くなり、私を常にそばにおいては、祖父の裏切りを切り目無く私に聞かせては、突然、お納戸に積み上げてある、たくさんの、衣装箱を開かせて、その中の祖母の若かりし日々に着ていた色鮮やかな着物を、この隠居部屋に飾り立てて、さっきまで、喘息の発作に苦しみ、白髪を振り乱して・・・
そんな姿を見ている私は、幼い頃、我が家の祖母の下で小間使いをしていたおばさんに連れられて、村に現れた芝居小屋の中で見た雪女の鋭い目が思い出されて、私は体が硬直してしまうように、たちまち、幼い日の体験の中に入っていく・・・
その時の私を面白がるように、あのおばさんは何度も、何度も、役者とおばさんは結託しているように私が怖がる仕草を何度も見せ付けては、周りの者達までが大笑いしていた。
その事を、祖母に、決まって伝えるのは・・・
「じょうちゃまは、雪女がお好みのようで、何度も、おねだりして・・・」
などと、私を喜ばせたと、得意げに、伝える姿は、この人は、私を怖がらせて、みんなで笑っていたのに、意地悪なおばさんだと、その時から、大人を見る、私の考えが変わった。
日頃の行いと話す事の違い、そして、祖母のように自分の立場の違いを誇示する人間には、喜ばせる言葉を並べ立てて、真実とは別のことを平気で話すことが、ひどく、私を孤立させて、人間を信じられない思いを私に植えつけて行った。
あの日も、祖母は私に部屋一杯に、衣装を広げさせて、自分の思いの深いものを羽織ながら、祖父に対して、狂気さえ感じる言葉を叫ぶように・・・
一枚、一枚を買い求めた時の事や、この屋敷での、祝い事を、思い出すように、激しい言葉を吐いては嘆き、そして、時には幼子のように泣き出しては、私にすがる姿を、どうする事も出来ない辛さとして、常に私を苦しめている。
祖母の引きずる着物は、白無垢の花嫁衣裳であったり、きらびやかな緋の薔薇を描いた血の色のような、炎のような、この景色に、私は時として、その姿を恐怖を感じながら、立ちすくむしかなかった。

花電車が音もなく走る
緋の衣を纏う
千両役者は口から
千のくもの糸をはき
時として仁王の顔は
幼子の渇望する悲劇
このごちゃ混ぜな絵を描く
目の前の錯乱する思い
虹色に輝く夢のような
お伽ばなしの続きを
誰が運んで来てくれるのだろうか

祖母のひとしきり、泣きながら、最後は娘時代にかえって、祖父との楽しい時代を思い出したのか、幼子のように、きらびやかな衣装を羽織ながらいつしか、眠っていた。
その姿を眺めながら、私は、音もなく入ってきた男の姿に、驚きと焦りで、まるで、自分の意志ではどうする事も出来ないほど、この胸が壊れてしまうのではないかと思うほどに不定期に激しく鼓動していた。
男は何も言わず、泣きつかれた祖母を軽々と抱き上げて、絹ずれの音のするお布団に静かに寝かせた、その姿はまるで、いつの頃からか、夢見る私の白馬の騎士の姿のようにも、思われるほど、美しく、凛々しい姿で、私の日々の苦しみから解放してくれたような感覚を覚えた。
今までなんとなく、庭木を世話している姿をちらりと見かけた事はあっても、私のそばに来た事はないものと、思っていたが、どうやら、あの森の中で、会っているのだろうかとも、思うのだが・・・
そういえば、祖母はこの男に激しく、何かを言っていたような、だが、この男は一度として、言葉をはっしない、どんなにひどい言葉を祖母から浴びせられても、ただ、下を向いているだけなのだったと、私は思い出した。
普段、ほとんど、この隠居部屋には寄り付かず、祖母の世話を私にまかせっきりの両親がいつだったか、私に言った事を思い出した。
もう、何十年も、居所さえ分からない祖父の連絡係なのだとか、だが、この男は、言葉を話す事が出来ないのだ、祖父からの連絡だと手渡す、手紙や、お金を用立てて、この男に持たせるようにと書かれた書類を、祖母は半狂乱のように、罵倒しながら、この男をなじる・・・
そのすざましいまでの、祖母の形相が収まると、この屋敷内の庭の奥まった場所にある、ただ一つの我が家の財産である、崩れかけた小さな蔵に祖母はこの男を連れて入って行った、その姿を、私は、はじめて気づいた。
私には、この男が、特別な人なのだと・・・
あの、燃えるように、熱くなった体を涼ませながら・・・
あの森を、ふたりで、はだか馬に跨り、生れたままの姿で、月明かりに照らされて・・・
私は、今も、あの時のすべてを、もう一人の私が見ている。
燃え盛る炎のような感覚を・・・
誰にも止める事の出来ない、私自身を超えた、何かが、あの場所へ走らせている・・・
あの、一瞬の血の色と、巨木を締め付けるような露草の緑と白い花を一面に咲き乱れた、あの場所で、何かにむすばれた瞬間を・・・
なぜ、あの男は、私の前に姿を現したのか・・・
誰が、この男を、私に、使わせたのか・・・

