今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

愛をこう人 18 (小説) 改編版

2016-12-11 19:28:01 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (18)
春馬と久美子は禁断の愛を選択しても、逢えない苦しみに耐えてきた、この数ヶ月は、なにを見ても、お互いの穏やかに過ごせて欲しいと願う事ばかりだった。

それは、つかの間の再会、お互いを心配して、共に切ない感情と胸が高鳴り、今この時間だけは幸せな関係で居ようと話した。

約束の日まで、久美子は、待ちどうしくて、なんだか急に、時間がゆっくりと過ぎて行くように思えていたが、今やっと、会うことが出来た、春馬の隣にいられる事が嬉しくて、幸せだった。

たとえ、どんな結末が待っていようとも、今日だけ、この瞬間だけを生きよう・・・

もう、ふたりにはとめようのない心が結び合う、春馬と久美子の!
「情愛」であり「純愛」だった。

春まだ浅い、高原は、行き交う人もいない、春馬と久美子だけの世界をつくりだしていた。

鳥の声さえも聞くこともない、まだ、長い冬からのめざめはこの自然を閉じ込めているように、ふたりには、心地よい場所だった。

ふたりは、あまり、言葉を交わすこともなく、むしろ、ふたりが話しあう声は自然に対しての礼儀に背く事のようにさへ思えて来た。

どちらからともなく、手をつなぎあい、この自然の美しさにみちびかれるようにふたりは抱擁を交わす,精一杯のふたりの感情を押し殺してもなお、求めてしまうふたつの愛がそうさせてしまう。

そして、この風景に溶け込んだ、仲の良い普通の恋人同士のように、より添いながら歩いた。

広い高原は、誰か、他人に出会うこともなく、ふたりは、森の魂にみちびかれて、森の中へ入って行く。

丈の短いササが巨木と巨木の周り一面に広がる、柔らかな春の陽が暖かく樹木の間をぬって射して、ふたりが歩く、その場所だけがまるで、大自然の陽光のスポットライトの光を受けているように別世界が広がる、光の道を歩くように!

ふたりは、どちらからともなく、柔らかな草原の大きな木の陰に腰を下ろして、森の香りにつつまれて休んだ。

静かな森が、久美子の緊張した喜びに、あらく苦しそうな呼吸の乱れまでも春馬には聴こえていた。

でも、どんなに、愛し合っていても、ふたりの関係は、伯父であり、姪の関係、ふたり、密やかに逢う事を誰にも知られてはいけない!
春馬も、久美子も、お互いの名を呼ぶ事はしない・・・

今、おかれている現実を、思い出したくはない!
あくまでも、恋人同士の間柄でいて、今、この瞬間だけでも、心通じ合わせられる、ふたりでいたかった。

禁じられた愛にふるえて
寄り添いながら歩く
ふたりを森の精がおおい包み隠す

ふたりには、今、さほど、興味の持てない、お互いが観た最近の映画の事などをあえて話しては、感情の高まりを抑える努力をして、今のふたりには意味のない話を続けることの可笑しさも笑う事など出来ない。

けれど、久美子の若き肉体は、はちきれんばかりに、ピンク色に染めて、若い肌がとても美しくて、春馬は、無意識のうちに、久美子にそっと触れてしまった。

そんな行動を春馬自身が抑えられない、いらだちと共に、久美子への愛しさが、熱情へと変わって行く。

そっとやさしく触れた春馬の手のぬくもりを感じた久美子も又、愛する春馬に、触れられている事で、久美子自身の感情と、体中の血潮が、熱く流れて、早鐘のような激しい鼓動が苦しいほど、久美子は幸せな想いと、興奮した感情は、何ものにも変えがたい最高の喜びを感じていた!

森の奥深く、ふたりだけの世界はまるで、森の精霊に守られて、導かれるように、二度目の禁断の壁をこえた、けれど、そのふたりの姿は、この深い森の風景に溶け込んでいて、違和感を感じる事の無い、大自然につつまれた春の風がやさしく流れて森の風景と一体化し、むしろ美しさをつくりだしていた。

ふたりにはもう、後悔も、罪悪感もない、一瞬の幸せをもとめた、熱い想いがあった。
だが、その感情はふたりが深く傷つく事でもあった!


       つづく


愛をこう人 19 (小説) 改編版

2016-12-11 19:27:13 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (19)
喜びと、歓喜にみちた感情の何処かに、どうする事も出来ない不安と絶望が、見え隠れしている、今のふたりの生きる姿だ。

ふたりは、帰りの車の中で、ほとんど、言葉を交わさずに、悲しい気持ちのままの別れになった。

けれど、ふたりの心は、愛しさで胸がはりさけそうになり、男と女であるこの姿が、恨めしく、切ない想いが、胸を締めつけて苦しすぎた。

久美子は、春馬との旅から帰っても、あの日の、あの喜びに満ちた、久美子には、これまでに経験の無い、幸福感とでも表現すればよいのか、一瞬、一瞬が、時折、久美子の意志とは、関係なく、肉体と感情の働きが、突然、思い出しては、気恥ずかしさと体が熱くなる自分に戸惑っていた,少女から大人の女性には成長できていない、あまりにも若すぎる経験が混乱させて・・・

久美子の若き肉体はもう消しようのない、人間として、女性としての、必要不可欠な事として、大人の女の肉体に変わったのだと、自分に納得させて、大切な記憶として心と体に刻み込まれた。

清らかな心を持ちながら、春馬との消す事の出来ない!
『久美子は生涯忘れられない、大切なの記憶として!』
『胸の奥深く、刻み、抱きしめた想い!』

久美子も、春馬も、決して、長く続けられる関係ではない事だと、充分に承知していた。

けれど、ふたりの心が深く通いあい、絆が深くなれば、なるほど、苦しみが増す現実がある。

久美子は何も考えず、仕事に打ち込む事で、春馬の面影を打ち消して現実の苦しみに耐えていた。

春馬も又、現実の罪意識から逃避するような思いで、絵を描く事に没頭していた。

時には、そぐわない、馬鹿げた行動をとる事で、その場しのぎの憂鬱な感情をつくり、耽美な思いに浸っては、許しがたい、醜い生き物になった、あい入れられない、自分への憤りを募らせていた。

ふたりはぎりぎりの苦しい感情に耐えながら、
「お互いに連絡を取る事は出来ない!」

特に春馬は大人の男として、身勝手すぎる、もうこれ以上の醜い欲情に負けた、自分の心を見せたくなかった。

ふたりはもがき苦しみながら生きても日常は何事もなく過ぎていく、少なくとも周りの人間にはそのように見えていた、数ヶ月が過ぎた頃、久美子の元へ、懐かしい文字の手紙が届いた。

