緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

アンパンマンの塗り絵をしながら痛みの評価

2017年08月27日 | 医療

痛みを評価できないのですが、
サポートしてくれませんか・・
という依頼が来ることがあります。





もう、何年も前のことですが、
成人の方でしたが、
ダウン症で長く小児科にかかっており、
血液がんの治療を
小児科で行っていました。

ダウン症の方の伝え方は様々で、
この方の場合は、
いや、だめ、いい、あっちいって・・
位の言葉ですと事前に聞いていました。

さすがに何年も患者さんを診てきただけあって、
左肩に痛みがあることなど
治療チームも把握をしていました。
ただ、いやっとしか言ってもらえず、
痛みの程度や質がわからず、
安易に鎮痛薬を用いたくないということで、
痛みの治療計画が立てられないというのが、
主治医の困りごとでした。

病室を訪ねたところ、
左肩は動かさず、
右手でいや~とばかりに
ぱたぱたします。

首すじから覗き込んだ皮膚の色調は
炎症を思わせるものではありませんでしたが、
ぽっちゃりした感じが腫脹なのかどうか不明でした。





好きなことはなに?

とたずねると、

アンパンマン・・

あまり元気はありませんが、
教えてくれました。





ADLの観点から、
主治医と話し合い、
選択的Cox2阻害薬(セレコキシブ)を
200㎎/日、開始してもらうことにしました。







自宅に戻り、押入れをごそごそ・・・
ありました、
ありました、
子どもたちが小さかった時の塗り絵・・
持ちやすい太めのクレヨンも。

綺麗ではありましたが、
治療中の場合は注意が必要ですが、
その時は、治療は中止されていました。
白血球数も、問題ないことを確認し、
主治医の了解ももらい、
病室に持参しました。

セレコキシブを
朝から内服している状況で、
クレヨンと色鉛筆と
アンパンマンの塗り絵がついたノートを持参。





やや遠いところから差し出すと、
右手はしっかりと前に伸びます。
左手は、昨日とは異なり、ノートに手を添え
右手でページをめくれるように
左手はかなり動いていることが確認できました。

お母さんの手が伸びてきたのですが、
その時ばかりは、

これで、痛みの程度を見たいので、

お母さんはお手伝いしないで見守ってくださいね

と、そっと伝えました。





左手は随分使えていました。
ただ、拳上はできそうにありませんでした。

左横のやや高めからクレヨンを出しても
取るのは右手でした。




お母さんも、
昨日より、随分左手を使っていますと
言ってくれましたので、
鎮痛薬はこの量を使って行き、
また、左手をまったく使わなくなったり、
いや~と右で左手をかばうようになった時は、
医療用麻薬を併用していった方が
抗がん治療の弊害になり辛いだろうと
判断しました。








一般的に、痛みの評価方法は、
量的評価として痛みの程度を0から10点までで
示すNRS、
質的評価としてびりびりとかズキズキなど
表現することで、神経障害性疼痛などを
鑑別していく方法をとります。

小児の場合は、フェイススケールと言われる、
ニコニコマークを指さしてもらうですが、
この方の場合は、意図することがつたわず、
これも無理でした。


が・・・・
好きなアンパンマンなら協力してくれることを願い、
生活動作から痛みを推測していったわけです。





また、皮膚色、腫脹は炎症の程度を観察したわけです。

炎症の三徴候は、発赤、腫脹、疼痛ですから。



もう一つ、
拳上ができないという状況を把握できました。

肩関節周囲の腱、
例えば、上腕二頭腱、腱板、関節包や滑液包などに
炎症がおきると手が上に挙げられなくなります。
原因がはっきりしないこの周囲のトラブルで
良く知られているものは四十肩などがあります。
(ちなみに四十肩と五十肩は同じです・・)

こうした拳上ができないことでの痛みは
医療用麻薬を使用しても、
効果は得られがたく、

(膜の癒着等の痛みはとても速く伝わる痛みで、
注射の針の痛みが麻薬を使っていても取れないことからも
イメージしてもらいやすいのではと思います)

少量の非ステロイド性抗炎症薬で
経過をみていくことになったわけです。






痛みの評価は、
本当に、様々な工夫が必要です。


この時ばかりは、
子ども達がとっておいてくれた
アンパンマンの塗り絵に感謝でした!


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