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慶応3年、新政府と旧幕府の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光(かの もろみつ)は、1人の男と邂逅する。名は江藤新平(えとう しんぺい)、後に初代・司法卿となり、近代日本の司法制度の礎を築く人物で在る。2人の前には、時代の転換点故に起きる事件が、次々に待ち受ける。維新志士の怪死、密室状況で発見される刺殺体、処刑直前に毒殺された囚人・・・動乱期の陰で生まれた不可解な謎から、論理の糸を手繰り寄せる。名も無き人々の悲哀を活写した5つの短編小説。
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「2020本格ミステリ・ベスト10【国内編】」の4位、「2019週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の10位、そして「このミステリーがすごい!2020年版【国内編】」の5位に選ばれた小説「刀と傘 明治京洛推理帖」(著者:伊吹亜門氏)。伊吹氏は昨年、此の時代ミステリーで文壇デビューを果たした。探偵役は鹿野師光と江藤新平の2人で、「真実が明らかとなった後、更なる真実を知る。」という展開。
鹿野は架空の人物だが、江藤新平は実在の人物。歴史好きで無ければ、江藤新平を知っている人は、そう多く無いかも知れない。元佐賀藩士で、明治政府では初代・司法卿という要職に就くも、政府内の政争に敗れて下野。士族反乱で在る佐賀の乱のリーダーとなった事で捕縛され、急遽設置された臨時裁判所にて“形式的な審議”(2日間だけ!)を行い、判決は死罪。判決の出た日に斬首というのだから、明治政府が江藤をどんなに“亡き者”にしたかったが判ろう。(以前、彼の事をネットで色々調べた際、彼の晒し首写真を誤って見てしまい、大きなショックを受けた。)
江藤の“行く末”を知っているので、どういう形でストーリーが展開して行くのかに興味が在った。彼の直截過ぎる生き様(「監獄舎の殺人」という作品は、特にそういう傾向が垣間見える。)が改めて感じられたし、其れが斬首という結果に結び付いたとしたら、実に哀しい事。
ストーリーは悪く無いのだが、トリック面は平凡。“真犯人”にも、余り驚きが無い。新人としては筆力が高いと思うので、今後に期待したい。
総合評価は、星3.5個とする。