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大学2年生の瀬々良木白兎(せせらぎ はくと)は、アパートの隣に住む1つ年下の後輩・来栖志希(くるす しき)に淡い恋心を抱いていた。2人が自宅に向かう路上、体調を崩し倒れこむ女性、御剣唯(みつるぎ ゆい)と出会う。彼女が手にしていたのは、唯の父・御剣大(みつるぎ まさる)が著した20年前のベスト・セラー「神薙虚無(かんなぎ うろむ)最後の事件」だった。「神薙虚無シリーズ」は、実在した名探偵・神薙虚無の活躍を記したミステリーで、シリーズ最終巻では解かれるべき謎を残した儘完結となり、ミステリー好事家の間では伝説となっていると言う。
白兎と志希は、唯の依頼で大学の「名探偵倶楽部」に所属する金剛寺煌(こんごうじ きら)等と共に、作品に秘められた謎を解こうとするのだが・・・。
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紺野天龍氏の小説「神薙虚無最後の事件」を読了。紺野氏の作品を読むのは今回が初めてで、ミステリー大好き人間なのに、彼の存在は全く知らなかった。書店で偶、此の作品を目にし、変わったタイトルと表紙に描かれたミステリアスなイラストに興味を惹かれ、読む事にしたのだ。
全く知らない作家だったので、巻末に記された著者のプロフィールを先ずは確認したのだが、此れ又、興味惹かれる物だった。生年月日や性別等、其の人物をイメージさせる要素が省かれていたので。Wikipediaで調べた所、「1985年生まれ」との事で、そうなると今年で37歳。(其の文体から「若い人では無いな。」とは思ったものの、もっと年配の方かと想像していた。)そして、自身が運営されているTwitterでは、「僕」という一人称を使っておられるので、読み手の性別誤認を導く目的が在るので無ければ、男性なのだろう。
「御剣大が20年前に著した『神薙虚無最後の事件』内の文章。」と、「瀬々良木白兎の目から描かれた現実の世界。」という2つの“切り口”によって、物語は進んで行く。「物語の“内”と“外”からの描かれた方」と言っても良いだろう。
物語の“内”、即ち御剣大が著した「神薙虚無最後の事件」は、自分が子供の頃に夢中になって読んだ「少年探偵団シリーズ」等の世界を彷彿させる。「名探偵と怪盗とが持てる能力を十二分に発揮し、丁々発止と遣り合う世界。」だ。登場する人物達の名前もそうだが、其の世界観も良い意味で古めかしく、又、非現実的。
全体を通して言えるのは、「兎に角、非現実的で在る。」という事。「こんな事、現実社会では考えられないだろう。」と思ってしまう事が天こ盛り。でも、ミステリーとしては非常に面白いし、様々な謎が全てきちんと回収されているのが凄い。
ミステリーを読み慣れていると、「一見、謎解きとは全く無関係と思われる些細な記述が、実は大きな意味合いを持っている。」という事を熟知しているからこそ、些細な記述がずっと気になったりする。一部ネタバレになってしまうけれど、或る人物の“指”に関する記述もそうで、「間違い無く、深い意味合いが在るだろうな。」と気になっていたが、最後の最後で“種明かし”がされると、「矢張りなあ。」と。でも、“想像出来なかった意味合い”には、「そういう事だったのか!」という驚きと共に、「こういう伏線を敷いていたのか!」という感心の思いが。
紺野氏の他の作品を読んでみないと断言出来ないが、彼はミステリー作家として非凡な才能を持っているのかも知れない。そう感じさせる程、「神薙虚無最後の事件」はミステリーとして評価出来る作品だ。
総合評価は、星4つとする。