当ブログを立ち上げてから、今回の記事が通算2,500本目。2年前に通算2,000本目の記事を書き上げた際には、「まさか通算2,500本目の記事を、大震災の影響が残る中で書く。」事になるとは、全く予想だにしていなかった。明るい雰囲気の中で記念の記事を書けなかったのが、本当に残念で在る。
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君川小麦は、26歳のパティシエール。東京での修行を終え、ケーキ・ショップを開く為、故郷の北伊豆に帰って来た。小麦の兄・代二郎と義理の姉・道恵の間には、叶夢(かなむ)という6歳の息子が居り、彼にはレイモンドという“天使の友達”が居るらしい。ケーキ・ショップ開店の為に小麦が見付けた店舗物件に対し、叶夢は「此処、流行らないよ。」、「レイモンドがそう言ってる。」と口にし、小麦や代二郎夫妻を戸惑わせる。
しかし、結果は叶夢の言う通りになってしまう。更に、帰京した小麦には家族にも明かせない秘密が在った。君川家の人々は様々な困難を乗り越え乍ら、ケーキ・ショップの再起を目指す。
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ネタバレになってしまうが、雫井脩介氏の小説「つばさものがたり」には哀しい結末が待っている。「全てを一身に背負い、こんなにも頑張って来たのに・・・。」という遣り切れなさは在るが、其れを上回るホンワカ感が味わえる作品だ。
アスペルガー症候群やAD/HDの罹患を指摘されている叶夢は、天使の「レイモンド」なる友達が居ると言い張る。当然周りの者にはレイモンドなる存在が見える筈も無く、叶夢に奇異な目を向ける訳だが、在りの儘を受け容れる事にした妻・道恵に対して、代二郎は叶夢に強く当たってしまう事も在り、そんな代二郎に叶夢は心を閉ざし勝ちになってしまう。妹思いの代二郎は妹の苦境を必死で救おうとする一方、道恵や叶夢との関係がギクシャクしてしまった現実に悩んだりも。
「必死で頑張ったからと言って、必ずしも全て上手く行く訳では無い。」、「他者に対する労りの心を持っている人だって、時には他者に冷たく当たってしまう事も在る。」、「世の中には、ハッピーエンドだけが待ち受けている訳では無い。」等々は、少なからずの人生経験を有している者ならば、誰もが判っている「現実」だ。そんな現実と向き合いつつ、此の小説に登場する人々は「他者の為に、出来る事がしたい。」という気持ちを大なり小なり持ち続けている。其れが読み手の心に、ズンと突き刺さって来るのだ。
べたと言えばべたな内容なのかもしれないけれど、決して「御涙頂戴」な内容では無い。哀しい結末が待っているけれど、「生きよう。」という前向きな明るさを持たせてくれる作品。総合評価は星4つ。