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・ 神様や仏様が居なくなった医療に対し、社会の視線は厳しさを増している。その是正の為、大学病院の仕組みを根幹で支えて来た医局制度を改革しようという機運が高まった。大学の独立行政法人化や、新臨床研修医制度の改定といった、大学病院改革の一連の動きはその一環だ。こうした動きは、患者主体の医療を成立させるという大義名分が在り、広く支持されている様に見せ掛けられている。だが、その底流には、いかがわしい意図が見え隠れする。誰かが密かに、大学医学部が持っていた権力を削ぎたがっているのだ。独立行政法人化でカネを減じ、研修医制度を変える事で兵隊の供給を絶つ。密かに展開されている戦略は着々と進行している。
大学医学部に対し兵糧攻めを行っているのは誰か。少なくとも中央省庁の官僚が主力軍として加担し、陰に陽に蠢動している事だけはほぼ間違い無い。彼等は長年の医療行政の失敗の罪を全て、前近代的で鈍臭い大学医局制度になすりつけようとしている。医療改革を訴え乍ら、自分達自身の組織改革には全く手を付けようとしない霞ヶ関の現状が何よりの証明だ。
・ [手術のスタッフに付いて] 「手術の場は、掛け算に似ている。他の人達がどれ程大きい数字でも、ゼロが一人居れば、全部ゼロだ。マイナスが一人居れば、数値が大きい程悪い。かと思うと、マイナスが二人居ると、今度は大きなプラスに変わる。」
・ 外科医三年目は、血気盛んな頃合だ。一度大空に舞い上がった事が在る、というささやかな経験だけで自分を過大評価する御年頃。伸び切っていない羽で大海原を横断出来ると過信する雛鳥。ミスやトラブルという猛禽類は、そういう時に、背後から密やかに忍び寄る。
・ 看護師や技師というコ・メディカルの人達が属する組織は、勤務時間厳守に厳格だ。医師とは異質の社会だ。医師の世界で時間厳守は、高速道路を制限速度で走るのと同じ位、馴染み難い。医師が時間にルーズで在る事を許されている背景には、業務がプライベートに浸食しがちだというウラ事情が在る。病院は二つの異文化が混在するキメラ組織なのだ。
・ 「それに患者を一人術死させたらメスを置かなければならないとしたら、この世の中からは外科医なんて居なくなってしまいます。」
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印象に残った文章や台詞が幾つも鏤められている。又、登場人物達の描き方も上手いと思う。中盤迄は田口が探偵役と信じ込んでいたが、突如現れる「厚生労働省大臣官房秘書課付技官」なる肩書の白鳥圭輔なる人物が、その座に取って変わる。それだけでもやられた感が在るのだが、この白鳥なる男がかなり強烈なキャラクターの持ち主。これ迄に数多の探偵達がミステリー小説の世界に生み出されて来たが、その灰汁の強さ&エキセントリックさは白鳥に適う者は居ないだろうし、何よりもこれ程迄に周りを不快に思わせる人物もそうは居ないだろう。(強いて言えば、自分の前の職場の上司が同類だったが。)その不快な言動に怒りを表出させる人々に、つい自分も同情を重ねてしまった程。この時点で著者の術中に、自分は陥っていたとも言える。見事だ!
