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"出版不況"という言葉が使われる様に成って久しい。具体的に言えば、「日本での紙の出版物の売り上げは、1996年の2兆6,564億円をピークに、2023年には1兆612億円に迄落ち込んだ。」とか。27年間で約60.0%も売り上げが減ったというのだから、"激減"と言って良いだろう。"本大好き人間"の自分としては、とても悲しい現実だ。
そんな一方で、「2014年には290億円だった絵本市場が、9年後の2023年には約1.2倍の351億円に達した。」と言う。少子化が止まらない我が国に在って、絵本の売れ行きが伸びているというのは、非常に興味深い。「絵本を読む子供自体が増えた。」事も考えられ様が、「子供だけでは無く、大人も絵本を読む時代。」という事なのかも知れない。
先日、売れている絵本の特徴に付いて分析している番組を見たのだが、「①『トドにおとどけ』の様に、タイトルに"掛け詞"が使われている物。」と「②『うちのピーマン』の様に、タイトルに"身近な食べ物"が使われている物。」が多いと言う。
16年前の記事「おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます。」でも触れたが、幼稚園から小学校低学年に掛けて、絵本を貪る様に読んでいた。大好きだった絵本は数多く在るけれど、特に忘れられないのは「いやいやえん」、「シナの五にんきょうだい」、「ぐりとぐら」、「かえるの王様」、「赤いろうそくと人魚」、「モチモチの木」、「モモちゃんとプー」、「泣いた赤おに」等。何度も何度も読んだ作品なので、今でも内容をハッキリ覚えている。
絵本を読まなく成って約半世紀。アラ還で、子供も孫も居ない自分が、まさか絵本を購入&読む事に成るとは。其の絵本は「もうじきたべられるぼく」(著者:はせがわゆうじ氏)という、一度目にしたら忘れられない強烈なタイトル。書店に寄った所、店内に此の本のポスターが貼られており、「老若男女、全国各地から大反響!25万部突破のベスト・セラー絵本。」との事で、表紙には「パステル調で描かれた愛らしい子牛が、水筒等を下げ、立って歩いている絵。」が描かれている。ホンワカさせられる絵と、強烈なタイトルとのギャップが気に成り、購入を決めた。
「自身が、食肉にされる。」という運命を受け容れた子牛の、"最後にしたかった事"が描かれている。一部ネタバレに成ってしまうのだけれど、「最後にしたかった事の為に子牛は、旅に出る。」のだが、目的の場所での決断に、先ずは涙が出てしまった。
そして、最後にしたかった事を果たした彼が、最後に発した言葉を目にした時、もう涙が止まらなかった。「自身が、食肉にされる。」という過酷過ぎる運命を背負っているというのに、子牛の表情や言葉は実に淡々としているし、常に「他者への思い遣りに溢れている。」のだ。利己的な人が少なく無い世の中だからこそ、特に最後の言葉なんぞは・・・。
「食事をする際、手を合わせて『戴きます。』と言ってから食べるのは、『命を戴きます。』と、食べられる為に命を失った物達への"深い感謝"の意を表している。」と、良く言われる。ついつい忘れ勝ちだが、非常に大事な事だと思う。だからこそ、此の絵本を子供達のみならず、大人達にも読んで貰いたい。
36頁という薄い本だが、内容はとても"厚み"が在る。何度も読み返したい作品だ。