久美子は、手紙をすぐには開けずに、耐えた、春馬の匂いを感じる事が罪深い事を繰り返すようで、久美子をたじろがせた。

けれど、耐えられずに春馬からの手紙をあけた。
その手紙には、ただ一言!
「秋景色を観に行こう、待っているよ!」

そして、逢いたい日付と逢う場所を箇条書きされた、まるで、何かの仕事の連絡のような、ただ、無機質に文字が並べられていた。

それは、春馬の、久美子への想いの深さを隠した、精一杯の苦しみの姿が、久美子には、痛いほど、胸にせまる、春馬の深い愛情からの表現なのだと感じた。

愛しき人は
互いに心を隠して
冬が来る前に
急ぎ足で触れてゆく
消しようのない記憶を
あふれる想いと
彩られる微笑
神さえも許さぬ
罪深きふたりの愛

今年の残暑は厳しくて、九月も、もう直ぐに終わるというのに、夏のような暑さがつづいていて、何処となく、疲れがたまっているようで、久美子は、夏にひいた風邪が治らずに、気分がすぐれない日々だった。

久美子は春馬への想いと罪意識に、悩みながらも、耐えがたい感情の不自由さで胸が痛い!
十月を迎えても、気ばかりが急いて、春馬からの誘いの日を迎えた。

久美子は春馬と別れたあの日から今日までどんな時間を過ごしていたのか思い出せないほどうつろでそれでいて、何かを期待しては打ち消す日々だった、そして、今日、春馬との約束の場所へ急ぎ足で歩く!

ふたりは逢えた嬉しさと、どこか気恥ずかしさが混在するぎこちない笑顔で、言葉もなく近づいた。

春馬は、何処へ行くとも言わずに、小糸線に乗り込んで、ふたりは時々微笑みあい、眼差しで話し、言葉を交わさずとも、心で語り合っていた。

小糸線の終着駅、糸魚川で、ふたりは下車し、久美子は、春馬のこれからの予定を何一つ話すこともしない事を少しだけ、不安になったが、あえてその気持ちを打ち消して、何も尋ねなかった。


    つづく


愛をこう人 20 (小説) 改編版

2016-12-11 19:26:33 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (20)
ふたりは初秋のすこし荒波のたつ日本海を眺めながら、お互いの描く絵の事を少しだけ話し、こころなし気恥ずさを感じながらも海の風景をスケッチして過ごした。

突然、久美子は、思わず、春馬に言ってしまった。

渾身の想いをこめて・・・
「今、描いてる私の絵を見て欲しいの!」
「一度だけでいいから、私の部屋に来て!」

けれど、春馬は、うなずいただけで、言葉では、返事をしなかった。

今、こうして、ふたりであっている事さえ、ふたりを知るものに見られたら、その瞬間から、地獄の苦しみを味わう事をふたりは、承知している。

久美子の育った、山里では、ふたりの関係を知る者はいないはず、久美子はともかく、春馬を、いまだに、久美子の実家のある村では、噂話としてとりざたされているのだろうか、

「うさんくさい人物、信用できない人間だ!」
として、見る者も多かった!

久美子の父の兄弟は、誰一人として、「春馬」を、兄弟で身内だとは、認めてはいないし、ましてや家族だとして認めて、受入れられることはなかった。

ただ、風変わりで、偏屈な、久美子の父だけは、本心は分からないが、元々この地の人たちは、父を変わり者として、あまり信じられていない者同士の付き合いだと、面白半分に、気まぐれで、兄弟として自分の家においているのだろうと、思われて、噂話として、人から人へと囁かれていた。

たが、春馬は、久美子が松本に就職して、ひとり暮らしをはじめた、同じ頃に、やはり、息子を久美子の実家に残して、突然、松本で仕事が見つかったと言って、久美子の実家を出て来ていた。

久美子の家族が、何か、いづらくしているわけではないが、特に歓迎もしない、眼に見えない気まずさをいつも、春馬は感じていた。

ふたりが寄り添う影だけが美しくて
ひとの眼にさらせぬふかい愛を隠して

春馬の息子は、おそらくは、生れて、すぐから、このような環境で成長していたのだろう。
おとなしい子で、常に一人遊びをしていた。

いちおう、学校へも通っていたが、境遇が、そうさせている事であって、彼自身が、自ら好んで選ぶ人生ではなくても、その日常は悲惨だった。

ほとんどの子供が、彼を無視し、軽蔑して仲間はずれにしていた。

時には、こんなふうに、ののしられて・・・
「お前は汚い!」
「どこから、生れた、木の股から~~~」
「親なしっ子の根無し子!」

本当に子供は残酷なものだ!

おそらくは、大人たちの心ない、噂話を、子供は、素早い好奇心で面白がり、戯れる!
子供らしい、気まぐれな行動と誠実な心を持ち合わせて、悪戯と遊びのひとつなのだ!
子供の心は時に、まるで悪魔の囁きのように、弱い者をいたぶる事がある!

子供とは、どんな大切な事よりも、このような、大人からみればどうでも良い事を、好んで、簡単に学習してしまう。

久美子は、春馬から、息子の母親の事を一度も聞いた事がなかった。

又、あえて、久美子も、その事に触れてはいけないような気がしていた、春馬自身も、どんな事情があっての事なのか決して、匠の母親の事は話そうとはしなかった。

糸魚川の海を眺めながら、ふたりはそれぞれに、スケッチを思いのまま楽しみ、時には、お互いの存在を確かめ合いながら、微笑みかけて、安心しながら、時々、じゃれあうように、描いたスケッチを批評しあいながら、観ていた、誰にも邪魔されない、不安な心を感じながらも穏やかな時が過ぎて行った。

知った人に出会う事を極力さけて、糸魚川の街から少し離れた場所にある、安宿にふたりは泊まった。

年齢より若く幼な顔に見える春馬であっても、恋人同士には、なんとなく不釣合いな感じがする、又、親子として見るには、無理があるし、かと言って、不倫の関係のにおいなど、全く感じさせない!

どこか、清潔感のする、不思議なふたりの姿を、宿の者たちは、誰もがこころよい感情で、迎えていた。

食事のあと、ふたりは、部屋中に、今日ふたりが描いた、スケッチを並べて観ていた。

あまり、はしゃぐ事もなく、静かに、並んで座り、一枚、一枚のスケッチを、大切に観て、それぞれのバックの中にしまいおさめた。

久美子は、春馬のスケッチの一枚を自分の物と、取り替えて欲しいと頼みたかった!

その願い事を言葉にしたかったけれど、切ない感情を必死でこらえて、言葉を飲み込んだ。
ふたりの愛を知られるきっかけを残す事は出来ない!

おそらくは、春馬も、同じ気持ちなのだと、久美子は感じて、切なさと悲しみが身体中に走って、こらえきれない感情の高まりと情熱で思わず、大胆に、久美子の方から、春馬の唇をからだごと求めて行った!

