はじめに
ここでいう「オレゴンルリ」とは
オレゴンルリクワガタ platycerus oregonensis coerulescensのことで
「ルリ」とは、日本のルリクワガタ Platycerus delicatulus delicatulusを指し
「コルリ」とは、ニシコルリクワガタ Platycerus viridicuprus viridicuprusを指します。
↓ オレゴンルリクワガタ
前記事ではオレゴンルリについて概要〜産卵セットまでを書きました。
今回は、飼育に見るオレゴンルリの生態について少しわかったことを要約してみました。
↓ 前記事:オレゴンルリクワガタ
産卵形態
オレゴンルリの産卵形態は、材の表面を齧り、深さ1~2㎜ほどのところに産卵して埋め戻します。
ルリやコルリのような明瞭な産卵マーク(・)は残しません。
中にはコルリと似たような削り痕もありましたが
今回の採掘の限りでは、材の部分的な硬軟による偶然の類似であったような気がしており
ほとんどの産卵痕は点在的、若しくはやや一列にありました。
そして、産卵場所は地表に近いところに多く認められ
材上部周辺ではそれを見つけることはできませんでした。
↓ オレゴンルリの産卵痕とコルリの産卵痕
↓ やや目立つ痕跡、ホールむき出し部からは卵出てこず(2023.2.14)
↓ 〇の中からは卵は出てこず 卵は⇩部から発見(2023.2.17)
↓ 産座に産み付けられた卵(2023.2.14・セットから16日後)
↓ 卵の大きさは直径0.5〜1.0㎜以内
↓ 産座の深さは1~2㎜程度(2023.2.25)
産卵セットには柔らかいコナラ材・バクテリア材・赤枯れ材の3種を投入しましたが
顕著な反応が見られたのはバクテリア材でした。
どうやらオレゴンルリの材の好みはコルリと似ているようで
コルリが産む材にはオレゴンルリも産むと思ってよさそうです。
コナラ材・赤枯れ材(ツヤハダクワガタ適合材)に関しては
それらしき齧り痕を見つけるに至りませんでしたが、念のため保管しておきます。
↓ コルリ好みのバクテリア材に反応
↓ 材は爪で崩せるくらい柔らかく、湿っている
↓ 一列に並んだ産卵痕6ヵ所と、その中身(卵4・初齢2:2023.2.25)
↓ 卵と初齢初期幼虫 大きさは待ち針の頭参照
↓ 孵化までの日数は推定で25日前後(管理温度20度前後時)
↓ 幼虫はそれなりにルリクワガタ属の尻長系
↓ 野外でこれを見つけるのは難しい
産卵と坑道(穿孔)について
今回の飼育では、オレゴンルリは材に穿孔することもわかりました。
産卵セットを組んだ翌朝、容器内を覗いてみると材を齧った痕がありました。
齧った朽木の種類はバクテリア材で、マットに近いところでした。
↓ セット翌日、バクテリア材を齧った(2022.1.30)
↓ 材の端面から穿孔
穿孔口(坑道)は、材の両端面や雨水の直接入らない位置に複数現れ始めたため
オレゴンルリは朽ち木に穿孔してその中にも産卵するのではないかと思いましたが
2月25日に材を割って中を調べたところ、坑道内には木屑がぎっしり詰められており
その木屑内や坑道内壁等には産卵していないことがわかりました。
また、坑道は産卵の認められた材にのみに出現したため
詰め込まれた木屑はやがて幼虫の餌として利用されることが想像でき
親虫は幼虫に間接的な援助を行っているのかもしれません。
こういった生態(習性)はルリやコルリにはありません。
そして、気になるのは産卵が先か、穿孔(坑道)が先か? メスだけが採掘するのか?
ということですが、残念ながら今回の観察では結論には至りませんでした。
↓ 穿孔と木屑(2023.2.18)
↓ 木屑を付けて坑道から出てきたオス
↓ 穿孔口から頭部を覗かす雌雄(2023.2.4)
↓ 坑道に詰め込まれた木屑はやがて幼虫の有益な餌になるのか?
↓ 一見すると幼虫の食痕にみえる
後食について
オレゴンルリの飼育から1ヶ月ほどになりますが
いまだにゼリーを食べているところは確認していません。
飼育当初、オスがゼリーに付いているのを一度だけ見ましたが
実際に吸汁しているかどうかはわかりませんでした。
口元のオレンジのブラシが見えなかったのです。
↓ ゼリー上で見るも吸汁は未確認(2023.1.28)
また、メスに関しては飼育日数の経過とともに姿を見せることがほとんどなくなり
坑道内で一日の殆どを過ごすようになりました。
おそらくオレゴンルリは後食しないクワガタムシではないかと思っています。
後食しない種は成虫になるまでにため込んだ栄養で蔵卵〜産卵に至りますが
オレゴンルリの長い交尾時間(56分)は
蔵卵に何らかの影響を与えているのではないかと勝手に想像しています。
↓ 初めての交尾時間は56分
寿命について
メスは、産卵セットに投入してから3週間ほど生存したと思われました。
新成虫割り出しから数えると7週間ほど生存したことになります。
オスは、メス以上に長生きしており、時々材表面で見かけます(追記;2.27オス死亡確認)
また、ルリやコルリ等は死後に後翅が少し開くこともありますが(羽パカ)
オレゴンルリの体表は硬いせいか、触っても開く様子はありませんでした。
↓ セットから28日経過、坑道内で母虫死亡確認(2023.2.25)
↓ ルリ オス・メス
↓ オスは生存中(2023.2.25)
オレゴンルリのように
朽ち木に穿孔して坑道に木屑を詰め込むルリクワガタ属を私は知りません。
井村有稀著「東アジアのルリクワガタ属」の系統樹では
オレゴンルリとビレスケンスルリは
ルリやコルリなどといった所謂一般的なルリクワガタ属とは異なる枝に位置しており
形態は元より、生態までそれらとは一線を画した興味深い種です。
↓ 雌雄ともに頭を下げると赤い付け根がみえる
↓ 雌雄ともに各脛節外縁に1本以上の外向きの棘がある(新成虫を撮影)
↓ 雌雄ともにコルリのような頻度で飛翔はしない
最後に
飼育に見るオレゴンルリの生態は、ルリやコルリなどとは似つかぬものでした。
産卵セットから約1ヶ月、めぼしい産卵痕から得られた卵と初齢幼虫は計12ですが
全てがあまりにも小さいため割り出しは途中で止めました。
そして、親虫により坑道に詰められた木屑は意味あるものと考え
割り出しで得られた卵と幼虫の管理に使います。
↓ 割り出しは途中で終了
↓ 得られた卵・幼虫はマットで管理中
採れた幼虫がこのままうまく成長すれば
オレゴンルリの生態がもう少し見えてくるものと思われます。
参考文献: 井村有稀,2010.東アジアのルリクワガタ属.昆虫文献 六本足.
大変貴重な画像ですね!
幼虫の孵化もおめでとうございます。
寿命は、日本のルリ属と
大差なさそうですが
後食しないことや、
あの特徴的な産卵マークは作らないというだけでも、また生態が異なることを感じますね。
続報も楽しみにしております。
こんばんは
ありがとうございます。
なんとか孵化までいきました。
思っていたよりすんなり進んだのでラッキーでした。
あとは最低でも1サイクル見れたらと思っています。