ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「カラスの親指 ~by rule of CROW’s thumb~」

2008年09月08日 | 書籍関連
僕自身余り幸せといえる環境で育って来なかったので、昔から家族に対する憧れが在ったんです。でも今の世の中、何だか『他人の様な家族』が多い。だから今回、敢えて『家族の様な他人』を書いてみようかと。

作家の道尾秀介氏が、自身の近刊本「カラスの親指 ~by rule of CROW’s thumb~」*1に付いて語った言葉。「片目の猿」()に「ソロモンの犬」()、そして「ラットマン」()と、彼には「十二支」に関連するタイトルの作品が過去に在る。今回の作品は「カラス」、即ち」の名前がタイトルに織り込まれており、「十二支シリーズ」の第四弾という訳だ。

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共に哀しい過去を持ち、共に詐欺を生業とする“タケ”と“テツ”の中年男2人。共同生活を送る彼等の下に、或る日、1人の少女“まひろ”が舞い込む。戸惑う2人だったが、同居人は更に増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。失くした物を取り戻す為、過去と決別する為、彼等が企てた大計画とは!?
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「カラスの親指」というタイトル、「一体何を意味しているのか?」と思われる方も少なくないだろう。プロの詐欺師を「カラス」と喩える そうだが、“哀しい話”を持つカラスと詐欺師の姿を重ね合わせてもいる様だ。

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「ねえタケさん・・・カラスの死骸って見たことあります?」

「いえ、ねえけど。」

「どうしてだと思います?」

何が言いたいのかわからない。武沢は黙って首を横に振った。

「カラスが、そのへんで死んでるとね、目障りで不衛生だから、すぐに片づけられちゃうんですよ。もしちゃんと、ねぐらに帰って、そこで死んだとしても、仲間のカラスに食べられちゃうんです。だから、死骸を見ないんです。」

細々と咽喉を鳴らし、テツさんは息を吸い込んだ。

物みたいに、片づけられて忘れられちゃうか、同じカラスに食われて忘れられちゃうか・・・どっちかなんですよ。
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そして「親指」にも、なかなか深い意味が隠されている。「親指だけが、正面からほかの指を見ることができるんです。ぜんぶの指の中で、親指だけが、ほかの指たちの顔を知ってるんですよ。」という台詞が文中で使われているが、この作品を読み終えると「なるほど!」と感じる事請け合いだ。

全体の3分の2位迄はストーリー展開がかったるく、「面白くない作品だなあ」と。しかし其処から終盤に掛けて予想外な展開が繰り広げられ、先が気になってドンドン読み進んでしまった。「絶妙な伏線の張り方」というのは道尾作品の特徴だが、今回もそれは充分発揮されている。(ややくど過ぎる感も在ったが。)

総合評価は星3つ

*1 「by rule of thumb = 理論等では無く、経験に基づく方法。」の意味。crowは「カラス」。

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3 コメント

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Unknown (マヌケ)
2008-09-08 21:30:19
三分の二まで読んでも展開が開けていかない時はあとがきを読んでみたり、最後のページから遡ってみたりします。 特に外国の小説の翻訳ものは翻訳者がセンスがないと原作のテイストを台無しにした挙句、やたらと説明的な補足的なまわりくどい訳文になってしまい、テンポがなく、おもしろくない文章になっていることが多いです。 わざわざこういう日本語をあてはめなくても、この単語は原文のままで十分通用すると思うのにと思うこともあります。 ハリウッド映画に慣れてしまったせいか、展開のノロい物語にはこらえ性がなくなっているというのもありますね。 そういうわけで途中で投げてしまった本も結構あります。 それから2回以上読んだ本も結構あります。 映画化されてから映画を見て、そして読み返した本も多いです。
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一昔前 (破壊王子)
2008-09-08 23:21:48
「カラスの死骸はなぜ見あたらないのか?」とかいう本がありましたねえ。

理由は反物質と対消滅反応を起こしてしまう。


著者は矢追純一です(笑)
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>マヌケ様 (giants-55)
2008-09-09 00:27:03
書き込み有難う御座いました。

シドニィ・シェルダン氏の作品を多く出版している事で有名なアカデミー出版。此処は従来の「直訳」では無く、「作者が何を言おうとしているのかに主眼を置いて、読者が読み易い様に自然な訳を心掛ける。」というスタイル、同社曰く「超訳」を取り入れていますが、数年前に「余りに飛躍し過ぎた、作者の意図を無視した誤訳。」との批判が出ましたね。単語に固執する余り、ストーリーを追うのがしんどくなってしまうのも問題なれど、恣意的に訳者がストーリーを変えてしまうのも問題で、この辺の“匙加減”は難しいでしょうね。

因みに自分は小説を読む際、後書きを一番最初に読む事が多いです。
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