それは、今までの久美子の控え目な姿からは、ありえない大胆な行動だった!
ふたりは、何度も、何度も、接吻をして、抱擁して!
『三度目の禁断のかべをこえてしまった!』

真夜中の海を、少しだけ、窓を開けて、久美子は、今もまだ、体が熱い、ほんの少しだけ開けた窓のすきまから、冷たい潮風が、久美子の熱い体を冷えさせて行く・・・

久美子は、体が冷えていくごとに、悲しみが深くなって行き、声を出さずに運命のむごさ泣いた。


    つづく

愛をこう人 21 (小説) 改編版

2016-12-11 19:26:01 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (21)
頬をつたう涙は幾重にも流れて、着ている浴衣を濡らして、冷えても、久美子は、じっと耐えるしかなかった。

その姿を、春馬は、眼を閉じたままで、すべてを知り、感じ取っていた。
春馬もまた、眠れない夜だった。

春馬は、久美子に伝えてはいないが、もう、これ以上、久美子に逢うことが出来ない!
逢って罪を重ねてはダメなのだ!

愛し合ってはいけない者同士がこのままの関係を続けていたら、どんな結末が待っているか、理性では充分わかっていても、ふたりは逢ってしまうと
「心と理性を失う!」

ただの男と女になってしまう自分の心と体のおそろしさを、春馬は深い罪として受け止めていた。

進むべき道を誤って、感情が浮遊する!
おぞましい自分の肉体を抑えられない事が恨めしかった!

これ以上、久美子に、悲しみや苦しみを、与えてはいけない事だと、春馬は、硬く心に決めてのこの旅であった。

もうこれ以上、互いに傷つけあってはいけない事なのだ。
春馬は、糸魚川の駅で、久美子に言った。

「私はこれから、行くところがある!」
「ここで別れよう!」
「君は、ひとりで帰れるね!」
「気をつけて、帰ってくれ!」
「それから、お願いがあるんだ!」
「東京に出て、大学で、勉強してくれないか!」
「やりたい事を、勉強してくれ!」

春馬は、それだけを言って、久美子に意識的に冷たく背を向けて、急ぎ足で、去って行った。

久美子は、松本に帰って、数日がすぎたある日、春馬から、おもいがけずの手紙が届いた。

手紙は、さも愛想のない、事務的な書き方で、久美子にストレートに伝わるように書かれていた。

「もう、これ以上、私を求めずに!」
「君の人生を生きて行ってくれ!」
「もう、苦しむ事も、悲しむ事もない!」
「私の存在を消した、生き方をしてくれ!」
「私はもう、決して、君を求めない!」
「もう二度と、君に逢う事も無い!」
「お互い、思い出など、つくっては、ダメだ!」
「私は、もう、君を愛さない!」
「どうか、私を忘れてくれ!」
これだけが書かれた、手紙だった。

春馬が、糸魚川で、別れる時に言った言葉・・・
「東京へ行き、勉強してくれと!」
「いったい、何を、学べばよいのか・・・」

久美子は、今は、なにも考えられなかった。
ただ、無気力な日々・・・
こうなる事は、久美子もわかっていたはず!

覚悟は出来ていたはずだったが、現実に、久美子は、春馬との別れは、耐え難い苦しみ、あまりにも、辛すぎた。

春馬からは、あの手紙一通が送られてきただけで、その後、ぷっつりと連絡がなく、居場所さえわからないまままるで、久美子との関わりを消し去るように、春馬は消えてしまった。

久美子は春馬へ連絡の取りようもなかった!

伯父と姪の、命がけの恋愛は、どんなに願い、祈っても結末は悲劇で、悲惨で、残酷だった。

糸魚川でのあの日から、三ヶ月が過ぎた頃、久美子は、新たなる運命を、喜べずに、思い悩んでいた。

二十歳を過ぎたばかりの久美子に、新たなる過酷な運命が!

久美子のお腹には、伯父である『春馬』の最高のプレゼントであるはずの!
『小さな命が息づいていた!』

禁じられた愛を懺悔して放浪する魂
愛するひとの新たなる運命も知らず
遥か遠く彷徨いびとの心とからだにきざむ
深すぎる傷の痛みは逃避する場所もない
紺碧の海の色は美しき愛を語るひとを映す


    つづく

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眼の痛みにも耐えて、昔、こんな情熱のある文を書いていたのだなんて、恥ずかしくなったり、でも、今の私には書けない、ちょっとかなしくなるけどこれもまた私の生きてきた道なんだとおmったりもして・・・

つたないものを多くの方々にお読み頂けて感謝です、ありがとう。

愛をこう人 22 (小説) 改編版

2016-12-11 19:25:16 | 小説 愛をこう人 改編前版

(22)
久美子は、これから、どう生きるべきか、想像する事さへ出来ずに日々だけは過ぎていく、今、自分のお腹の子をとても中絶など出来ない!

この身に起きた事、とにかく、子供を生む事にして、出来るだけ、世間に知られずに、久美子の家族には特に、知られてはいけない事だった!

春馬にも、もちろん知られずに最大限の注意をして、産み月まで、隠れるような、目立たずに、目立たずに、密やかな暮らしだった、久美子は、正直に言えば、全く、子供を身ごもるとは、思ってもいなかった。

こんなふうに言ってしまうほど、久美子の心は幼かったのだろう、自分には人の親になる資格のない人間だと、思いながらも、久美子には、まだ何の感覚も無い!
「命の存在」
を無視する事など、とても出来ないし、勇気もなかった。

そんな日々が数ヶ月過ぎて行き、ある日、突然、なにか途轍もない力で、久美子に伝わる感覚!

すこし、お腹にお肉がついて、太ったのかしらと、感じている時だった。
久美子の体の中で、
「命の存在を感じた!」
「はじめて自覚出来た瞬間だった!」

久美子の心の中で、母に伝えたい、切なくて、悲しくて、表現の出来ない特別な感情がして、久美子はひとりで泣きながら、不安と喜びの涙が流れた。

その日から、久美子は、もう、迷う事無く、子供が生れて来る準備をどうすれば良いか真剣に考えた。

時には、命の存在に励まされる思いがするほど、久美子の中で息づく命!

その動きは、どんな苦しみより、悲しみを伴いながらも愛おしさが募る感覚で、久美子に訴えているように、思えることだった!
久美子はそんな時、誰に教わった事でもないが、自然な気持ちで、その命の存在に話しかけていた!

『ごめんなさいね、あなたをこんな想いにさせて!』
『悪いお母さんだけれど、あなたを待っていたの!』
『元気で、逢いに来てください!』
そんなふうに語りかけていた。

久美子は、この命の存在は
『神からのお預かりした存在!』
『神は誰かの為にこの命を久美子に託したのだと!』

そんなふうに思える感情であって、とても正直な気持ちで神から託された「存在」を信じられた。

久美子自身から伝わり来る「存在」の愛を感じて、そう思う事で正当化して自分に言い聞かせて納得出来た。

久美子は犯した罪からの逃避としての言いわけなのかも知れない、そう考えた事もあったけれど、現実の久美子には、自分の手で育てる事が許されない!

