駅にて
ある男が駅で電車が来るのを待っていた。
その男はカバンから小説を取り出し、電車が来るまで小説を読んでいた。
・・・・・・・・・
小説を書こうと思って、そういう内容の短い文を書いたが、それ以上、どうストーリーを作ったらいいのか、わからず、挫折してしまった人がいる。
僕なら、いくつかのパターンで小説を完成させることが出来る。
なので、僕は、二つほど、短い小説を完成させてみた。
まったく、ゼロから小説を作り出すより、こういう、何らかの条件があった方が、小説は作りやすい面がある。
しかし、こういうのは、詰め将棋、頭の体操みたいなもので、内容的には、たいした物は出来にくいようにも思う。
「1」
ある日の夕方の小田急江ノ島線の町田駅である。
一人の男が、プラットフォームの椅子に座って小説を読んでいた。
男のアパートは、湘南台なので、下りの電車が来るのを待っていた。
男は、町田にある、会社に勤めるサラリーマンである。
男は、通勤で電車に乗る時には、いつも小説を読んでいた。
電車の中では、皆、スマホで遊ぶ今時、小説を読む、というのは、めずらしい。
それほど、男は小説を読むのが好きだった。
・・・・・・・・・
その日、読んでいた小説の内容は。
極度の強迫観念症の主人公が駅で電車を待っていたが、電車は脱線して乗客は死ぬ、という可能性の存在におびえて、電車に乗れなかった。
というものだった。
自分と同じ境遇だなと、男は思った。
男にも、強迫観念症の傾向があったからだ。
自分でも、バカだと思いながらも、どうしても、ある観念にとらわれてしまうのである。
電車が来た。
そしてドアが開いた。
何人もの乗客が電車から降り、そして、何人もの人が電車に乗り込んだ。
しかし、男は、小説にのめり込んでしまっていて、小説の主人公と同じ心境になってしまっていたので、どうしても電車に乗ることが出来なかった。
「江ノ島行きの、5時30分発の快速電車は、まもなく発車します。駆け込み乗車はおやめください」
というアナウンスが流れた。
そして。
電車のドアは、閉まった。
そして、電車は男を残して発車した。
すぐに、電車は見えなくなった。
男は、自分でもバカなことをしたな、と、後悔した。
男は、オレは本当に強迫観念症なのかもしれないと思い、明日、精神科に行こうか、と思った。
しかし、勇気を出して、今度の電車には、乗ろうと男は思った。
その時だった。
駅のアナウンスが流れた。
「お客さまに、お知らせ致します。ただいま、5時30分に当駅を出ました、江ノ島行きの、快速電車は、相模大野駅の直前で脱線しました。くわしい状況はわかっておりません。なので、小田急江ノ島線は、当分、上下線ともに運行を停止いたします。江ノ島方面に行かれるお客様には、たいへんご不便をおかけいたしますことに、お詫び申し上げます。江ノ島方面に行かれるお客様には、バス、および、タクシーのチケットを発行いたしますので、駅改札口までお出で下さい」
男は立ち上がった。
男は、オレは強迫観念症なんかではないんだ、と、ほっと安心した。
男は、オレは精神科に行く必要など全くないな、と思った。
「2」
ある日の夕方の小田急江ノ島線の町田駅である。
一人の男が、プラットフォームの椅子に座って小説を読んでいた。
男のアパートは、湘南台なので、下りの電車が来るのを待っていた。
男は、町田にある、会社に勤めるサラリーマンである。
男は、通勤で電車に乗る時には、いつも小説を読んでいた。
電車の中では、皆、スマホで遊ぶ今時、小説を読む、というのは、めずらしい。
それほど、男は小説を読むのが好きだった。
・・・・・・・・・・・
小説の内容は、ある男が、いつも乗る帰りの電車で、テニスラケットを持っている、女性がいて、主人公の男も、テニスが趣味で、男は、女性に、声をかけて友達になりたい、と思っているが、断られることをおそれて、声をかけられなかったが、ある時、勇気を出して声をかけてみたら、女性は、「はい。いいですよ」と言ってくれた、という内容だった。
男は偶然の一致に驚いた。
実は、男も、帰りの通勤電車で、小説と全く同じ日々を送っていたからである。
小田急江ノ島線の、町田駅の、5時30分発の下りの電車には、いつも、テニスラケットを持った、きれいな女性が、乗っていて、一緒になることが多かったからである。
男は、その女性と親しくなりたい、と思っていたのだが、男はシャイで、とても、女に声をかけることなど、出来なかったのである。
町田駅発、午後5時30分発、下りの、小田急江ノ島線が、やって来た。
男は、読んでいた小説を閉じ、カバンの中にしまった。
電車が町田駅に停止した。
ドアが開いた。
男は電車に乗り込んだ。
すると。
案の定、テニスラケットを持った、いつもの女性が座っていた。
男は、勇気を出して、その女性の隣りに座った。
ダメで元々。
しかし、もしかすると、小説のようになってくれるかもしれない。
小説が勇気を与えてくれた。
「あ、あの・・・」
男は、勇気を出して女に声をかけてみた。
「はい。何でしょうか?」
「テニスをなさるんですか?」
「ええ」
「僕も、テニスをします」
「そうなんですか」
「あ、あの・・・」
「はい。何でしょうか?」
「・・・もし、よろしかったら、いつか、一緒にテニスしませんか?」
女はニコッと微笑んだ。
「ええ。喜んで」
「ありがとうございます」
男は嬉しかった。
男は、もしかすると、小説は、優柔不断な自分に、神が、与えてくれた親切なのかもしれない、と思った。
