2023年版 渡辺松男研究 21 2014年10月
【音符】『寒気氾濫』(1997年)70頁~
参加者:S・I、泉真帆、鈴木良明、曽我亮子、N・F、
渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放
162 月読に途方もなき距離照らされて確かめにいくガスの元栓
(レポート)
夜も更けて寝ようとして、安全のため、ガスの元栓が閉まっているかどうか、確かめに行ったのだろう。神々しい月が照るなかでガスの元栓までの距離が途方もなく長く感じられたのだ。それは活動的な昼間とは異なる、寝静まった夜の時間感覚によるところが大きいのだろうが、煌々と照る月の光が一層その距離を遠いものにしている。(鈴木)
(当日意見)
★どの建物のガスの元栓かは言われていない。そこが面白い。帰宅途中に勤務先に戻っ
ていくのかもしれない。「途方もなき距離」に気持ちが表されている。(真帆)
★月読というロマンチックなものとガスの元栓というリアルなものを並べて、非常にイ
ンパクトの強い歌。月から派生したルナティックという語があるが、これは狂人とい
う意味もある。月の明かりは昼間閉じこめていた情念を呼び出す。だからガスの元栓
との結びつきはとても考えられたものだと思います。(S・I)
★なるほどね、そういう二物を持ってくるのは前川佐美雄なんかがやりましたよね。と
ころで、「途方もなき距離」は〈われ〉とガスの元栓までの距離ではなく、月から
〈われ〉への距離で、遠方から来た月の光に照らされながら、ガスの元栓を確かめに
行く、と読んでいました。だから戸外のイメージです。ただ、戸外にあるガスの元栓
を毎日閉めているとも思えないので、この日は何か特別気になることがあったのだろ
う。防災上というより心理的な要因だろうか。(鹿取)
★寝静まった夜の感覚がうまくうたわれているのかな。遠い月光から近い元栓に引き戻
していくところが渡辺さんの特徴かなと思います。(N・F)
★「照らされて」の「て」は、照らされて、「そして」行くのか、照らされ「つつ」
いくのか、どっちなのでしょう?(真帆)
★「つつ」の意味だと思っていましたが、皆さんはどう思われます?(鹿取)
★私は勤務先まで戻る状況というのは考えていなかったので、照らされる中を、と読ん
でいましたが。(鈴木)
★私も鈴木さんと同じで、距離もレポートのように思っていたのですが、鹿取さんの発
言聞いたら月からの距離かなと。(真帆)
★両方にとっていいんじゃないですか。月からの距離も、ガス栓までの距離も遠い。
(鈴木)
★私も両方でいいかなと。ガス栓までは何か心理的に遠いんですよね。(鹿取)
※後日、田村広志さんから「途方もない距離は心の距離で、何かに、たぶん人の、思う人に届か ない、そんな感じ。だからガスの元栓も比喩。」というご意見をいただいた。
(後日意見)
先月鑑賞した156番歌に「抽出しのなかに隠れているわれを大声で呼ぶ満月ありき」があった。月の光の力強さ、そして今回のは月の神秘性。
また、煌々と照る月の光といえば李白に有名な「静夜思」があるのを思い出した。
牀前 月光を看る 疑うらくは是 地上の霜かと
頭を挙げて 山月を望み 頭を低れて 故鄕を思う
今回の歌は李白と違って、S・Iさんの発言のようにリアルなガスの元栓に結びついているところが現代的で哲学的だ。(鹿取)
【音符】『寒気氾濫』(1997年)70頁~
参加者:S・I、泉真帆、鈴木良明、曽我亮子、N・F、
渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放
162 月読に途方もなき距離照らされて確かめにいくガスの元栓
(レポート)
夜も更けて寝ようとして、安全のため、ガスの元栓が閉まっているかどうか、確かめに行ったのだろう。神々しい月が照るなかでガスの元栓までの距離が途方もなく長く感じられたのだ。それは活動的な昼間とは異なる、寝静まった夜の時間感覚によるところが大きいのだろうが、煌々と照る月の光が一層その距離を遠いものにしている。(鈴木)
(当日意見)
★どの建物のガスの元栓かは言われていない。そこが面白い。帰宅途中に勤務先に戻っ
ていくのかもしれない。「途方もなき距離」に気持ちが表されている。(真帆)
★月読というロマンチックなものとガスの元栓というリアルなものを並べて、非常にイ
ンパクトの強い歌。月から派生したルナティックという語があるが、これは狂人とい
う意味もある。月の明かりは昼間閉じこめていた情念を呼び出す。だからガスの元栓
との結びつきはとても考えられたものだと思います。(S・I)
★なるほどね、そういう二物を持ってくるのは前川佐美雄なんかがやりましたよね。と
ころで、「途方もなき距離」は〈われ〉とガスの元栓までの距離ではなく、月から
〈われ〉への距離で、遠方から来た月の光に照らされながら、ガスの元栓を確かめに
行く、と読んでいました。だから戸外のイメージです。ただ、戸外にあるガスの元栓
を毎日閉めているとも思えないので、この日は何か特別気になることがあったのだろ
う。防災上というより心理的な要因だろうか。(鹿取)
★寝静まった夜の感覚がうまくうたわれているのかな。遠い月光から近い元栓に引き戻
していくところが渡辺さんの特徴かなと思います。(N・F)
★「照らされて」の「て」は、照らされて、「そして」行くのか、照らされ「つつ」
いくのか、どっちなのでしょう?(真帆)
★「つつ」の意味だと思っていましたが、皆さんはどう思われます?(鹿取)
★私は勤務先まで戻る状況というのは考えていなかったので、照らされる中を、と読ん
でいましたが。(鈴木)
★私も鈴木さんと同じで、距離もレポートのように思っていたのですが、鹿取さんの発
言聞いたら月からの距離かなと。(真帆)
★両方にとっていいんじゃないですか。月からの距離も、ガス栓までの距離も遠い。
(鈴木)
★私も両方でいいかなと。ガス栓までは何か心理的に遠いんですよね。(鹿取)
※後日、田村広志さんから「途方もない距離は心の距離で、何かに、たぶん人の、思う人に届か ない、そんな感じ。だからガスの元栓も比喩。」というご意見をいただいた。
(後日意見)
先月鑑賞した156番歌に「抽出しのなかに隠れているわれを大声で呼ぶ満月ありき」があった。月の光の力強さ、そして今回のは月の神秘性。
また、煌々と照る月の光といえば李白に有名な「静夜思」があるのを思い出した。
牀前 月光を看る 疑うらくは是 地上の霜かと
頭を挙げて 山月を望み 頭を低れて 故鄕を思う
今回の歌は李白と違って、S・Iさんの発言のようにリアルなガスの元栓に結びついているところが現代的で哲学的だ。(鹿取)
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