この子の幸せの為にもこの子を、慈しみ育てて下さる方が本当の親になれるのだと思えるのだった。

久美子に与えられた時間の中で、この子への愛を全身で語り伝えようと思った。
そして、久美子は安らいだ気持ちで・・・
『心で語りかけた時、命の存在は答えてくれる!』
『力強く、動き、久美子のお腹を突き破るほど!』

ふと、そんな時の久美子はこの息づく命を限りなく、愛しく感じる瞬間だった。
そんな生活の中で久美子は子供を生んだ!
『子供は、男の子だった』

久美子の実家や、父、姉夫婦に知らせずに、久美子は子供が生れる三ヶ月前に仕事を退職して、ある、ボランティア団体のお世話になり、人知れず、運命の子を生んだのだった。
そして、その団体のお世話で、生れて直ぐに、子供は養子に出された。

子供の養父母には、久美子の事は知らないけれど、子供の生れた事情をすべて知ってもなお、大切に育ててくださる事を約束してくれた。

実家の姉夫婦は、久美子の変化に気づき、かなり、心配していたようだが、身内や親戚には、特に知られてはいけない子供の存在!

知られる事を必死で避けて隠した、久美子は、最善の注意をして、身を隠しての行動だった。

生れた子をわが胸に一度も抱く事無く、久美子は養父母を信じてわが子を託した、久美子自身の体がまだ完全に快復しないままに、その場所を去った。

まるで、体の一部を引きち切られるような感覚の痛みを感じて、久美子は悲しさを押し消して、耐えた、ただ、ただ、生まれた子供の幸せを願って、一刻も早く、久美子自身の存在を消したかった。

そうしなくてはいけない、残酷な運命の子供を生んでしまった事の罪深さが悲しくて、辛くて、苦しかった。

そして、生んだわが子へ、心から詫びる事しかできない久美子・・・
ある程度、体も快復した頃、久美子は、実家の姉に連絡して、松本で会う約束をして出かけた。

もうその頃には、松本のアパートを、だいぶ前に引き払っていたけれど、姉は、その事を知らずにいたので、アパートへ行くからと強く言い張ったが・・・

どうやら、姉は、今回の久美子の雲隠れしていた事をとても気にしていて、久美子が、誰かと、同棲しているのではないかと、疑っていたようだった。

若い女の一人暮らしは、世間的にも、気になる事だった、久美子は、少し長いひとり旅をしていたと、ごまかして、姉を納得させた。
姉は、会う場所に、気がせいたのか、約束の時間にはもう来ていた。

そして、久美子の疲れた姿、やつれた姿を見て、いろいろと聞き、心配してくれたけれど、久美子は、旅の疲れが出ただけだと言い張って、姉を納得させた。
久美子は、松本での仕事を止めた事、そして、今は、東京に住んでいる事を話して、これからは、働きながら、大学で、絵の勉強する事を話して、少し足りない、大学の入学金を貸してほしいと、隠し事の言い訳もあり、頼みこんだ。


         つづく

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眼の痛みにも耐えながら、こんな作業をするのはなぜ?、z
自分がわからなくなる、恥ずかしさも、時には生きているあかしなのだろうか・・・



愛をこう人 23 (小説) 改編版

2016-12-11 19:24:37 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (23)
姉は、とにかく、実家に戻るように言ったが、久美子は、もう、すでに、アルバイトも決まり、数日後から、働く事になっているので、今日はこのまま、東京に帰ると、強く、言い張って、入学金の一部を貸してくれるかを、確かめて、東京の下宿先の住所を書いたメモを渡して、「ここに、送金して欲しいと」言い残して、久美子は、姉から逃げるように、別れて、夜行列車に飛び乗った。

久美子の現実は、まだ、何も決まってはいなかった。

働きながら、大学で、絵を勉強する事も、考えの中には確かにあったけれど、住む場所が決まっているだけで、仕事も、入学するはずの大学も決まっていないのが現実だった。

久美子の真実は、気力のない、疲れきった精神と体!

たとえどんな難路を生きて行くとしても歩きつづけて行くしかない!
全てがこれからの事、言い知れぬ不安が容赦なく久美子を襲ってくる。

まだ、心が幼い私の試練
非常な運命を自ら背負い
いばらの道を進むしかない
自らの肉体を切り裂き
愛しさを捨て
ぬくもりを捨て
いとし子のご加護を
ただひたすらに祈る

その頃、春馬は、久美子との愛を断ち切るために、身を切りきざむような苦しみに耐えていた!

自らの身をがんじがらめにして、遠洋漁業のマグロ捕り漁船に乗っていたのだった。
春馬は無理に肉体をこき使う事で、すべての欲情や苦しみに耐えられると考えた。
自分の肉体へ、復讐するような行為で乗り越えるすべしかかんがえられずに・・・

マグロ漁船で働く事は未経験な春馬だったが、知人の漁船乗組員に強引に頼み込んで、船に乗り、簡単に帰れない場所に、自分の身を置く事ですべての想いを断ち切れると思った、それほど、春馬は煩悩と罪の意識とに相反する苦悩に追い詰められていた。

又、経済的な面でも、とても助かるし、魅力だったが、果たして、無事に帰れるかが、気がかりではあったけれど、これ以外では、春馬自身を変えて、生きる道はないのだと、硬く心に決めて船に乗った。

春馬の息子は、行き場の無い事もあり、伯父、甥の関係であり、又、久美子の父は、実の兄たちの手ひどい裏切りが辛く、人を信じられなかった、だから、気があう、春馬を一番の好きな弟として、心のよりどころとして親しみを感じたのかも知れない。

長く実家に預けられたままだった、春馬の息子を、久美子の父も、おそらく、大切に思っていたのだろう。

ほんの数日、春馬と匠は、松本のアパートで過ごして、又、久美子の実家に、息子を頼むしか、方法がなかった。

春馬が船に乗る事を知り、姉夫婦も預かる事を承知した。
春馬の息子「匠」はこうして、久美子の実家で高校卒業までここで暮していた。
そして、父の春馬から、半年に一度、高額のお金が送金されて来た。

それは、久美子の家族やまわりの者みんなが、聞いて、驚くほどの遠い国からの送金だった。

久美子は、春馬のそんな出来事をなんとなく耳に入って来たとしても、ひとり、苦しみや悲しみに耐えるしかなかった。

春馬との連絡をたち、密かに産んだ、わが子にも、逢うことなく、十数年の歳月が過ぎて行った。

その歳月のほとんどを、長野の実家にも帰らず、その生活は世間をはばかる為の儀式のように、極めて、何事もなく装う久美子の本心なのか?