ある男が駅で電車が来るのを待っていた。
その男はカバンから小説を取り出し、電車が来るまで小説を読んでいた。
・・・・・・・・・
小説を書こうと思って、そういう内容の短い文を書いたが、それ以上、どうストーリーを作ったらいいのか、わからず、挫折してしまった人がいる。
僕なら、いくつかのパターンで小説を完成させることが出来る。
なので、僕は、二つほど、短い小説を完成させてみた。
まったく、ゼロから小説を作り出すより、こういう、何らかの条件があった方が、小説は作りやすい面がある。
しかし、こういうのは、詰め将棋、頭の体操みたいなもので、内容的には、たいした物は出来にくいようにも思う。
「1」
ある日の夕方の小田急江ノ島線の町田駅である。
一人の男が、プラットフォームの椅子に座って小説を読んでいた。
男のアパートは、湘南台なので、下りの電車が来るのを待っていた。
男は、町田にある、会社に勤めるサラリーマンである。
男は、通勤で電車に乗る時には、いつも小説を読んでいた。
電車の中では、皆、スマホで遊ぶ今時、小説を読む、というのは、めずらしい。
それほど、男は小説を読むのが好きだった。
・・・・・・・・・
その日、読んでいた小説の内容は。
極度の強迫観念症の主人公が駅で電車を待っていたが、電車は脱線して乗客は死ぬ、という可能性の存在におびえて、電車に乗れなかった。
というものだった。
自分と同じ境遇だなと、男は思った。
男にも、強迫観念症の傾向があったからだ。
自分でも、バカだと思いながらも、どうしても、ある観念にとらわれてしまうのである。
電車が来た。
そしてドアが開いた。
何人もの乗客が電車から降り、そして、何人もの人が電車に乗り込んだ。
しかし、男は、小説にのめり込んでしまっていて、小説の主人公と同じ心境になってしまっていたので、どうしても電車に乗ることが出来なかった。
「江ノ島行きの、5時30分発の快速電車は、まもなく発車します。駆け込み乗車はおやめください」
というアナウンスが流れた。
そして。
電車のドアは、閉まった。
そして、電車は男を残して発車した。
すぐに、電車は見えなくなった。
男は、自分でもバカなことをしたな、と、後悔した。
男は、オレは本当に強迫観念症なのかもしれないと思い、明日、精神科に行こうか、と思った。
しかし、勇気を出して、今度の電車には、乗ろうと男は思った。
その時だった。
駅のアナウンスが流れた。
「お客さまに、お知らせ致します。ただいま、5時30分に当駅を出ました、江ノ島行きの、快速電車は、相模大野駅の直前で脱線しました。くわしい状況はわかっておりません。なので、小田急江ノ島線は、当分、上下線ともに運行を停止いたします。江ノ島方面に行かれるお客様には、たいへんご不便をおかけいたしますことに、お詫び申し上げます。江ノ島方面に行かれるお客様には、バス、および、タクシーのチケットを発行いたしますので、駅改札口までお出で下さい」
男は立ち上がった。
男は、オレは強迫観念症なんかではないんだ、と、ほっと安心した。
男は、オレは精神科に行く必要など全くないな、と思った。
「2」
ある日の夕方の小田急江ノ島線の町田駅である。
一人の男が、プラットフォームの椅子に座って小説を読んでいた。
男のアパートは、湘南台なので、下りの電車が来るのを待っていた。
男は、町田にある、会社に勤めるサラリーマンである。
男は、通勤で電車に乗る時には、いつも小説を読んでいた。
電車の中では、皆、スマホで遊ぶ今時、小説を読む、というのは、めずらしい。
それほど、男は小説を読むのが好きだった。
・・・・・・・・・・・
小説の内容は、ある男が、いつも乗る帰りの電車で、テニスラケットを持っている、女性がいて、主人公の男も、テニスが趣味で、男は、女性に、声をかけて友達になりたい、と思っているが、断られることをおそれて、声をかけられなかったが、ある時、勇気を出して声をかけてみたら、女性は、「はい。いいですよ」と言ってくれた、という内容だった。
男は偶然の一致に驚いた。
実は、男も、帰りの通勤電車で、小説と全く同じ日々を送っていたからである。
小田急江ノ島線の、町田駅の、5時30分発の下りの電車には、いつも、テニスラケットを持った、きれいな女性が、乗っていて、一緒になることが多かったからである。
男は、その女性と親しくなりたい、と思っていたのだが、男はシャイで、とても、女に声をかけることなど、出来なかったのである。
町田駅発、午後5時30分発、下りの、小田急江ノ島線が、やって来た。
男は、読んでいた小説を閉じ、カバンの中にしまった。
電車が町田駅に停止した。
ドアが開いた。
男は電車に乗り込んだ。
すると。
案の定、テニスラケットを持った、いつもの女性が座っていた。
男は、勇気を出して、その女性の隣りに座った。
ダメで元々。
しかし、もしかすると、小説のようになってくれるかもしれない。
小説が勇気を与えてくれた。
「あ、あの・・・」
男は、勇気を出して女に声をかけてみた。
「はい。何でしょうか?」
「テニスをなさるんですか?」
「ええ」
「僕も、テニスをします」
「そうなんですか」
「あ、あの・・・」
「はい。何でしょうか?」
「・・・もし、よろしかったら、いつか、一緒にテニスしませんか?」
女はニコッと微笑んだ。
「ええ。喜んで」
「ありがとうございます」
男は嬉しかった。
男は、もしかすると、小説は、優柔不断な自分に、神が、与えてくれた親切なのかもしれない、と思った。