緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ちょっと頑張れるゾーンを見極める

2012年04月14日 | 教育

心理学者ヴィゴツキーが提唱した
「The zone of proximal development 」

ZPDといいます。

The zone of proximal development "is the distance between the actual development level as determined by independent problem solving and the level of potential development as determined through problem solving under adult guidance or in collaboration with more capable peers." (Vygotsky, 1978)

ZPDとは、一人で解決できるレベルと誰かに教えてもらったり仲間と一緒にやればできるようなレベルとの間の領域をさします。

ちょっとしたヒントがあれば、何とかできるようなレベル。
言いかえれば、ちょっと頑張ればできそうなレベル。





教育を考えるとき、
すっごく難しいことへのチャレンジも時にはよいのだけど、
もうちょっとで手が届きそうなところを目標にして、
ちょっとずつ、ちょっとずつ高めていけると上手くいきそうだなあと思います。

学生や若手医師を育てるときに
それぞれのZPDがどのあたりか
見極める力を
教員に問われているように思います。





初期臨床研修医へのオリエンテーションで、
毎年、緩和医療の話をするのですが、
今年は、ちょっと趣向をかえて、
KJ法を使って、
「患者さんにとって、QOLや尊厳の観点から、大切にされたと感じられるのはどのような時か」
という課題に取り組んでもらいました。
「それに対する、医師の立場でできることは何か」という次の課題を出しました。

ワークショップを始めるまでは疲れた様子でしたが、
取り組み始めたら、生き生きと頭を悩ませながら、取り組んでくれました。

理解できるように気を配ってくれたとき
   ↓
患者さんが理解しやすい言葉で話す

などがあったかと思うと、

病気をしっかりと治してくれたとき
   ↓
しっかり勉強し、最新の知識を得る

中々、いいなあと思います。
そして、これから、色々なことがあっても、
この初心を忘れないで頑張ってほしいと思いました。

これも、自分の中で立てた目標として、
ちょっと頑張れるゾーンにあるものなのです。






ZPDは、教育現場のことだけではありません。
患者さんが疾患を抱えながら生活していくとき
セルフマネジメント力をつけるアシスト方法にも
共通していることです。

患者さんが薬を飲み続けることが難しくて
病気が悪化してしまったり、
症状が悪化してしまったりするとき、
薬の作用や飲み方を覚えてもらったりします。

服薬指導のように、
ちょっと、何かに取り組んでもらいたいなあって思った時、
この、ちょっとだけ頑張れるとことはどこか・・・
それを超えそうなときは、
在宅訪問看護などの
ちょっと手を貸してもらえる人を探すなどするわけですが、
この、ちょっと・・という領域を見極める力が
医療スタッフにも求められると感じています。

生活習慣病などはイメージしやすいと思うのですが、
実は、痛みの治療はこれが大変重要なのです。





疼痛時、自分の判断で飲んでいただく
オピオイドのレスキュー。
麻薬を疼痛時に定時薬の1/6量を1回量として
患者さんの判断で飲んでいただくのですが、
これを使いこなせるかどうか、
とても、大切なのです。

鎮痛薬の屯用効果以上といってもよいくらいに
痛いときに、自分でコントロールできる、
してよいという感覚や
薬を飲むくらいの痛みかどうかを客観的に見る力によって、
痛みの不安を少なくし、痛みの緩和の一助となるのです。



ZPDを見極める力・・
新たな視点です。


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4 コメント

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ZPDを見極める力 (yumisiva)
2012-04-15 06:44:40
いつもたくさんのヒントをいただき、ありがとうございます。

「ZPDを見極める力」・・・
自分自身にも、患者さんにも、教育にも、すべてのことに対して必要な力ですね。

服薬指導をしていると、この「ZPDを見極める力」は患者さんそれぞれでかなり異なりますので、私たちも患者さんのZPDがどのへんにあるのかを理解する必要があると思いました。
もちろん、これまでも患者さんに合わせて説明内容や指導内容も変えているつもりですが、今後はより意識して服薬指導をしたいと思います。

私も「ZPDを見極める力」、高めていきたいです!

ありがとうございました。
返信する
いつもありがとうございます (ALL)
2012-04-15 19:46:01
いつも気づきをありがとうございます。
自分の心身のこと、社会復帰のこと、医療者や同志(闘病仲間)からのサポート、自分ができるサポート、ZPDとしてより意識して日々精進していきたいと思いました。
ありがとうございます。
返信する
yumisivaさん (aruga)
2012-04-15 22:05:22
力強い言葉に、私も元気を頂いたように感じます。日頃のお姿を想像しつつ、月曜日の明日からまたがんばれそうです。
返信する
ALLさん (aruga )
2012-04-15 22:09:00
ALLさんのコメントを読みつつ、そうそう、一番わからないのは自分のZPDなんだわって思いました。時に頑張りすぎたり、時にできているつもりになったり、反省しては同じことを繰り返してしまう私です。
私こそ、ありがとう!
返信する

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