その長く苦しい歳月の間に久美子は、私学の短大を卒業して、今は、大手の商社に勤める、OLとして、生活!
世間の何処にでもいる
「普通の独身女性として生きて来た」

そんなある日、突然、久美子の住まいに、春馬の息子の『匠』
が、尋ねてきた。

「父からの預かり物を届けに来ました!」

そう言って、匠はぎこちない態度で、一枚の絵を久美子に渡した!

久美子は糸魚川の駅で、春馬から何も告げられずに、突然別れてからもう十数年の歳月が過ぎた、久美子は、春馬との別れのあと、久美子自身が、考えもしていなかった、久美子の身に起きた、残酷すぎる運命、苦しみの中で、家族の誰にも知られずに、乗り越える事が出来た!そして、今、やっと心の傷の痛さにもなれ、たとえ、うわべだけでも、静かな生活に落ち着きを感じ始めて来た。

あの辛い体験を心の奥底に隠して暮せると思い始めた時だった。

春馬の息子「匠」も今は、大学生になって、上京し、都内の大学の寮に下宿していた。
春馬は十数年ほど、マグロ漁船に乗って、匠の将来の為の資金をつくり、そのすべてを息子、匠に渡していた。


        つづく


愛をこう人 24 (小説) 改編版

2016-12-11 19:23:55 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (24)
春馬は、長い間、息子の匠を久美子の実家に預けていたが、匠が、大学生になって後、しばらくして、マグロ船を降りた。

匠が独り立ち出来るだけの貯金もあり、匠を引き取りに来て、姉夫婦に、深く頭を下げて、お礼をのべ、匠を育てて貰った事に感謝を述べて、春馬と匠は久美子の実家を引き払った、だが、久美子に会いに来たのは匠だけだった。

微かな願いも虚しく、春馬は、久美子の前に来てくれる事など、期待出来ない事!
そう、久美子は春馬の気持ちを理解していた!

けれど、分かっていても、やはり寂しく、悲しかった!
匠は、松本で、春馬とふたりで、宿に泊った時!

春馬から、これから春馬自身の生きて行く道を話して!この絵を、久美子に渡して欲しいと、その時に、頼まれたと話した。

春馬は、これからは、匠自身の力で生きて行ってほしいと、言い残して、春馬は多くを語らずに、親子は別れたそうだ。

春馬のこれからの人生は、どうやら・・・
「出家し、お坊さんとしての修行をしている!」

そう言って、匠は、少し寂しげに久美子に伝えた。

もちろん、久美子と春馬の間に男の子がいる事など、春馬も、匠も、知るはずも無く、久美子は、春馬と逢う事を願う事など、許されない!

久美子は、春馬の苦しい罪意識と深い想いを感じて、複雑な感情になって、どんな恋しさも、時間が解決してくれる事を願った。

春馬と久美子の狂おしいまでの愛も、お互いを思いやる心で、どうやら乗り越えたのだ。

久美子は、春馬がこれからの人生を仏門に入り生きる!
自分を律して、精神世界で生きて行く事を選んだ!
その事を聞いて、久美子は、なぜか、心の中でやすらぎさえ覚えた。

匠は、大学の寮で暮しながらも、いまだに、人付き合いが苦手のようで、あの日以来、久美子に連絡もなしで、突然、尋ねて来るようになった!

春馬から託された絵を持参した、あの日、久美子は驚きと喜びの入り混じった混乱から、匠の生活の様子を聞いてあげる余裕がなかった。
「家族の愛やぬくもりに飢えていたのだろうか!」

匠が久美子の部屋を尋ねて来る時は、何か嫌な事でもあった時なのかひどくお酒に酔い、わけの分からぬ事を、わめきたて、辛さをこらえているような時が多い!

そうかと思えば、子供のように、久美子に甘えては、
「ねいちゃんは、僕を好きだよね!」、
「僕は、ねいちゃんが、大好きだったんだ!」
「僕をいつも、置き去りにして、何処へ行くの?」

そのような事を口走りながら、心の寂しさを、久美子に訴えて、そんな時、久美子はいつも、姉のような気持ちで、聞き役をしているだけだった、そして、ある夜、そのまま子供が泣き寝入って起きようとしない匠を、久美子は仕方なく、そのまま、部屋に泊めてしまった!

その日から、数ヶ月が過ぎた!
匠は、時々、当然のように、久美子を訪ねて来ては、泊まる事が普通のことのように、
「姉と弟のように、ふたりは、自然な過ごし方になって行った!」

三十歳の半ばをを過ぎても独身でいる、久美子に、いよいよ、実家の姉は口うるさく姉として、家族として心配していた。
「結婚を勧めて来る!」

久美子は、どんな立派で、社会的に認められた男性を紹介されても、結婚する気持ちにはなれなかった。

また、仕事や、友人、知人の集まりで、男性と親しくなったとしても、「恋心や愛情を感じる事は無かった!」

しばらく、描いていなかった絵を又、描きはじめてみたり、普通のOLが楽しむ、旅行などにも出てみた。

なにをしても、友人たちとの付き合い程度で、特別に夢中になれる事も無く、「坦々とした歳月が過ぎて行く!」

いつしか、自然なかたちで、匠が、久美子と過ごす時間が多くなって行った。

匠は大学を卒業し、ある企業に就職してからは、どちらからとも無く、改めて、話さなくても、お互いが、一緒に生活する事も自然で不思議ではないのだと思うようになっていた。

だが、それは、男と女としての生活ではなく、久美子にとって、匠の存在そのものが「肉親のような感情!」

可愛い、歳のはなれた弟のようであり、
「息子のように思える感情があった。」

お互いが必要とする、家族のような関係でもあった。
お互いが、そばにいる事で、心が安らぎ、気持ちの安定さを感じられる存在だった。


          つづく


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眼が痛い!けど、更新やめられない、馬鹿な私、
でも、生きる事は、痛みや苦しみも、エネルギーなのだろうか・・・
見えにくい眼で、不自由さが私の日常


愛をこう人 25 (小説) 改編版

2016-12-11 19:22:52 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (25)
ふたりの生活は、お互いの恥ずかしい姿であっても、気づかいあう事も無く、自然体で見せ合えるほど、ごく普通の姉と弟の日常的な暮し、すくなくとも久美子の気持ちだった。

お互いの友人や知人へも姉であり、弟だと言えるし、誰もが、そう、見て、信じていた「ふたりの関係だった!」

いつしか、ふたりの生活は、趣味として、絵を描きはじめ、軽い競い合いの中で、心が意識なく安堵する思い!
日常の雑多な事から逃れられる!
大切な時間をふたりは楽しんで生活していた!

