Kさんは清瀬市で数十年にわたって市民運動を共に担ってきた尊敬すべき先輩です。東京大空襲の体験者ということをうかつにも最近になって知りました。今年中にでも仲間を集めて彼女の話を聞く会を開きたいと思っています。
Kさんを囲む読書会は5回を数えます。課題図書はすべてKさんが推薦したものです。彼女の「眼力」を信じて、数人で読み進めているのです。推薦本の書名はさすがにほとんど知ってはいますが、恥ずかしながら読んだことがない本ばかりでした。
・第1回石牟礼道子『苦海浄土』2018.11.28
・第2回大岡昇平『野火』2019.9.14
・第3回野間宏『真空地帯』2020.2.22
・第4回大江健三郎『芽むしり仔撃ち』2020.7.25
読書会の様子はブログにすべて報告済みです。良かったら覗いてみてください。
さて今回Kさんが提起したのは〔『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三〕でした。
石川達三といえば私にとっては『人間の壁』です。大学4年の夏に読んだという記録が残っていました。。たしか勤評闘争のなかの教師の葛藤を描いた長編小説(3冊本)でした。『青春の蹉跌』も同じ頃読んだのでどこかに本があるはずです。
中公文庫を手に取ったのですが、この夏にも増刷されているベストセラー小説ともいえそうです。
■『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三、中公文庫
・1999年7月18日 初版発行
・2020年7月5日 17刷発行
〔裏表紙〕虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。 〈解説〉半藤一利
ウィキペディアを覗いたらこんなことが書いてありました。登場人物の紹介が本を読み進める上で参考になりますね。
●ウィキペディア
石川は、南京陥落(1937年12月12日)直後に中央公論社特派員として中国大陸に赴き、1938年1月に上海に上陸、鉄道で南京入りした。南京事件に関与したといわれる第16師団33連隊に取材し、その結果著されたのがこの小説であり、日本国内では皇軍として威信のあった日本軍の実態を実写的に描いた問題作とされる。『中央公論』1938年3月号に発表される際、無防備な市民や女性を殺害する描写、兵隊自身の戦争に対する悲観などを含む4分の1が伏字削除されたにもかかわらず、「反軍的内容をもった時局柄不穏当な作品」などとして、掲載誌は即日発売禁止の処分となる。その後、執筆者石川、編集者、発行者の3者は新聞紙法第41条(安寧秩序紊乱)の容疑で起訴され、石川は禁固4か月、執行猶予3年の判決を受けた。この著作が完全版として日の目を見るようになったのは第二次世界大戦敗戦後の1945年12月である。
*登場人物
・近藤 一等兵。医学士。人間の生命を救うために自分が学んできた医学と、生命が戦場で簡単に失われる現状との差に悩んでいる。
・笠原 伍長。農家の次男坊で、粗野かつ無学な人物。人を殺すことに長けている反面、戦友に対しては情に篤いという「最も兵隊にふさわしい兵隊」。
・平尾 一等兵。かつては新聞社の校正に従事していた。元来繊細な感性の持ち主であるが、兵隊になってからはそれを隠すかのように、大言壮語や勇ましげな振る舞いを見せるようになった。
・片山玄澄 従軍僧。本来は戦死者を弔うことが彼の役目であるが、自ら戦闘に参加して、シャベルといったあり合わせの得物で、すでに20人以上殺している。
・中橋 通訳。血気盛んな青年で、自らすすんで通訳に志願した。
・倉田 小隊長、少尉。几帳面な性格で、地方にいたときは小学校の教師をしていた。
・西沢 連隊長、大佐。
未読の方は是非読書をお勧めします。
こんなにリアルに戦争を描いた小説は今まであったでしょうか。『野火』と比較すると面白いかもしれません。『野火』は体験を下敷きにして起承転結のはっきりした文学らしい文学であるのに対して、『生きている兵隊』は日本軍の行動をまるでルポルタージュしているような書きぶりなのです。南京事件のすぐ後に南京に入り、見聞したままをリアルに書き綴った、しかし、創作文学なのです。石川達三ははっきり「自由な創作」でありフィクションだということを冒頭に書いているのです。
「現地徴発という名の略奪、若い中国女性を裸にして刺し殺す兵士、逃げる中国人の頭をシャベルで割って武勲を誇る従軍僧」(半藤一利)など戦場のリアルがこれでもかと書き綴られるのです。昭和13年当時、こうした本の発行が禁止されるのは目に見えていただろうに、なぜ石川は出版の努力を続けたのでしょう。
とにかく討論しがいのある小説でした。話し合いの大きなテーマは次のようでした。
○なぜ従軍作家として『生きている兵隊』を10日足らずで書き上げたのか
○『生きている兵隊』は反戦文学か戦争文学か
○『生きている兵隊』はなぜ発行禁止されたのか〔中国語、ロシア語、英語版は存在していた〕
○小説としてはどう評価できるのか
