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紀元前1300年代後半、古代エジプト。死んで木乃伊にされた神官のセティは、心臓に欠けが在る為、冥界の審判を受ける事が出来ない。欠けた心臓を取り戻す為に地上に舞い戻ったが、期限は3日。
木乃伊のセティは、自分が死んだ事件の捜査を進める中で、軈てもう1つの大きな謎に直面する。棺に収められた先王の木乃伊が、密室状態で在るピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたと言うのだ。此の出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が、葬儀を否定した事を物語るのか?タイム・リミットが刻々と迫る中、セティはエジプトを救う為、木乃伊消失事件の真相に挑む!
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第22回(2023年)「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞した小説「ファラオの密室」(著者:白川尚史氏)は、実に風変わりなミステリー。「古代エジプトを舞台としており、日本人は一切登場しないし、指紋識別やDNA鑑定等の“現代の常識”は通じない。」というのは未だしも、「主人公の上級神官書記セティは、或る事故によって亡くなり、そして木乃伊にされたものの、心臓の一部に欠けが在る為に“成仏”出来ない。其の為、“探偵”として“謎”を解く為に“此の世”に戻って来るのだが、3日以内に謎が解けなければ永久に成仏出来ない。」という設定は、ファンタジー色満載。で、此の世に戻って来た木乃伊のセティは、下半身が木製の義肢と義体に替わっているのに、其の体で普通に歩き回ったりしている。そんな姿のセティ、其れも彼が亡くなって木乃伊になった事を知っている連中が、あっさりと“其の異常な状況”を受け容れているというのが、非常に漫画的で在る。
そういう設定の面白さは高く評価出来るものの、トリックや真相究明に到る過程等、ミステリーの肝は正直今一。最後に明らかにされたセティの“真の姿”には、“固定観念に捉われてしまい勝ちな自分”という物を改めて思い知らされたが。
「『このミステリーがすごい!』大賞」がミステリーを対象にした賞で在る事を考えると、「トリックや真相面で“弱さ”を感じてしまう此の作品が、果たして大賞に相応しいのだろうか?」という疑問が残る。ミステリーを対象にした賞で無かったならば、話は別なのだが・・・。
綜合評価は、星3つとする。