「たくちゃん、今日、なにが食べたい!」
「うん、そうだね、ねいちゃんの好きな物でいい!」

「じゃ、さあ~・・・・」いつも、こんなふうに、気楽に話しては、笑顔を交し合える仲だった。

だが、いつしか、匠は、久美子への呼び方を
「久美子ねいちゃんから!」
『久美ちゃん!』

と、自然に変わっていた。
久美子の気づかないところで、匠は、久美子を、女として、見て、恋心を抱き始めていた。

きっかけは、なんであったのかは、匠自身も分からぬままに、匠は、久美子を恋い慕う想いが日々募って行くことが、匠自身も戸惑いながら、あつい恋心をどうする事も出来ない、いらだちを止められずに、匠の若い感情で自身の心と体を持て余していた。

「匠の若き肉体は、男としての自然な働きをする!」

久美子を求めたい感情と姉と慕う感情のせめぎあいに、匠の苦しみは、耐え難いものだった。

そんな、匠の心の変化を久美子は、知ろうともせず、いや、久美子には、知る必要のない事だった。

『久美ちゃん!』
『久美ちゃん!』

わけもなく、久美子のそばで名を呼んでみる、匠の苦しい、息遣いと心情!辛うじて、理性が匠を抑えていた!

匠は、母を知らず、母の愛情がどんなものか、父である、春馬の生きざまを、否応無く背負わされた子だった。

久美子の実家にたどり着くまでの日々がどんなものであったかは、想像がつく!

春馬は、自分が久美子の父の腹違いの弟だと言う事以外は、何も話そうとしなかったし、誰もが、知ろうとせず、むしろ、知りたくない事だった。

久美子の父とはなぜか、気があう不思議さがあった。

だがその父も、数年前に、放蕩の限りを尽した人生だったが、最後は、あっけない命の終りだった!

お酒に酔って、ふらついて歩いて、橋から川に転落して、即死状態だったが、発見されるまで、長い時間、誰にも見取られる事無く、父は死んだ、人は、いろいろと噂したが、性格も、顔立ちも、良く似ている久美子は、なんとなく、父のすべて、ではないまでも、父の気持ちが理解できた。

「どうしようもない眼の前の現実!」

夢を求めすぎて感情との折り合いの付け方が出来ない、父はたぶん、人一倍生き方の下手な人間!

孤独に打ち勝つ事が出来ない、弱くて、寂しすぎた、人間だったのだろう、久美子は、そんな父を、今、好きな気がした。

父の本当の気持ちも、生き方も、理解出来る事ではなかったが、母を亡くして、寂しさを紛らわす為に、旅をして歩き、常にお酒を手放さず、夢物語の幻を見ては、そのすべての夢に裏切られつづけた、そんな生き方の繰り返しだった。

そうした、人生の中で、父は、自分と似ている境遇の春馬との出会いが、心の救いだったのかも知れない!

たとえ、真実はどうであれ、私たち家族は、父の言葉を信じて伯父として、春馬親子を受入れた。

久美子は、その結果を想像も出来ずに!
『あまりにも残酷な!』
『久美子と春馬の!』

『地獄をのぞき見る、愛があった!』
『どうする事も出来ずに!』

『ふたりは狂おしいまでの恋を断ち切った!』
『誰にも、知られずに!』
『隠し通さねばならぬ秘密を残して・・・』

どんなに、もがき、苦しんでも、時間という手助けが、これほどの力があることなのだと、今の久美子は、心から感謝する思いだった。

過ぎて行く時間の中で、春馬の息子『匠』は実の弟であり、春馬の息子としての、肉親の久美子の愛情だった。

心の苦しさや耐え切れぬ寂しさと、孤独を癒してくれる存在でもあった。

突然の愛に戸惑いながら
母と姉の心で君を見ている
私の愛は君の後ろにいる人

そんな日々の中で、久美子が、常に、大切にしている、春馬から、おくられた、春馬自身が、幻の久美子の姿をモデルにして描いた。
『春の幻影』

こう名づけられた、春馬のこの絵をひと目みれば、久美子の美しい裸身を夢の中で、描き、追い求めている!

春馬の心が、久美子には、胸に迫る想いで、苦しいほど春馬を思い出している。

おそらくは、この絵を描きながら、春馬自身は、眼に見えぬ、火焔地獄を、乗り越えて、久美子を、幻の姿に変える事が出来た時に描けた絵なのだろう。

この絵が語り伝える、春馬の久美子を案ずる気持ちを、今、心揺さぶられながらも、久美子は、大人の女としての落ち着きを保てる微かな心の余裕を持てた。
そんな気持ちにさせたのも、匠の存在が大きかった!

誰よりも大切な家族としての心のよりどころでもあった、
『匠』

久美子には、実家に、はじめて来た、あの日の匠の姿を見ている感情だった、幼く可愛くて、ニコニコと、久美子を慕ってくれた。

「匠の無防備で、すがり付いてきた!」
「冷たくて小さな手!」

あの感覚が今も久美子の体に感じている。

あの、春馬への熱情をひた隠しに暮した日々も、匠は、姉として慕ってくれた。
久美子はそんな気持ちから、男として見ている感情はないと思っていた。

けれど、年齢を重ねるごとに、大人の男として成長して行った「匠」が、なにげなく一瞬、振り向いた時の姿は、否応無く、春馬を思い出させて、久美子と匠の関係は少しずつ、感情のずれを感じてしまった。

そして、匠は、久美子に対する、母のような思いから、ひとりの女としての姿に、かわってしまった。

匠は、久美子に対して、いつしか、女性として恋する感情が芽生えてしまった、匠の若き肉体は、日に日に男を匂わせてくる!


          つづく


愛をこう人 26 (小説) 改編版

2016-12-11 19:21:51 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (26)
もはや、久美子は、匠の存在に身も心も包み込まれてしまうのではないかと、恐れて、匠に対する接し方が、あきらかに変えていた。

「匠を呼び声さえも、豹変させて!」
「わざと、心無い、呼び方に変えて!」

匠も又、久美子への想いを、素直に伝えられぬいらだちで、時には、久美子に対して、他人に接するような、ぎこちない態度になってしまう、そしてある夜、匠は、久美子に告白した!

「ねいさんが好きです!」
「もう、僕を、男としてみて欲しい!」
「恋人としての付き合いをしてほしい!」
「ねいさんも、僕を好きだよね!」
「どうか、真剣に考えてほしい!」

そこまで、言った時、久美子は、匠の口を手でおさえて、もうそれ以上は、言わないで、お願いだからと、必死で、抑えた。

久美子には、匠からの告白が、苦しかった!
匠の父、春馬との禁じられた愛に苦しみ・・・

そして、存在さえも、隠さなくてはいけない子を産みながら、今、何処で、どんな風に、生きているのかさえも、知る事が出来ない、
『秘密!』

久美子は、あまりにも、苦しい生き方をしていた。

もう、人を愛することや人を恋することなど、許されるはずのない人間なのだと、久美子は自分で決めていた。

ほんの一瞬でも、匠に対して、女としての姿を見せてしまった事が悔やまれた!

