
歩道の脇の植え込みに咲き始めたビヨウヤナギ、フサフサと長くのびたシベが優雅です。
よく似た花でシベが丸まっているのはキンシバイ。同じ時期に同じように咲いています。
ビヨウヤナギを初めて知ったのは初夏の花として蒔絵に描かれた方がいらしたから。
私が30代半ばの頃新聞の三行広告で「絵の好きな人を求む」と書かれているのを見つけて
初めてのパートに行く気になりました。家から45分くらいかかる距離、どんな仕事かも分からずに
ダメならやめればよいと気楽なものでした。絵を描くのが好きか、漆にかぶれないかが条件です。
私は絵は好きでしたし漆の塗師屋(ぬしや)の娘なので漆も大丈夫。
マンションの一室の漆工房、家具に漆の蒔絵を描く仕事を始めようとされての募集です。
採用は私と他に女性が2名。その2名はすぐ辞めてしまい次に入られた方が放送関係の美術を定年退職
された男性Hさん。時給は550円?。
蒔絵の経験はゼロなのにいきなりデザインから製作までさせていただいてずっと私は四苦八苦。
「四季の花」をと言う注文にHさんが描かれた初夏の花が「ビヨウヤナギ」でした。
初めて知ったこの花のしなやかなシベをきれいに描かれていて「とてもかなわないなぁ」と思った
ものです。
全くの素人にデザインさせるなどと言う事は無理なはずなのに伝統的な描き方を知らないことが
かえって「新しい」と言っていただけて展示会でも結構売れました。
山なみやラッパズイセン、スズメやスズムシを描いたり貝を貼り付けた螺鈿もどきなども色々と。
まったくいい加減なものです。
漆蒔絵の基礎も実力もない私がごまかしながらの仕事は長つづきするはずがありません。
3年余りでこの仕事は重荷になり3年間の経験を無駄にするのか悩んだ末に辞めることにしました。
友禅の勉強もされていたHさんはその後も10年近く続けられたようです。
工房はその後美大卒業のデザイナーを採用されてしばらくしたら東京やパリでも展示会を開かれるほど
発展しました。あのまま続けていたら・・・などと思うこともありましたが悩んだ末に辞めるころ
私の頭にできた大小二つの丸いハゲを思い出すとあれが辞めなさいと言う天の知らせだったと思えま
す。今迄にも何度かあった道を選択しなければならなかった通過点の話です。
ビヨウヤナギの花を見ると悩みながらもデザイナー気取りだったあの頃をちょっと恥ずかしく
懐かしく思い出します。