今から33年前の1985年(日本では「日本航空123便墜落事故」が発生した年。)に亡くなられたので、「“彼”の事を、良く知っている。」というのは40代以上の人達という事になろうか。彼、天知茂氏と言えば、眉間の皺と渋い声が特徴的で、ニヒルな役所は実に似合う俳優だった。
【天知茂氏】
彼の出世作「非情のライセンス」【動画】も忘れ難いが、自分の場合、“天知作品”と言うと「江戸川乱歩の美女シリーズ」【動画】が最も印象深い。此の作品で彼が演じていたのは、名探偵・明智小五郎で在る。
「江戸川乱歩の美女シリーズ」は1977年から1994年迄、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」内で放送されたが、天知氏が出演していたのは第1弾「氷柱の美女」(1977年8月20日)から第25弾「黒真珠の美女」(1985年8月3日)迄。詰まり、彼は亡くなる直前迄、明智役を演じていた訳だ。「黒真珠の美女」の視聴率(関東地方)が「26.3%」という事からも、同シリーズの人気の程が知れる。
ファミリー劇場では先月から3ヶ月間に亘って、「江戸川乱歩の美女シリーズ」全33作が放送される事となり、録画予約して見続けている。今日現在、第12弾「エマニエルの美女」迄放送済み。
此方に記されているが、出演されていた人達の中には物故者も目立つ。主だった所で言えば天知氏の他、荒井注氏、三ツ矢歌子さん、佐野周二氏、西村晃氏、松村達雄氏、荻島眞一氏、北公次氏、原泉さん、岡田英次氏、藤村有弘氏、ジェリー伊藤氏、小坂一也氏、田村高廣氏、根上淳氏、茶川一郎氏、生田悦子さん、高橋昌也氏、蟹江敬三氏、小池朝雄氏、早乙女愛さん、平田昭彦氏、牟田悌三氏、曽我町子さん、レオナルド熊氏、内田朝雄氏、ジョニー大倉氏、萩原流行氏等、錚々たる顔触れだ。
江戸川乱歩作品と言えば「少年探偵団シリーズ」が有名だけれど、大人向けの作品には「エロ」、「グロ」、「猟奇」、そして「残虐さ」というのが際立っている。「見たく無い。」とか「触れたく無い。」といった物に惹かれてしまうのが人間の性で在り、だからこそ今でも多くの人が彼の作品に魅了されているのだろう。
「江戸川乱歩の美女シリーズ」でも「エロ」、「グロ」、「猟奇」、そして「残虐さ」が盛り込まれている。「エロ」に関しては、毎回、無意味に女性の入浴シーンが登場するので、当時餓鬼だった自分は食い入る様に見ていた。胸を超アップで映す等、今では批判が多く出そうなシーンが天こ盛り。
原作名「吸血鬼」が「氷柱の美女」、「魔術師」が「浴室の美女」(1978年1月7日)といった具合に、「~の美女」というタイトルに変わっている「江戸川乱歩の美女シリーズ」。子供心に「無理無理なタイトルだなあ。」と思う事が多かったけれど、原作「化人幻戯」を「エマニエルの美女」とした第12弾(1980年10月4日)なんぞは無理が在り過ぎる。1974年に流行した映画「エマニエル夫人」を意識したのだろうが・・・。
「グロ」、「猟奇」、そして「残虐さ」という点でも、「今ならTVドラマとして放送するのは難しいだろうな。」と思われるシーンが多い。「残虐過ぎる!」とか「差別的だ!」と批判されそうなシーンには、時代の違いを感じてしまう。
日本初の携帯電話が登場したのは、1985年の事だとか。奇しくも、天知版「江戸川乱歩の美女シリーズ」が終了した年に当たる。だから、天知版で登場する電話は固定電話と公衆電話で、明智の助手達が犯人を追い駆け、外出先から連絡する場合は公衆電話からといった具合。此れ又、時代を感じる。
突っ込み所が多いのも、此のシリーズの特徴の1つ。「変装を得意とする明智が、クライマックスで正体を明かす。」のは御約束で、「定番のBGMが鳴る。→髭を取る。→鬘を取る。→ 顔面がアップとなり、左頬からゴム(?)製の仮面をメリメリと剥がす。→明智の顔が明らかとなると、服をびりっと破って、パリッとしたスーツ姿に。」という形式を取るのだけれど、「仮面を剥ぎ取った時点では顔に白い接着剤の跡が残っているのに、スーツ姿になると全く跡が残っていないのは何故?」、「スーツの上に服を着こんでいたら、凄く動き辛いだろうに。と言うか、あんなに見事に服が破けるだろうか?」、「鬘着用疑惑が在った天知氏だけに、鬘を取るシーンでは、『自分のが取れちゃわないかなあ。』という不安が無かったのかな?(鬘を取るシーンは、別の人が演じていた様だ。)」等、毎回、放送を見乍ら突っ込みを入れていた。
「小林少年役が、どう見ても大人。」、「生首等が、如何にも作り物。」、「『明智小五郎が死んだ。→実は生きていた。』という報道が何度も繰り返されたが、そんなに騙される程、犯人達は馬鹿じゃないだろ。」等の他にも、第8弾「悪魔のような美女」(1979年4月14日)では「“剥製”にされた男女が登場するも、アップになると手足が微妙にプルプル動いている。」という間抜けなシーンも。
【“剥製”にされたのに手足がプルプル動く男性】
個人的に一番突っ込みを入れてしまったのは、第2弾「浴室の美女」での或るシーン。何者かによって捕らえられた明智小五郎が目覚めると、其処は船室の中。壁には一面に不気味な仮面が飾られており、其れ等を明智は見て回るのだが、「白いキャップを被り、真っ白な顔面の男の仮面。」に違和感を覚え、“暫く見た上で”其れが生身の人間で在る事に気付き、相手に指摘する。そうすると仮面の目がかっと見開き、「良く判ったな。」といった感じで男が笑うという展開。
【西村晃氏演じる“仮面”】
西村晃氏が演じる“仮面”、誰がどう見ても、速攻で生身の人間と判ると思うのだが・・・。