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ダーク・ウェブの深奥に在る「逆隊コロシアム」。通常の手段ではアクセス出来ないサイトでは、競う様に児童虐待動画がアップされている。
「『逆隊コロシアム』を潰して、其の一部始終をドキュメンタリーにしたい。」というTVディレクターの梅原(うめはら)から依頼を受け、3人の虐待サヴァイヴァーの若者と共に調査に乗り出した“マコト”は、或る日、TVで見た子供の虐待死のニュースが、「逆隊コロシアム」の動画に映っていた少女の事だと気付く。
小さな命を救えなかった悔しさと怒りを胸に、マコトは“タカシ”や仲間達と、巨大なウェブに巣くう獣達に戦いを挑む。
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「東京都・池袋西口公園近くの果物屋の息子・真島誠(まじま まこと)は、“池袋のトラブルシューター”とも呼ばれ、依頼された難事件を次々と解決し、住民の幸福と秩序の維持を目指す。」というのが、「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」のストーリー。もう22年も前になるけれど、原作を基にしたTVドラマを見て、個性豊かな登場人物達とストーリーの面白さに引き込まれ、そして原作を読む事になった。以降、同シリーズの大ファンだ。
「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」の著者・石田衣良氏は、数多くの小説を手掛けているが、近年は“セックス描写が余りにも執拗な作品”が増え、辟易としている。でも、「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」に関して言えば、そういう所は無いし、何よりも「日本の社会の闇、又、其の闇の中で藻掻き続けている弱者に光を当て、エッジの利いた表現力で描写している。」のが実に心地好い。
今回読んだ「獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパークXVI」は、4つの短編小説で構成されており、扱っているテーマは“パワハラ”、“ラヴホ強盗”、“ロマンス詐欺”、そして“児童虐待”。テーマの選び方が、相変わらず良い。
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あれこれ探して、クララ・シューマンが夫のロベルト・シューマンの誕生日に贈ったピアノ曲を見つけた。ダンナが書いた曲のテーマを元にした『シューマンの主題による変奏曲』だ。この曲を贈られて一年もしないうちにロベルトの精神は変調を来し、家族はばらばらになってしまう。よろこばしい誕生日の先にはなにが待つか、誰にもわからないのだ。もの悲しいバリエーション。
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一番心に突き刺さった作品は、児童虐待を扱った「獣たちのコロシアム」だった。「子供を大人が虐待し、其の結果として死なせてしまう。」というニュースは珍しく無くなったけれど、そういうニュースに触れると激しい怒り、そして助ける事が出来なかった無力感に襲われる。殺害された子供とは全く無関係な身だけれど、同様の思いをする方は少なく無いだろう。だからこそ、マコトやタカシ達の行動に強く心が揺さぶられ、ストーリーの中にどっぷり引き込まれてしまう。又、「マコト達が、“大人への階段”を更に上った様な終わり方。」が、実に印象的。
総合評価は、星4つとする。