「アナ」と聞くと、瞬間的に三遊亭圓歌(3代目)氏の十八番「授業中(山のアナ)」【音声】を思い出してしまう自分だが、今日は「アナ」は「アナ」でも、先日、第150回(2013年下半期)芥川賞を受賞した小説「穴」(著者:小山田浩子さん) に付いてのレヴュー。
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仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見た事の無い黒い獣の後を追う内に、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人達も、何かがおかしい。極平凡な日常の中に、時折顔を覗かせる異界。
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小説「工場」で第42回(2010年)新潮新人賞を受賞した小山田さんは、此の年に文壇デビューを果たした事になっているが、「工場」が単行本として上梓されたのは2013年3月で在り、実質的な文壇デビューは昨年と言っても良いだろう。其の昨年、「工場」は第26回(2013年)三島由紀夫賞の候補となる。此方は落選だったが、第30回(2013年)織田作之助賞を受賞。そして実質2年目の今年、芥川賞を受賞したのだから、稀有な才能の持ち主と言えよう。
単行本「穴」は、「穴」、「いたちなく」、そして「ゆきの宿」という3編の短編小説から構成されている。「ゆきの宿」は、「いたちなく」の続編。3編に共通しているのは舞台が「田舎」という事と、「平凡な日常の中に入り込んだ不可思議な世界」を描いているという事。「平凡な日常の中に入り込んだ不可思議な世界」と言えば三崎亜記氏の作品と似た感じも在るが、著者が女性という事も在ってか、「世界と比べると未だ未だ低い、日本の女性の社会的立場。」というのが色濃く反映されている様に感じる。
不可思議な世界には魅了される物が在るけれど、何の作品も結末が尻窄みな感じで、「何だか良く判らないなあ。」という思いは否めない。近年の芥川賞受賞作品が駄作続きだっただけに、前半は読ませる内容の「穴」には、「勿体無いなあ。」という思いが残る。
総合評価は、星3個とする。