緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

「こちら側」と「あちら側」

2019年03月24日 | 医療

ITでは、

こちら側は、実世界
あちら側は、Web上の世界
「ウェブ進化論」梅田望夫

生はこちら側にあり、死はあちら側にある。
「蛍」村上春樹

こちら側とあちら側の言葉には
見えない離別させる
何かを感じさせます。





10年近く前のこと。
40代の大腸がんの患者さんに
医学部で20分ほど学生に向けて
講演していただいたことがありました。

「がんだろうと思っていましたから、
 がんと説明を受けたときは、
 ああ・・やっぱり・・と思いました。」

「その後、入院していた時、
 病室に掃除に来てくれたおばさんを見て、
 羨ましかった・・」


その患者さんは、薬剤師さんでもありました。

この話を横で聞いていて、
仕事ができるということ、
そういう掃除の方への
羨ましさのような気持ちなのかと
捉えていました。


「私は薬剤師なのですが、
 お掃除のおばさんを
 けして下に見ている
 ということではないのですが、
 お掃除に来てくれるおばさんにすら、
 羨ましいという気持ちでした。」
と。
(学生講義の記録より)


あの時の話は、
仕事ができなくなったことの
喪失感のことだけだったのだろうかと、
時々、思い出すことがありました。



最近、偶然、この文章を読んでハッとしました。
(前後は略しています)



多くの家族や友人たち、職場の同僚や上司がお見舞いにきてくれました。皆が自分の回復を祈ってくれているのを感じましたし、励まされもしました。多くの人々の支えなくして、今の自分はありません。

しかし、どうしても「こちら側」と「あちら側」の境界を感じずにはいられませんでした。自身は5年生存率50%と告げられて「死を意識せざるを得ないこちら側」にいると感じましたが、同世代の友人たちは「人生に夢や希望があるあちら側」にいるのだ、と感じずにはいられませんでした。

著名人ががんを公表する度に起きる騒ぎ がん経験者としてお願いしたいこと
「こちら側」と「あちら側」の境界より抜粋

天野 慎介 BuzzFeed Japan, Contributor / 全国がん患者団体連合会理事長



40代の患者さんが
私に話してくださったことは、
この「こちら側」と「あちら側」という
まさに、この気持ちだったのではないか
と思いました。
仕事のことも含んではいたことでしょう。
でも、それだけではない、
こちら側から見つめた気持ちだったのだと・・


見えない壁や距離・・
孤独な気持ち

孤立感....



”患者さんに寄り添う”という言葉をよく医療者は使います。

どんなに思いをはせても、はせても、
そんなに簡単に届くものではないということを
「こちら側」と「あちら側」という言葉に感じます。


いつの間にか、
患者さん側にいるつもりになっていないか、
もっと、謙虚に、
永遠くらい距離を感じるこの二つの言葉に、
自分の立ち姿を振り返る時間を持たなければいけないと
改めて心に刻みました。


何年たっても、患者さんが残してくれたことは
私に気づく機会を与えてくれます。
本当に、感謝です・・


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