久美子は、匠に対して、もう、あれ以上の事を言わせてはいけないと、数日間、自宅には帰らずに、匠が、落ち着いて、気持ちの整理が出来る事を願っていた。

けれど、数日が過ぎた日に、自宅に帰ると、匠は、久美子の帰宅を待ちかねていた。

匠は、自分の想いを受け入れようとしない、久美子に、口にしてはいけない最後の言葉を、言ってしまった!

その言葉は、久美子が一番恐れていた事!
久美子に対して、徹底的に憎しみをこめた怒り!

匠の心は誰もが計り知れないほど傷つき、壊れてしまった、繊細すぎるほどの感性豊かな人間だったから、匠の心の怒りは、理性への反乱のように、久美子に浴びせた言葉は残酷な真実をあからさまにして!

「僕の存在は、あの春馬、父の代わりだったのだね!」
「僕が何も知らないと思っていたの!」
「僕はすべて、何もかも、知っているんだから!」
そう言って、久美子を責めた。

「匠の怒りに満ちた顔」

「神聖だった想いは汚された怒りにかわった!」
もう、僕は久美子ねいちゃんとは、暮せない!

一緒の空気さえ吸えないし、食事も一緒に食べる事が出来ない、僕を突き放したのだよ、もう、ここにはいられない、一分、一秒だって、ねいちゃんと過ごすことは出来ないから
「僕は出て行く!」

ねいちゃんは、気が済むまで父を待つのだね!
ここで、ひとりで待つ暮しは寂しすぎるよ!

そう、久美子にはき捨てるように言って、「匠は家を出て行った。」

また私を孤独がつきまとう
いつまでもつづくひとりの旅
心が張り裂けるまで心の旅はつづく
誰かの助けも
誰かの支えもなく
生きる事を選択した私だから

気まずく、心のわだかまりを残したまま、匠が出て行っても、久美子は、何も出来ない、匠に対して、いいわけも、何かの手助けをする事も出来なかった、匠に対して、女としての心づかいをしてはいけない事だと思い、わざと冷たくした。

久美子には、匠を愛する事も、受入れる資格も無い人間なのだから・・・

匠はもう、立派な大人で、社会人であり、自分に責任の持てる人間であるし、久美子自身のほうがむしろ、寂しさや孤独に耐えられるか、不安があった。

いざ、久美子はひとりになると、取り残された、孤独感に耐えられず絶望は久美子が思っていた以上に苦しい日々にいた。

匠との暮らしは、ほんの些細な出来事にも、笑えあえる穏やかで心安らぐ空間を、匠は作ってくれていたのだった。

久美子は、ただ、時間が過ぎて行く事をたよりに生きて行くしかなかった、久美子は世間がどう動き、どんな事が起きているのかも気がつかないほど、何事にも興味を持てずにいても、人間の世界に住んでいれば、聞きたくない事でも、いろいろと知らせてくれる、おせっかいな人がいる。

匠は、ここを出て行って間もなく、勤め先の同僚の女性と結婚したと知らせてくれた、相手の女性に望まれての結婚だと聞いた。

久美子は、心から喜び、祝ってあげたい気持ちだった。

匠が、久美子を忘れるための結婚であっても、相手の女性へ祈るような思いで、匠の幸せを願って、人づてに、結婚祝いの品を託した。

久美子と匠を知る人たちは、姉と弟としての認識でいるわけだから、ふたりの実情がどうであれ、偽りの心であっても、形式的な事を行うしかなかった。

虚しさが、久美子の心のコントロールを崩して行き、今すぐにでも誰かにすがりたいほど孤独な時間が怖い、無気力な日々がつづいて・・・

誰ひとり、知らないはずだった、久美子の愛のひみつを隠し通せると信じていた、愚かさが、暴かれてしまった、

「春馬と久美子の禁断の愛を!」
「若き日のあふれるほどの想いを!」
「たった二年の愛を交わした時間!」
「耐えようのない、熱情に負けて、犯した罪!」
「春馬と久美子のすべてをかけた三度の契り!」

そのすべてを知っていたと匠は久美子に浴びせた、呪うような言葉が、今の、久美子を苦しめ続けていた。
あの、恨みをこめた、最後に見せた匠の顔!

あの、かわいい弟として、たとえ、偽りであっても、息子のような感情で、久美子は匠に接していた。

けれど、やはり、偽りの感情を、匠は、鋭く見抜いていたのだろうか、久美子自身の匠へのつぐなうべき事も出来ない匠への仕打ちが許せなくて、益々、久美子自身の心を追い詰めて、身の置きどころをなくて行く
「悔恨の思いが久美子を追い詰めて行く」

耐えることが出来ずに、久美子は、不確かな情報をたよりに、春馬に逢いたくて、旅に出た、それは、何の確証もない、春馬の所在だった。


           つづく

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眼が痛いので読み返し出来ていません、誤字、文章のおかしさがあるでしょう、お許しください。



愛をこう人 27 (小説) 改編版

2016-12-11 19:20:37 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (27)
東北の山里にある、お寺で修行をしていると、かなり前に聞いていた、そのわずかな情報だけが、今の久美子を奮い立たせての旅立ちだった。

列車を何度か乗り換えて、たどり着いて降りた、小さな駅舎には誰もいない無人の駅なのか、人の気配もなく、静ずか過ぎて、これから、久美子が向かおうとしている、行く先を暗示しているように思えて、胸騒ぎのような不安と怖いような緊張感を感じた、なにもかもが不可能な事のようにも思えた。

このひと気の無い、見知らぬ場所で、久美子はただ震える体を必死で支えて、耐えた!

久美子は、これからどうすれば良いのか、ただ、立ちすくんで久美子は心の中で祈った、きっと私を救ってくれる人が現われる!

春馬はきっと何処かで、私を見ていて守ってくれる!
その時を待つしかない!

いつだって、春馬は私を守ってくれていた、どんな困難にも、打ち勝つ力を与えてくれたと自分の心に言い聞かせていた。

「私はあと、どのくらいの時間をここで待てばいい!もう、夕暮れも近い!!
今夜の宿さえ、見当たらない、眼の前は山々が黒々と折り重なる風景!

これから、どうすれば良いのか、途方にくれていた時、この駅の駅員さんのようで、赤い線の入った帽子をかぶった男性、どう見ても、この辺の農家のおじさんの姿だ、たった今、野良仕事から、帰って来た!そのような姿だった。

この人は、私の姿を何処かで見ていたように
「お客さん、すまんのう~、待たせちっまったね~」
「隣のばあさんが、急に体の具合が悪くなって」
「町の医者の所まで、連れて行ってたもんでね~」

確か、そんなふうな事を言ってるようだったが、久美子には、この人の話す言葉が上手く理解出来ないし、久美子自身のこれからの事で、緊張と不安でいっぱいで、頭の中で混乱していた。

久美子は、不確かな、お寺の名を言って、尋ねてみた!
「あの~ジョウカン寺はどちらにあるのでしょうか!」
「その寺に行くには、どう行けば、良いのでしょう?」

すると、その人は、大笑いして!
「あんたさん、そんな寺はここいらには無いはな~」

と簡単に言われて、久美子は、益々、不安と混乱して、ただ焦って、どうすれば良いか、分からなくなった。

「とにかく、今夜は、もう、汽車も来ないし!」
「陽も暮れて、何処さも行けねな~」
「家さ、泊まるかね~、」
「わし、ひとりだけだが、良いかね~」
「おら~年だから、男も出来ね~がな~」

久美子には、この人がなにを言おうとしているか、理解出来ない!