「医療システムと医療人の心理が作り上げた密室」という表現が作中に登場するが、その通りだと思う。又、”犯人”の言葉「これじゃあ、医師も壊れるぜ。」が、作品を読み終えた自分の心により深く響く。
総合評価は星4つ。1年以上前に発売された作品故、既に読破されている方も多いだろうが、未読の方には読まれる事を是非御薦めしたい。
・ 神様や仏様が居なくなった医療に対し、社会の視線は厳しさを増している。その是正の為、大学病院の仕組みを根幹で支えて来た医局制度を改革しようという機運が高まった。大学の独立行政法人化や、新臨床研修医制度の改定といった、大学病院改革の一連の動きはその一環だ。こうした動きは、患者主体の医療を成立させるという大義名分が在り、広く支持されている様に見せ掛けられている。だが、その底流には、いかがわしい意図が見え隠れする。誰かが密かに、大学医学部が持っていた権力を削ぎたがっているのだ。独立行政法人化でカネを減じ、研修医制度を変える事で兵隊の供給を絶つ。密かに展開されている戦略は着々と進行している。
大学医学部に対し兵糧攻めを行っているのは誰か。少なくとも中央省庁の官僚が主力軍として加担し、陰に陽に蠢動している事だけはほぼ間違い無い。彼等は長年の医療行政の失敗の罪を全て、前近代的で鈍臭い大学医局制度になすりつけようとしている。医療改革を訴え乍ら、自分達自身の組織改革には全く手を付けようとしない霞ヶ関の現状が何よりの証明だ。
・ [手術のスタッフに付いて] 「手術の場は、掛け算に似ている。他の人達がどれ程大きい数字でも、ゼロが一人居れば、全部ゼロだ。マイナスが一人居れば、数値が大きい程悪い。かと思うと、マイナスが二人居ると、今度は大きなプラスに変わる。」
・ 外科医三年目は、血気盛んな頃合だ。一度大空に舞い上がった事が在る、というささやかな経験だけで自分を過大評価する御年頃。伸び切っていない羽で大海原を横断出来ると過信する雛鳥。ミスやトラブルという猛禽類は、そういう時に、背後から密やかに忍び寄る。
・ 看護師や技師というコ・メディカルの人達が属する組織は、勤務時間厳守に厳格だ。医師とは異質の社会だ。医師の世界で時間厳守は、高速道路を制限速度で走るのと同じ位、馴染み難い。医師が時間にルーズで在る事を許されている背景には、業務がプライベートに浸食しがちだというウラ事情が在る。病院は二つの異文化が混在するキメラ組織なのだ。
・ 「それに患者を一人術死させたらメスを置かなければならないとしたら、この世の中からは外科医なんて居なくなってしまいます。」
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印象に残った文章や台詞が幾つも鏤められている。又、登場人物達の描き方も上手いと思う。中盤迄は田口が探偵役と信じ込んでいたが、突如現れる「厚生労働省大臣官房秘書課付技官」なる肩書の白鳥圭輔なる人物が、その座に取って変わる。それだけでもやられた感が在るのだが、この白鳥なる男がかなり強烈なキャラクターの持ち主。これ迄に数多の探偵達がミステリー小説の世界に生み出されて来たが、その灰汁の強さ&エキセントリックさは白鳥に適う者は居ないだろうし、何よりもこれ程迄に周りを不快に思わせる人物もそうは居ないだろう。(強いて言えば、自分の前の職場の上司が同類だったが。)その不快な言動に怒りを表出させる人々に、つい自分も同情を重ねてしまった程。この時点で著者の術中に、自分は陥っていたとも言える。見事だ!
「医療システムと医療人の心理が作り上げた密室」という表現が作中に登場するが、その通りだと思う。又、”犯人”の言葉「これじゃあ、医師も壊れるぜ。」が、作品を読み終えた自分の心により深く響く。
総合評価は星4つ。1年以上前に発売された作品故、既に読破されている方も多いだろうが、未読の方には読まれる事を是非御薦めしたい。
数年前のプロジェクトXで有名になった「バチスタ手術」という特定の術式にスポットライトが当たっているだけなのかなと思いきや、どうやらそうでもなさそうですね。
・マイナスが二人居ると。。。ってのは実際にはどうなんでしょう~たしかにゼロが居るとほんとにゼロになりそうですが。。。
・外科医三年目。。。まさにその通りですね。あの頃はなんか自分ひとりで何でも出来そうな気がしてました。一番張り切って仕事もしてたなぁ。。
・コメディカルの組織。。。やはり相容れませんねw
「これじゃ医師も壊れるぜ~」大学病院や総合病院に居ればまさにその通りと思うので、あまり思いつめずにマイペースで仕事が出来る環境にいますw