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五十嵐貴久氏の小説「誘拐」は、「現職の総理大臣の身内が誘拐される。」という前代未聞の設定。1年前に人事部に異動し、会社の意向によって苦悩し乍らも、同僚のリストラを推進しなければならなかった秋月が、或る事件を切っ掛けに退職の決意を固める。「そんな彼が何故、前代未聞の誘拐事件を企てたのか?」が、此の小説のキーとなっている。「贖罪」の意識が誘拐事件の背景に在るのは推測していたが、「“ああいう形”で金銭を手に入れ、“そういう形”で使う。」という事迄は思い至らなかった。意外性という意味では、著者に完敗。
唯、ストーリー展開の面白さが在る一方で、設定の“粗さ”も気になった。「あんなにも慎重居士の秋月が、余りにも稚拙な手掛かりを残していた。」という点なんぞは、粗さの最たる点だろう。もっと違う妥当な設定で、犯人が秋月で在ると判る設定だったならば、もっと高い評価を与えられただろう。
総合評価は星3つ。
