「歌を盗られたカナリヤは(その4)」
ひばりの「不死鳥コンサート」には、コロムビアに大儲けを企んだ仕掛け人がいて、ひば
りを焚きつけて開催の運びに至ったのだけど、ひばり自身はちあきの歌であったなんて知
らなかったと思いたい。(「真赤な太陽」の前科があるので何とも云えないが、そのとき
とは状況が違う。)
で、既に吹き込んでいたものを選りに選って、さんざんちあき等を甚振(いたぶ)ったコロ
ムビアに搔っ攫われたことに、加えて唯々諾々と従ったテイチクに対しても、腹に据えか
ねる思いがしたと思うのです。
コロムビアは、ちあきが郷鍈治と付き合い始めてから彼女の音楽活動に影響が出ている
ことに不満を持っていて、『週刊文春』(1978年9月14日号)に‟コロムビア側はときに
は二人の関係をマスコミに否定するなど努力を重ねてきた。それなのに一言の断りもな
く、電撃結婚をしてしまった”とリークしたのも、7月に専属契約解除をしたことの言い
訳でしかない。それ以前(1975年6月にそれまでの三芳プロダクションから独立後)にも、
三歳で死別したことになっていた父親が生きていて、たびたび事件沙汰を起こしていた
ことや、ちあきとの交際がうわさされていた森進一、千昌夫、荻島慎一と結び付けられ
るようにして、ちあきが年に一度は産婦人科に入退院をくりかえしていたと酷い記事を
書きたてられている。
先に取り上げた映画『象物語』の主題歌2曲をちあきが歌ったときにも、「レコード業界
のためにも、当方が契約を解除した歌手を使ってほしくない」とコロムビアが横槍を入
れたらしい。
このときに「もう歌いたくない」とちあきは郷鍈治に訴えたのでしょう。
コロムビアを契約解除されたときで無いと思うのは、デビュー3年目(1971年)に目黒区
八雲に当時の金額で三千万円とも四千万円ともいわれた邸宅を建て、そこに母ヨシ子と
二人の姉の家族と一緒に住むようになって、一家の大黒柱として稼がなきゃならない立
場にあったから。郷鍈治と結婚したばかりでもあり、生活のためには歯を食いしばって
頑張らなけりゃいけないときに、そのような甘えを云う筈がないと思うからです。
母ヨシ子が1984年1月18日に乳ガンで亡くなっていたので、最早ちあきにとっては、彼女の
天賦の才能の理解者であり、やくざな世界での庇護者であり、信頼のおける者は郷鍈治だ
けになっていた。
その彼が「僕のために歌ってほしい」、防波堤となって守るからそうしてほしいと願った
のでしょう。
だから郷鍈治が死の間際に「もう歌わなくていいんだよ」と声を絞るようにしてちあきに
伝えたことに繋がる。
よくぞ宥めてくれたと、郷鍈治に感謝したい。なぜなら、その後も素晴らしい歌を沢山
残してくれたのですから。ただし、船村徹作品を新たにレコーディングすることは無か
った。
でもどうして予定されていたオリジナル・アルバムが宙に浮いてしまったのだろう?
『LADY DAY』の再演に協賛社として名を連ね、宣伝用ポスターにそのアルバム発売日まで
告知していたと云うのに…。
当時のテイチク社長は、コロムビア時代の「喝采」以来ずっとちあきに寄り添ってきた
東元晃。彼がちあきを慰撫して、ちあき側も気を取り直して、アルバム制作に取り組ん
だ筈なのに。
結局、オリジナル・アルバムの発売は見送られ、そのアナウンスも無く、『LADY DAY』に
ついても大きな劇場での再演も行われることはなかったし、収録されたであろう映像や
歌の数々についてもテイチクが何ら語ることは無かった。
この辺りの経緯は僕の中でも揣摩臆測すら及ばない。
冒頭の写真は、その見出しにあるように2年前の『週刊新潮』に掲載されたもので、亡夫の
命日に母も眠る墓に向かうちあきの姿です。(例年同じような出で立ちだ。)
写真に添えた説明書きには‟近所のスーパーに立ち寄り、墓前に供える花を念入りに選んで
いた。(中略)彼女がスーパーで買ったのは供花だけではない。30分ほど店内を歩いてカ
ゴに入れたのは、2割引きの芋の煮っ転がしや、3割引きのカット野菜といった食料品。(後
略)”とある。
アパート経営や印税もあって金銭的には困っていないが、外出も滅多にしないし、上記の
ように質素な生活をしているようです。
歌を忘れたカナリヤは、「♪ぞうげの船に銀のかい 月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思
い出す」けど、歌を盗られたカナリヤは、もう二度と華やかではあるが恐ろし気な歌の世界
には戻らずに、ひたすら平平凡凡たる静かな余生を送っている。
直(9月11日)に郷鍈治の三十三回忌がやってきます。その後すぐに(9月17日)ちあきが喜
寿を迎えます。
デビューは、A面「雨に濡れた慕情」B面「かなしい唇」をリリースした1969年6月10日です
から、55周年になります。
33、55、77とまるで七五三がダブルでやってくるような記念の年ですから、商売熱心な連中
がまたぞろ騒ぎ立てていますが(もっともファンとしてはどのような形であれ嬉しいのです
が)、ちあき本人は多分無関心。洗濯機の中で様々な色合いの衣類がまるで万華鏡のように
ぐるぐる回る様をぼんやり眺めて居たいのではと…。
(了)
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