初心者でも安心して入れるという二郎系ラーメン店の風潮は、この店で脆くも崩れた。ここでは本家二郎のルールに従わないと店員に怒られる。そして当方は重大なことを思い出した。
店員「そこの君、好みは?」
男D「野菜多め、カラメで」
そうだ、呪文みたいなコールを唱えなければならなかった。例えば「ニンニクマシマシヤサイマシアブラマシカラメ」というような、二郎では有名なアレである。「ニンニク」「ヤサイ」「アブラ」「カラメ」の4項目があり、それぞれの好みを選択し、繋げてコールする。ノーマルでも野菜と背脂が多いラーメンだが、これらをマシやマシマシにすることで更に増やすことが可能となる。カラメはラーメンスープのカエシのことだと後に知ったが、店内での当方は意味を理解していなかった。当然『野郎ラーメン』など、複雑なコールを必要としない店もあるのだが、この店は本家を踏襲してしまっていた。当方はただただ動揺するのみであったが、その時ある若い客が魔法の呪文を唱えた。
店員「そこの君」
男E「全部マシで」
そうだ、「ゼンブマシ」。この5文字なら当方にも言える。ありがとう若造。もう迷いは無かった。
店員「ハイ、君」←どんどん言葉足らずになる
当方「全部マシで」
コールも無事に終わり、程なくしてもやしが山のように盛られたラーメンは当方の元に到着した。行列に並び始めてから実に40分以上。やっとである。
ある意味インスタ映えしそうな画だったが、とても写真を撮れるような空気でなかったのは言うまでもない。弾力のあるとても太い麺が背脂まみれのスープに良く絡まり、とても美味い。これで700円は安い。しかし、まだ20人以上の行列が出来ており、長居するわけにもいかないので箸を早めに進める。
そして最後の難関は訪れた。
(食べきれないかもしれない)
ボリュームの多さに加え、増量した背脂が体内の胃袋に影響を及ぼしていた。二郎系での食べ残しは処刑レベルに相当する。何があろうと食べきらねばならないが、その為には少なくとも水が必要だった。まだコップに水を入れていなかったが、他の客の行動を観察するうちにウォーターサーバーの場所を発見していたので、水を入れに行った。実は食事中に席を離れることは二郎ではタブーだと後に知ったが、奇跡的に店員に怒られることは無かった。
満腹の中、水を飲みながら必死に食べ進め、なんとか完食。流石にスープまで飲み干す気力は残されていなかった。丼とコップを台に置き、おしぼりでカウンターを拭き、逃げるように店を出た。何故ここまでしなければならないのか。
確かに美味かったのは事実だが、食べすぎと胃もたれで、帰路を歩くのも容易では無かった。こんな恐怖に満ちた店を多くの学生が平気で利用していることに驚きを隠せない。知らない二郎系の店に足を踏み入れるのは無謀であり、行くのは野郎ラーメンだけにしておいたほうが無難だと思い知らされるのだった。
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