(18)
春馬と久美子は禁断の愛を選択しても、逢えない苦しみに耐えてきた、この数ヶ月は、なにを見ても、お互いの穏やかに過ごせて欲しいと願う事ばかりだった。
それは、つかの間の再会、お互いを心配して、共に切ない感情と胸が高鳴り、今この時間だけは幸せな関係で居ようと話した。
約束の日まで、久美子は、待ちどうしくて、なんだか急に、時間がゆっくりと過ぎて行くように思えていたが、今やっと、会うことが出来た、春馬の隣にいられる事が嬉しくて、幸せだった。
たとえ、どんな結末が待っていようとも、今日だけ、この瞬間だけを生きよう・・・
もう、ふたりにはとめようのない心が結び合う、春馬と久美子の!
「情愛」であり「純愛」だった。
春まだ浅い、高原は、行き交う人もいない、春馬と久美子だけの世界をつくりだしていた。
鳥の声さえも聞くこともない、まだ、長い冬からのめざめはこの自然を閉じ込めているように、ふたりには、心地よい場所だった。
ふたりは、あまり、言葉を交わすこともなく、むしろ、ふたりが話しあう声は自然に対しての礼儀に背く事のようにさへ思えて来た。
どちらからともなく、手をつなぎあい、この自然の美しさにみちびかれるようにふたりは抱擁を交わす,精一杯のふたりの感情を押し殺してもなお、求めてしまうふたつの愛がそうさせてしまう。
そして、この風景に溶け込んだ、仲の良い普通の恋人同士のように、より添いながら歩いた。
広い高原は、誰か、他人に出会うこともなく、ふたりは、森の魂にみちびかれて、森の中へ入って行く。
丈の短いササが巨木と巨木の周り一面に広がる、柔らかな春の陽が暖かく樹木の間をぬって射して、ふたりが歩く、その場所だけがまるで、大自然の陽光のスポットライトの光を受けているように別世界が広がる、光の道を歩くように!
ふたりは、どちらからともなく、柔らかな草原の大きな木の陰に腰を下ろして、森の香りにつつまれて休んだ。
静かな森が、久美子の緊張した喜びに、あらく苦しそうな呼吸の乱れまでも春馬には聴こえていた。
でも、どんなに、愛し合っていても、ふたりの関係は、伯父であり、姪の関係、ふたり、密やかに逢う事を誰にも知られてはいけない!
春馬も、久美子も、お互いの名を呼ぶ事はしない・・・
今、おかれている現実を、思い出したくはない!
あくまでも、恋人同士の間柄でいて、今、この瞬間だけでも、心通じ合わせられる、ふたりでいたかった。
禁じられた愛にふるえて
寄り添いながら歩く
ふたりを森の精がおおい包み隠す
ふたりには、今、さほど、興味の持てない、お互いが観た最近の映画の事などをあえて話しては、感情の高まりを抑える努力をして、今のふたりには意味のない話を続けることの可笑しさも笑う事など出来ない。
けれど、久美子の若き肉体は、はちきれんばかりに、ピンク色に染めて、若い肌がとても美しくて、春馬は、無意識のうちに、久美子にそっと触れてしまった。
そんな行動を春馬自身が抑えられない、いらだちと共に、久美子への愛しさが、熱情へと変わって行く。
そっとやさしく触れた春馬の手のぬくもりを感じた久美子も又、愛する春馬に、触れられている事で、久美子自身の感情と、体中の血潮が、熱く流れて、早鐘のような激しい鼓動が苦しいほど、久美子は幸せな想いと、興奮した感情は、何ものにも変えがたい最高の喜びを感じていた!
森の奥深く、ふたりだけの世界はまるで、森の精霊に守られて、導かれるように、二度目の禁断の壁をこえた、けれど、そのふたりの姿は、この深い森の風景に溶け込んでいて、違和感を感じる事の無い、大自然につつまれた春の風がやさしく流れて森の風景と一体化し、むしろ美しさをつくりだしていた。
ふたりにはもう、後悔も、罪悪感もない、一瞬の幸せをもとめた、熱い想いがあった。
だが、その感情はふたりが深く傷つく事でもあった!
つづく