緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

沈丁花

2006年05月13日 | 医療

ゆきこさんは、小学生の時の病気のため視力が著しく低下されていた。病院の枕元にはお母様が庭からお持ちになった沈丁花が飾られていた。鈴のような声で、やさしく落ち着いて話をなさる方だったが、とても芯がある方だった。見ることは難しかったが、他の感覚は研ぎ澄まされていることが良く理解できた。

当時勤務していた緩和ケア病棟で、いろいろな話をした。お子さんのこと、ご主人との出会い、お母様のこと、今までのこと、これからの事。本当に素晴らしい方で、女性としても医療者としても多くのことを学ばせていただいた。婦人科がんでいらっしゃったが、最初に治療をした病院では消化器がんと説明された経緯に触れられた。誰を恨むでもなく、遠くを見つめながら、“誤診だったのかしら、怖いことよね・・”と呟かれた言葉が今も耳に残る。医学的知見をここでは述べるつもりはないが、診断や治療のプロセスの中でさまざまな事がある。医療者は、最新、最善の医療を常に学ぶ姿勢を持つべきであるし、それを患者さんに情報提供することが求められる。

ちょうど長男が一番上のお子さんと同じ年になり、ゆきこさんの年齢に届くようになった。呟かれた言葉の下にはどれほどの無念さがあっただろう・・がん治療現場にいて、迷いが生じると心でゆきこさんに話しかける。いつの間にか方向が決まり、エネルギーが出てくるのは、きっとゆきこさんが応援してくれているからだと信じている。

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