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頭取・中野渡謙(なかのわたり けん)の命令により、経営再建中の帝国航空を任された半沢直樹(はんざわ なおき)は、500億円もの債権放棄を求める再生タスク・フォースと激突する。政治家との対立、立ちはだかる宿敵、行内の派閥争い・・・プライドを賭けて闘う半沢に勝ち目は在るのか?
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昨年、TVドラマ化され、大人気を博した小説「半沢直樹シリーズ」(著者:池井戸潤氏)。「バブル末期に大手都市銀行『東京中央銀行』に入社し、『基本は性善説。でも、理不尽な事を遣られたら、倍返しで遣り返す。」というのがモットーの半沢が、銀行内外で起こる“不正義”に対し、身を挺して闘う。」というのが、同シリーズの肝。
シリーズ第4弾に当たる「銀翼のイカロス」では、「業績不振で莫大な債務を抱え、経営再建中の帝国航空。」の担当を半沢は任せられるのだが、存亡の機に到っても危機感が薄く、殿様体質が抜け切らない帝国航空、JALがモデルとなっているのは間違い無いだろう。「政権交代によって与党となり、前政権との違いを国民に猛アピールする為、前政権下で決められた事は“無条件”で取り止める進政党。」は民主党がモデルだろうし(再び政権を握った自民党も、同様の事をしているが。)、「利権漁りに精を出す大物政治家・箕部啓治(みのべ けいじ)」も、モデルらしき人物の顔が何人も頭に浮かぶ。
自己顕示欲や私利私欲が半端無く強い連中が、半沢を潰しに掛かる。其れは行内外に存在する訳だが、そんな“巨大な敵達”と対峙する半沢は、何度もピンチに陥るが、“仲間達”と知恵を振り絞って闘って行く。現実社会では、滅多に在り得ない事だろう。でも、現実社会では滅多に在り得ない事だからこそ、半沢達が“勝利”する姿に、読み手はカタルシスを感じるのだ。
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思考に迷う谷川の胸に、そのときもうひとつの記憶が甦ってきた。「なんでもかんでも、融資すればいいってもんじゃないからな。」。それは、同じく銀行員だった父が、かつて自分にいったひと言だった。父は民間銀行に勤め、サラリーマン人生のほとんどを現場で、中小企業相手に融資してきた男だった。最後の役職は小さな店の支店長で、バブル崩壊とともに不良債権まみれになり、お払い箱同然に、子会社へ出向させられ銀行員生活にピリオドを打った。さして出世はできなかったが、いまから思うと銀行マンの先輩としての父は、現場に精通した戦士だったと思う。“貸すも親切、貸さぬも親切”という言葉を初めて聞いたのも、そのときだ。「過剰投資になってしまうような設備資金なら貸さないほうがいい。融資をしないことで取引先を救うことだってあるんだよ。」。父の生き様に対して若い頃の谷川は反発し、「それは融資しないことを正当化する言葉じゃないの。」と皮肉混じりの返事をしたことを覚えている。そのときの父は、ただ寂しげに笑っただけで、ケンカになると思ったかそれ以上の言葉は返してこなかった。だが―。いま、谷川にははっきりとわかる。あのときの父の言葉は正しかった。そして自分はいつのまにか父の教えに背いて、貸してばかりのダメな銀行員に成り下がっていた。
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「敵の敵は味方」という言葉が在るけれど、半沢を仇敵とする或る人物が、“共通の敵”を前にして、半沢に“塩を送る”様な場面が在り、思わず苦笑してしまった。
「荒唐無稽な勧善懲悪小説」として、半沢直樹シリーズを低く評価する人も居る様だが、そうで在ろうとも面白い物は面白い。総合評価は、星4.5個とする。