かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 66

2020-08-16 19:22:42 | 短歌の鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究 ⑧(13年9月)
  【からーん】『寒気氾濫』(1997年)30頁~
   参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子、鹿取未放 
   司会と記録:鹿取 未放

66 床上に一切衆生(いっさいしゅじょう)を運びてはエスカレーター床下に消ゆ

 エスカレーターが人間を床上に運んでは床下に消えてゆくのは日常ありふれた光景である。しかし、運ぶ対象を「一切衆生」と表現したことによって、歌は全く別の様相を帯びる。床上は「浄土」、床下は「地獄」あるいは苦に満ちあふれた「現世」だろうか。しかも「一切衆生」を導くのは仏でも菩薩でもなく、心を持つとされる鉄腕アトムなど架空のロボットでさえもない。無機質のエスカレーターは鉄腕アトムのような優しさをもって、せっせと「一切衆生」を「浄土」に運び上げているのだろうか。その努力は滑稽で、同時に涙ぐましい。(鹿取)


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