○石川達三の思想性とは
3時間近い話し合いを簡単には要約できませんが、これらの問いにヒントを与えてくれる本が見つかりました。『戦争と検閲――石川達三を読み直す』をお勧めします。
■『戦争と検閲――石川達三を読み直す』 (岩波新書) 2015/6/27 河原 理子 (著)
*内容(「BOOK」データベースより)
「生きている兵隊」で発禁処分を受けた達三。その裁判では何が問われたのか。また、戦後のGHQの検閲で問われたこととは? 公判資料や本人の日記、幻の原稿など貴重な資料を多数駆使して、言論統制の時代の実像に迫る。取材し報道することの意味を問い続けて来た著者が抑えがたい自らの問いを発しながら綴る入魂の一冊。
*著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
河原/理子
1961年東京生まれ。1983年東京大学文学部社会心理学科を卒業して朝日新聞記者になる。社会部などで働き、雑誌『AERA』の副編集長、文化部次長、編集委員、甲府総局長などをする。
はたして第6回読書会の課題図書はどうなることでしょう。
はてさて、今回も鎌田慧さんのコラムをどうぞ。
◆住民の命 住民の力
「オール秋田」の運動で「イージスアショア」を断念させた
鎌田 慧(ルポライター)
先週の土曜日。秋田市でちいさな集まりがあった。菅義偉新首相と
おなじ秋田出身、101歳の全生涯を歯に衣(きぬ)を着せぬジヤーナリスト
として全うした、むのたけじを顕彰する「地域・民衆ジャーナリズム」
賞実行委員会主催だった。
彼の5回忌に合わせ「イージスアショア新屋配備を断念させたのは
秋田の住民の力だ」とする住民運動の集会でもあった。
米軍の戦略に従属する米日軍事同盟下、それも国の「専決事項」と
突っ張ってきた防衛省が住民の抵抗を受け方針を変えた。お粗末、
デタラメな防衛計画が、見事に破綻したのは特筆に価する。
それも安倍前首相の出身地・山口県と菅前官房長官の秋田県が基地
予定地。郷土を売る計画だった、ともいえる。
知事、市長、県、市議会。科学者、住民、地元紙がそれぞれに
すすんで署名、請願、陳情運動、報道に力を尽くした。辺野古基地
反対運動と同じネットワーク型「オール秋田」の運動となった。
自民党の「憲法改悪案」では、地方自治の力を奪うものになって
いるが、現憲法が健在である限り、地方自治条項は国の暴力を防ぎ
「住民の力」と「住民のいのち」を守ることができる。
「戦争絶滅を謳(うた)った憲法9条こそ、人類に希望をもたらす」
というのが、従軍記者だったむのたけじの生涯にわたる信念だった。
(9月29日東京新聞朝刊23面「本音のコラム」より)
Kさんを囲む読書会は5回を数えます。課題図書はすべてKさんが推薦したものです。彼女の「眼力」を信じて、数人で読み進めているのです。推薦本の書名はさすがにほとんど知ってはいますが、恥ずかしながら読んだことがない本ばかりでした。
・第1回石牟礼道子『苦海浄土』2018.11.28
・第2回大岡昇平『野火』2019.9.14
・第3回野間宏『真空地帯』2020.2.22
・第4回大江健三郎『芽むしり仔撃ち』2020.7.25
読書会の様子はブログにすべて報告済みです。良かったら覗いてみてください。
さて今回Kさんが提起したのは〔『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三〕でした。
石川達三といえば私にとっては『人間の壁』です。大学4年の夏に読んだという記録が残っていました。。たしか勤評闘争のなかの教師の葛藤を描いた長編小説(3冊本)でした。『青春の蹉跌』も同じ頃読んだのでどこかに本があるはずです。
中公文庫を手に取ったのですが、この夏にも増刷されているベストセラー小説ともいえそうです。
■『生きている兵隊』(伏字復元版)石川達三、中公文庫
・1999年7月18日 初版発行
・2020年7月5日 17刷発行
〔裏表紙〕虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。 〈解説〉半藤一利
ウィキペディアを覗いたらこんなことが書いてありました。登場人物の紹介が本を読み進める上で参考になりますね。
●ウィキペディア
石川は、南京陥落(1937年12月12日)直後に中央公論社特派員として中国大陸に赴き、1938年1月に上海に上陸、鉄道で南京入りした。南京事件に関与したといわれる第16師団33連隊に取材し、その結果著されたのがこの小説であり、日本国内では皇軍として威信のあった日本軍の実態を実写的に描いた問題作とされる。『中央公論』1938年3月号に発表される際、無防備な市民や女性を殺害する描写、兵隊自身の戦争に対する悲観などを含む4分の1が伏字削除されたにもかかわらず、「反軍的内容をもった時局柄不穏当な作品」などとして、掲載誌は即日発売禁止の処分となる。その後、執筆者石川、編集者、発行者の3者は新聞紙法第41条(安寧秩序紊乱)の容疑で起訴され、石川は禁固4か月、執行猶予3年の判決を受けた。この著作が完全版として日の目を見るようになったのは第二次世界大戦敗戦後の1945年12月である。
