78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎POP物語物語(第3話)

2015-04-22 00:46:01 | ある少女の物語
【13話:タンニン(前編)】
「皆さん、話をちゃんと聞いて下さい!」
 担任は真面目な24歳の女性だった。
「あ、定規落ちた。お前の負けな」「もう一戦やろうぜ」
 担任の授業中に多くの男子が騒いだ。
 しかし、彼等にいじめられている僕は委員長でありがなら何も言えなかった。
「ちょっと出ます。自習していて下さい」
 それが三ヶ月も続いた頃には担任が廊下で号泣する事件が起きた。
 僕のせいだ。僕がうるさい男子にちゃんと警告できていれば……。
 その日の下校途中、女性が倒れていた。
 周囲に誰もおらず、スマホは電池切れで誰とも連絡が取れない。
「荷台に乗って下さい。すぐに病院へ」
 僕はその方法しか思いつかなかった。
 一人の女性を傷付けてしまったのだからせめて他の誰かを救いたい。
 そして翌日、僕は停学処分を受けた。
(つづく/前編)(※自転車の二人乗りは法令で禁止されています)
【携帯電話充電器各種→コンビニエンスストア】



 2015年1月。この話を書き上げる少し前に、とても悲しい出来事が起きた。
 お客様とのトラブルである。
 ダメダメの僕でさえ、このリスクを予知できていた。
 少し考えれば分かることを、それを怠った一部のスタッフのミスで起きてしまった。
 責任は店長代理である僕に回り、上層部に物凄く怒られ、お客様にトラウマレベルの罵声を浴びせられ、僕は泣きながら一時間もかけて謝罪した。
 とても理不尽としか思えなかった。この傷は一生かけても癒えることは無いと思う。
 しかし、どんな精神状態であろうと、自ら課したPOP物語の締切はやってくる。
 僕は19字×20行の空間に、とことん理不尽にこだわった物語を描いた。
 倒れた女性を助けてからの停学処分。前編だけでも充分理不尽な内容だった。
 この時点で後編の構想は皆無だったが、漫画喫茶勤務時代、女性マネージャーに恋した「あの話」を元ネタにすることで何とか一週間以内に完結させた。



【14話:タンニン(後編)】
 容姿端麗、純情可憐、雲心月性。15の僕にとって担任は天使だった。
 職員室で担任の机に置かれた煙草の入った小さな箱を見るまでは。
「別に喫煙者でも良いじゃん。担任は20歳超えてるしマナーも守っている。
 誰にも迷惑かけていないのだから」
 確かにそうだが、僕は悩み、苦しんだ。
 そんな最中に下された停学処分。謹慎中、担任の笑顔が何度も脳をよぎる。
『あなたが煙草を吸う理由は何ですか?』
 知恵袋に投稿した。ある人の回答は、
『寂しさを紛らわす為かな』
 答えは出た。やはり僕は担任が好きだ。
 2週間の謹慎が解ける日はもう卒業式。最後に伝えたい『二つの言葉』がある。
 もう迷いは無かった。しかし、
「自転車二人乗りをした君の責任を担任は肩代わりしてくれた。その代償がこれだ」
 担任は教育センターへ異動となり、もう学校には居なかった。
(Fin/後編)
【法令とマナーを守りましょう→コンビニエンスストア】



 結果的に突っ込みどころ満載の問題作となったが、今回の僕のように、理不尽なことは実際に起こり得るのだということを、トイレの貼り紙を通じて一人でも多くのお客様に分かって欲しかった。
 毎度のことながら作中の“僕”は非リアで、相手が担任とはいえ、恋する純粋な中学生。倒れた女性を助けるとても優しい男。それでもたった一度の止むを得なかった法令違反によりここまで報われない末路を迎えるのだ。
 一方でリア充は、後先も考えずヘラヘラ笑いながら当たり前のように自転車二人乗りをしている。そんなことが許されるわけがない。『タンニン』はそんな彼等への警告でもある。



【15話:自分でない誰かの】
 絹のように細く滑らかなグレーの毛。エメラルドグリーンに光る二つの目。
 ロシアンブルーの君とじゃれ合う時間が私の唯一の生きる理由だった。
「勉強時間を増やさないと私立どころか公立の志望校も危ないよ」
 先生の忠告も無視し、私は君と遊んだ。
 友達の居ない学校、両親との葛藤、嫌なことの全てを忘れるように。
 案の定私立は不合格。公立の入試も一ヶ月後に迫ったある日、君は入院した。
「あんたがこれから味わうはずの不幸を代わりに背負ったのかもしれない」
 母親の言葉で目が覚めた私は家での勉強時間を3倍に増やした。
 そして2月3日、今年は初めて自分でない誰かの幸せを願いながら
 恵方巻を無言で頬張った。
 公立に合格し、退院した君を泣きながら抱き締めるのは、もう少し先の話だ。
【恵方巻各種→コンビニエンスストア】



 元ネタは僕の実家で13年前まで飼っていたロシアンブルー。作中で猫は無事退院しているが、実家の猫は助からずに息を引き取った。
「あんたがこれから味わうはずの不幸を代わりに背負ったのかもしれない」は、母親が実際に発した言葉。僕はその数ヶ月後、大検に合格することとなる。
 当初から作中で誰かが死ぬ話は絶対に書かないと決めていたし、前回が理不尽すぎたのでせめてもの帳尻合わせにと思い、ハッピーエンドにした。どう思っていただけただろうか。



 そして、このプロジェクトは間もなく突然の休止を迎えることとなる。

(つづく)

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