「良かったら、うちさ~こらっせ!」

そう言って、久美子のかばんをいきなり持って、歩き出した。

予想もしていなかった、展開に久美子はうろたえたが、もはや、久美子は、この男に従うしかなかった。

しばらく、田んぼのあぜ道をその人について歩き、四~五十分ほどだったろうか、久美子は、足の痛さも感じないほど、緊張していたようで、この人の家に着いて、やっと少し、ほっとした時、身体中が痛かった。

足が靴ずれを起こしていて、血が出ていた事も気づかないほど、自分を見失っていたようだった。

家の中は、男ひとりで暮しているそうだが、こざっぱりとした、片付いた部屋で、手早く、お茶を入れてくれた、こんな時、ふつう、女性はどんな態度をすればよいのだろうか?

澱んだ空気に苦しくても
今は従うしかないこの身
祈る想いが闇をひらいて
ひと夜の宿
かりそめの笑顔にして

見知らぬ地で、全くの初対面の男性、自分で、「爺さん」だからと言ってたけれど、次々と、進んでいく思わぬ事で、すっかり、久美子は混乱していた。

「何も、ね~けんど、飯だけは、うめ~から!」
「腹いっぺ~食べてくれや~」

そう言って、炊きたてのご飯をどんぶりに山盛り、よそってくれて、味噌汁ときゅうりのふるづけを久美子の目の前おいた。

あさから、ほとんど何も食べていなかった久美子は、ひと口食べた、そのご飯が、とても美味しく感じて、少し心がおちついた気がした。
「風呂に入りて~だんろけんど!」
「勘弁してくれや~」

なんだか、今日はめんどうだで~の~
「水が、こきたね~で~、やめとったあ~ね~」

独り言のように言って、何処か、外に出て行ったが、すぐに戻って来て、
「隠居部屋さ、布団しいといたで~」
「眠くなったら、寝てくんろ~」

そう言って、隣の座敷らしい部屋に入って行ったが、少しの時間で戻って来た。

お茶を入れてくれて、囲炉裏の火を気にしているように火ばしを急がしく、何度も、動かしながら、
「おめえさん、寺をさがしに来たかね~」
「この村の奥に、ゆ~こっく寺だが~」

確か、そ~つう、寺があるだで~よ~
「明日、行って、みっか~、案内してく~べ~」

そう言って、ちらっと、興味ぶかけに、久美子の顔を覗き見た。

久美子は、待ち構えたように、聞いてみた!
「その寺に修行してる男の人がいますか?」

どうも、久美子の聞いた事が理解出来ないようで、
「寺にゃ~ふたりの坊さんがいるだで~」
「行ってみりゃ~、わかっぺ!」

そう言って、その後の言葉がつづかず、すこしの沈黙があって、
「今日は疲れたべや~、早くねんべ~」

そう言って、男は立って行った。

久美子も、言われたように、別棟になっている、隠居部屋だとされるところへ移った。

もう、お布団も敷いてあって、男ひとりで暮しているのに、不思議なほど、布団も、部屋もこぎれいに整頓されていて、気持ち良く寝る事が出来たけれど、久美子は、緊張がほぐれずに眼が冴えてほとんど眠れずに朝をむかえた。

次の日の朝、この男の案内で、村はずれの、奥まった場所にお寺はあった、案内してくれた男に、丁寧にお礼を言って、別れて、久美子ひとりで、たずねることになった。

案内してくれた男は、どうやら、この寺のお坊さんとは、顔を会わせたくない様子だった。

この寺も、人のいる気配がしない、静まり返った、空気が流れていて、久美子は苦しいほど体が硬くなって、前へ進もうとしても、思うように足が動かない!

さっきの案内してくれた、男が、この寺の誰かと私を紹介してくれるか、話の橋渡しをしてくれるものと、勝手に決め込んでいた私は、少し落胆した想いだった。

やっとの思いで、寺の周りを見て歩き、とにかく、誰かに、たずねなくては、何も始まらない事だった。

しばらく、久美子は、人を捜しながら、寺の周りを歩き回っても、誰にも、出会う事が無く、人のいる気配も無い、静まりかえった、不安と緊張のあまり、お寺の本堂らしきところの、階段に座り込んでしまった。


          つづく


やっぱり、何かにしがみつき、そして悩みながら・・・

2016-12-04 15:56:17 | 生きて行くこと

やっぱり、なにかに、しがみついて・・・
ここ半月ほど、いろいろと考え、そして答えは出ないけど
私は思いを言葉にして
それを生きがいに感じられているようだ!

けれど、体調はダメ
パソコンはうまく動いてくれない
業者を頼めば簡単になおせるだろうけれど
お金がかかるし、

なにより、今、我が家に誰かが来ることが嫌なのだ、家の中がめちゃくちゃで汚い
お掃除をすればよいのだが、それが、なかなかできない
かと言って、お掃除屋さんを頼むのも嫌なのだ、お金がかかるし、恥ずかしいし
たぶん、私の場合「介護保険」使えるのだろうけど、頼んではいない

以前、元気だったころ、ボランテアーで介護体験があり、その時の体験から、学び、そして感じたことが多くあって、いずれ、お世話になるだろうけれど、少しでも先延ばししたいと思っている。
正直、私はいつ死が来るかもしれないと思う日々だ!

死とは、」無なのです!
あちらの世界へは、今の世の物など何も要らない
だから、今の生活を出来るだけ、身軽にしたいと常々思うけど、これがまた大変なのだ

<家族>

これが、ありがたい存在でもあるけれど、人それぞれの価値観で生きてるわけで、私の考えを押し付ける事も出来ず、思い悩むのだ!
思い悩む日々だが、いまのところ、なにも解決せず
そして、明日もまた、考え、悩み、答えのない日々が・・・



パソコンと体調がダメなんです、とほほ・・・

2016-12-02 11:50:18 | 生きて行くこと

先月の半ばから、私めとパソコンがいかれたようで
ブログの更新も出来ない

私の体はもう、使い過ぎのボロボロだから
うまく、動かないのはわかるけど

パソコンは買い求めて1年なのに
どうして?
うまく、動いてくれないのだろう???

いろいろ
対処する気力もつづかない
困った

それでも
多くの方々のご訪問頂き
<感謝いたしております>

頑張りすぎず
頑張ります

つぎの更新はいつになるかな?

ありがとうございます。