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「御前は違うから。此の家から出て行く事を考えろ。」。3年前に急逝した兄・雄一(ゆういち)と最後に交わした言葉。兄は、微笑を浮かべていた。大企業のオーナーで在る西尾木(にしおぎ)家に後妻の連れ子として入ったものの、疎外感の中で暮らして来た弟の敏也(としや)は、未だに其の真意が判らずに居た。
或る日、偶然、兄に内縁関係の妻子が居る事を知った敏也は、妻・千秋(ちあき)が末期癌で在る事を突き止める。千秋の死後、6歳になる娘の結希(ゆき)を引き取る事にした敏也。だが何故か、兄を溺愛したワンマン社長の父・雄太郎(ゆうたろう)や一族には、其の事を一切知らせずに暮らし始めた。敏也の真意とは?
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大崎梢さんの小説「空色の小鳥」。元書店員という経歴を持つ彼女には、書店を舞台にした作品が非常に多いのだけれど、「空色の小鳥」は書店が舞台では無い数少ない作品。又、ほんわかとした作風が多いのも大崎作品の特徴だが、そうでは無い“悪意”を強く感じさせる展開なのも珍しい。
後妻の連れ子という事で、西尾木家内で肩身の狭い思いをし続けて来た敏也。「母が亡くなったのも、一族からの冷たい仕打ちが在ったから。」という思いを持つ彼が、血の繋がらない兄の子供を引き取った理由には、或る悪意が在った。
「複雑な家庭環境に在る主人公が、次々と直面させられる苦難に翻弄され、時には挫折しそうになり乍らも、最後の最後には大どんでん返しで幸せになる。」というのは、嘗て大人気だった“大映ドラマ”の特徴。「空色の小鳥」には、そんな大映ドラマの匂いを感じたりもする。でも、最後に待ち受けているのは、“完全なハッピーエンド”では無い。と言って、“バッドエンド”でも無く、“程良いハッピーエンド”という感じ。“完全なハッピーエンド”となってしまうよりも、こういった“程良いハッピーエンド”の方が、嘘臭さが無くて良いかも。
仲が悪い訳でも無く、然りとて仲が良かったという訳でも無かった兄・雄一から、最後に言われた「御前は違うから。此の家から出て行く事を考えろ。」という言葉を、ずっと違う意味で受け止めていた敏也。人を心から信じる事が出来なかった彼が、兄の子を引き取り、育てて行く過程で、知らず知らずの内に“変化”し、そして兄の最後の言葉の真意を理解する。
人間の持つ“嫌な部分”に不快さを感じつつも、そうでは無い“善の部分”に和まされる。又、登場人物1人1人の個性が上手く描かれているので、感情移入がし易い。どういう結末が待っているのか気になって、一気に読み進んでしまった。
総合評価は、星3.5個。