闇を走る一筋の光
貴方は誰のために存在するの
いつも私から距離を置いて
ただひたすらに待ち続けて
この私が女にかわる時を
それほどまで花は咲き乱れて
幾千の出会いを超えて
この森にたどり着いた
ひとつの愛のかたち


糸魚川の海

2015-03-05 13:58:08 | あの日、あのとき

今の私、身辺整理ではないが、古い写真を整理している。

思えば、たくさんの写真が残されている、元気だったころ日本の山はもちろん、海外の山へも出かけていた。

体がダメになって、そのつらさから多くの写真を捨ててしまったけれど、どこかで捨てきれずに残された思い出写真が今もまだ時々出てくる。

そんな中に糸魚川の海の写真があった、北アルプスや雨飾り山などあの辺の山が大好きで何度も出かけた山々、その時々に糸魚川経由で帰ってきた。

山から下りて糸魚川の海を見ると、特別な感動が私にはあった、その感情をつたない小説のいくつかに書き込んだ思い出の場所だ。

もうすぐに北陸新幹線も開通するそうだし、もう一度、糸魚川を旅したいと願っている。

それにしても<あの海の色は>
 <言葉に表せないほどの美しさ>だったと思うのだが・・・

古い写真はやはり思い出と共にセピア色になってしまったのだろうか・・・

誰もいない

2015-03-04 13:50:03 | ひとりごと

ある晴れた日
ひとりでいるのが寂しくて
電話をしてみる

誰もいない
私のさきには電話のベルがなった
かすかに聞こえる
同じ音の間が耳の奥で受ける
期待と淋しさのベルがなる

こんな春の日の午後
ちょっと人恋しくなって
言葉を交わしたくなった

みんな、みんな
元気なんだね

ひとりの部屋が寒くなって太陽が恋しくなった

私も少し外に出よう
いつものさんぽ道を歩いてみる

行きかう人に、こんにちは
誰もいない

なにげない挨拶
春の香り
優しく届く三寒四温

あの日・・・

2015-03-02 15:00:03 | 山でのいろいろ

あの日私は何を考え何をしていたの
永い時が過ぎて、それでもふと思い出すの
吹雪の中をあえぎながら高みをめざし歩く
背丈よりも高い雪壁を何度も何度も乗り越えて
粉雪は渦をつくり私を飲み込む

山の魔ものが私を呼ぶ
ふかい、深い、真っ白な渦が私の足を縛りつけて
身うごきさえできない、がんじがらめの私がいた
吹雪はさらに激しさを増して
ほほに突き刺さる氷雪は刃に変えて
寒風が運ぶ無音とごう音を絶え間なく聞く

二月の終わりはいつだって山の中
誰かに背中を押されたわけでもなく
私自身が選んだ道だったけれど
あの日、あの時、一瞬を分けた運命
誰が予測できただろうか悲しみの瞬間を

そして奇跡が生まれた
山の魔ものが手を離した
全身の力を込めて泳ぐ雪面
吹雪の中で見た一瞬の青空が
私を救い、山の魔ものが消えたあの時
まぼろしの出会いがあって

あのまぼろしの姿は誰
今も、あの日、あの時
私の不思議がよみがえる


    <ある雪山での出来事より、写真は、無関係です。>



見えぬ眼でやっと・・・

2015-03-01 14:55:00 | 自然を愛でる

新しいパソコンに買いかえて、何もかも使い方が変わってしまい、ほとんど独学で今までやってきた私にはわからないことばかり・・・

それどもブログを続けたくて、悪戦苦闘のひびがつづく・・・

片目のおばさん(おばぁさん)は失敗の連続だけどめげずに今日やっと、写真の取り込みが出来て嬉しいね!

古くて、重いカメラを捨てがたくて、よく見えない眼で感覚だけで写す、けれど、あの「カシャ」というシャッター音がたまらなく楽しくて、うれしい!!!

季節外れの薔薇が、私的には美しい!

ああ~眼が痛い、今日はもうげんかいかな、残されたわずかな視力を大事にしなくては!