*登場人物
・近藤 一等兵。医学士。人間の生命を救うために自分が学んできた医学と、生命が戦場で簡単に失われる現状との差に悩んでいる。
・笠原 伍長。農家の次男坊で、粗野かつ無学な人物。人を殺すことに長けている反面、戦友に対しては情に篤いという「最も兵隊にふさわしい兵隊」。
・平尾 一等兵。かつては新聞社の校正に従事していた。元来繊細な感性の持ち主であるが、兵隊になってからはそれを隠すかのように、大言壮語や勇ましげな振る舞いを見せるようになった。
・片山玄澄 従軍僧。本来は戦死者を弔うことが彼の役目であるが、自ら戦闘に参加して、シャベルといったあり合わせの得物で、すでに20人以上殺している。
・中橋 通訳。血気盛んな青年で、自らすすんで通訳に志願した。
・倉田 小隊長、少尉。几帳面な性格で、地方にいたときは小学校の教師をしていた。
・西沢 連隊長、大佐。
未読の方は是非読書をお勧めします。
こんなにリアルに戦争を描いた小説は今まであったでしょうか。『野火』と比較すると面白いかもしれません。『野火』は体験を下敷きにして起承転結のはっきりした文学らしい文学であるのに対して、『生きている兵隊』は日本軍の行動をまるでルポルタージュしているような書きぶりなのです。南京事件のすぐ後に南京に入り、見聞したままをリアルに書き綴った、しかし、創作文学なのです。石川達三ははっきり「自由な創作」でありフィクションだということを冒頭に書いているのです。
「現地徴発という名の略奪、若い中国女性を裸にして刺し殺す兵士、逃げる中国人の頭をシャベルで割って武勲を誇る従軍僧」(半藤一利)など戦場のリアルがこれでもかと書き綴られるのです。昭和13年当時、こうした本の発行が禁止されるのは目に見えていただろうに、なぜ石川は出版の努力を続けたのでしょう。
とにかく討論しがいのある小説でした。話し合いの大きなテーマは次のようでした。
○なぜ従軍作家として『生きている兵隊』を10日足らずで書き上げたのか
○『生きている兵隊』は反戦文学か戦争文学か
○『生きている兵隊』はなぜ発行禁止されたのか〔中国語、ロシア語、英語版は存在していた〕
○小説としてはどう評価できるのか
○石川達三の思想性とは
3時間近い話し合いを簡単には要約できませんが、これらの問いにヒントを与えてくれる本が見つかりました。『戦争と検閲――石川達三を読み直す』をお勧めします。
■『戦争と検閲――石川達三を読み直す』 (岩波新書) 2015/6/27 河原 理子 (著)
*内容(「BOOK」データベースより)
「生きている兵隊」で発禁処分を受けた達三。その裁判では何が問われたのか。また、戦後のGHQの検閲で問われたこととは? 公判資料や本人の日記、幻の原稿など貴重な資料を多数駆使して、言論統制の時代の実像に迫る。取材し報道することの意味を問い続けて来た著者が抑えがたい自らの問いを発しながら綴る入魂の一冊。
*著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
河原/理子
1961年東京生まれ。1983年東京大学文学部社会心理学科を卒業して朝日新聞記者になる。社会部などで働き、雑誌『AERA』の副編集長、文化部次長、編集委員、甲府総局長などをする。
はたして第6回読書会の課題図書はどうなることでしょう。
はてさて、今回も鎌田慧さんのコラムをどうぞ。
◆住民の命 住民の力
「オール秋田」の運動で「イージスアショア」を断念させた
鎌田 慧(ルポライター)
先週の土曜日。秋田市でちいさな集まりがあった。菅義偉新首相と
おなじ秋田出身、101歳の全生涯を歯に衣(きぬ)を着せぬジヤーナリスト
として全うした、むのたけじを顕彰する「地域・民衆ジャーナリズム」
賞実行委員会主催だった。
彼の5回忌に合わせ「イージスアショア新屋配備を断念させたのは
秋田の住民の力だ」とする住民運動の集会でもあった。
米軍の戦略に従属する米日軍事同盟下、それも国の「専決事項」と
突っ張ってきた防衛省が住民の抵抗を受け方針を変えた。お粗末、
デタラメな防衛計画が、見事に破綻したのは特筆に価する。
それも安倍前首相の出身地・山口県と菅前官房長官の秋田県が基地
予定地。郷土を売る計画だった、ともいえる。
知事、市長、県、市議会。科学者、住民、地元紙がそれぞれに
すすんで署名、請願、陳情運動、報道に力を尽くした。辺野古基地
反対運動と同じネットワーク型「オール秋田」の運動となった。
自民党の「憲法改悪案」では、地方自治の力を奪うものになって
いるが、現憲法が健在である限り、地方自治条項は国の暴力を防ぎ
「住民の力」と「住民のいのち」を守ることができる。
「戦争絶滅を謳(うた)った憲法9条こそ、人類に希望をもたらす」
というのが、従軍記者だったむのたけじの生涯にわたる信念だった。
(9月29日東京新聞朝刊23面「本音のコラム」より)