この夏、観た映画三本について、思うところ・・・・
7月 3日 告白(北島サンシャイン)
観終わった後、登場人物の誰もが不幸になる展開に、観客の誰もが立ち上がれなくなるという評判を聞いていたので、自分も暗澹たる気持ちで映画館を出るのかなと思っていました。が、ラストシーで他人の命も自分の命も、どうでもいいと考えているけれども、ワル知恵の働くひねくれたガキに、自身の幼子を殺された松たか子演じる先生が、彼がただ一つ大切にしているものを彼自身で壊させる事で(倫理的に明らかに反しており明らかな犯罪です)、その心を粉々に壊してしまう、その残酷な場面に、私はカタルシスを感じてしまいました。何か時代劇で最後、主人公が超法規的かつ超人的な剣で悪人たちを切り捨てていくような爽快感が感じられたのです。松たか子の最後の言葉。「あなたの本当の意味での更生は、これから始まるのです!(ここまではまじめなナレーションで、次の瞬間トーンが180度変わって)なーんてネ!」で思わず、ぷっ。と吹き出してしまいました。周りのまじめな観客の皆さん、ごめんなさい・・・・。多分ほとんどの観客は、救いのない物語に、悩んでいるのでしょうが・・・・・。悪い奴が、最大限の報いを受けただけやん!これ以外どんな終わり方があるの?と考える私の様なひねくれ者は少数派なんでしょう。
それにしても松たか子は上手いなあ・・・・。
8月 7日 ソルト(北島サンシャイン)
冷戦時代、ソ連KGBは、アメリカを内側から破壊するために多くの子供たちをアメリカに潜入させた。彼らはやがて成長して、それぞれが社会の中枢を占めるようになる。が、すでに彼らを送り込んだソ連はすでにない。しかし周到?に練られたプランは生きていた・・・・。てな訳でCIAで働くアンジェリーナ・ジョリー演じるイブリン・ソルトが二重スパイの嫌疑をかけられ逃亡をはかります。悪い事に最愛の夫はさらわれてしまいます。これから追いつ追われつ、後から考えるとあり得ないと言う展開の連続なんですが、彼女の体を張ったアクションに目を見張ります。ぐいぐいと観客を引っ張っていきます。そうして、LAST!最後まで孤独な戦いを強いられたソルトは、テロリストの汚名を被ったまま(本当は、彼女がアメリカの危機を救ったのに・・・)護送中のヘリからポトマック川に身を投げて、夜の暗闇の森に消えていきます。彼女にとっては、最愛の夫を奪った、まだどこかで潜伏している連中(かつての同士)を倒すまで続く闘いが、まだ始まったばかりなのでしょう。何か高倉健か仮面ライダー1号かというような影をソルトに感じて終わります。続編、作るんかいな?アンジェリーナ・ジョリーかっこいい、で終わる映画です。この映画も誰も幸せにならない映画です。
8月22日 オーケストラ(松山 大街道)
4月に公開になって、ずいぶんと時間がたっているんですが、9月の今でも、どこかの映画館で上映が続いています。あまりマスコミでは話題にのぼりませんでしたが、これだけ続いている映画です。ひょっとしたら面白いのでは?そう考え、8月も終わりの松山で観ることに。音楽映画によくあるパターンは素人が演奏の楽しさを感じるようになり、幾多の苦難を乗り越え、本番で大成功を収めるというのが多いように思えます。この映画を強いて言えばこのパターンなのですが、うーん!よくできています。今回の演奏家たち(独奏のバイオリニストは除く)は素人ではなく、旧ソビエト時代に国家に刃向かったためにオーケストラを追われたメンバー達が、現役の一流オーケストラになり済まして、パリで公演するまでの主人公たちの奮闘をコメディータッチで描いています。日本人の私にはよくわかりませんが、ロシアのマフィアやガス王を絡めたりで、これが現在のロシアなのか?と、腰を抜かしそうな描写が多い・・・・。ロシア人達のダメダメぶりエピソードが積み重ねられていきます。(これは製作国フランスのロシアに対するイメージなのでしょうか?)が最後15分程のチャイコフスキーのバイオリンコンチェルトの演奏が始まると、これまでの演出上のあらや不満が解消されてしまいます。あれだけダメダメぶりのオーケストラのメンバーが、あるきっかけで栄光の昔日を思い出し、神がかり的な演奏を始めたからです。甘いバイオリンの演奏をバックに、登場人物たちの哀しい過去が語られ、やがて最終楽章の激しい盛り上がりとともに、ホールの観客を興奮の坩堝に叩き込み、ついでに映画を観ている我々をも同じ坩堝に叩き込にで、堂々のフィナーレを迎えます。そういえば、登場人物たちがみんな幸せになる映画を久しぶりに観たような気がします。おまけに私の心も少し幸せにしてくれました。この映画、現実にはありえない、ご都合主義極まりない強引な展開ではありますが、人々が求めているのは、この物語の様な夢なんだと思います。少なくとも、私はそう思います。