ゆめ未来     

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P分署捜査班集結 愛は主人公だから

2020年10月05日 | もう一冊読んでみた
P分署捜査班集結/マウリツィオ・デ・ジョバンニ  2020.10.5    

P分署捜査班集結』を読みました。
イタリア生まれの愛の物語です。
もっとも、本書は7人の刑事の生き様とそれに係わる人々の愛と人生の交差を叙情性豊に描いた警察小説です。
面白く素敵なミステリーでした。

 愛とはそういうものなのだ。さりげないまなざしや身振りで愛を押し隠し、ひっそり育むこともできる。でも、日の当たる場所に出そうと決心したが最後、もう愛を操ることはできない。
今度は、愛が人を操るようになる。愛が自ら決断を下して大輪の花を咲かせ、すべての空間を独占しようとする。
 あなたは、わたしの目の色を読んで悟るべきだった。あれだけ時間があれば、拒絶が受け入れられないことも、わたしが逆上することも予測できただろうに。わたしの目は、それをはっきり語っていたのだから。
 雪。あなたの好きだったまがい物の雪は、わたしをずぶ濡れにし、風と水で心を埋め尽くす今夜の海に似ている。


 人に背を向けてはならない。とりわけ、わたしには。それに、真の愛の行く手を阻んではならない。あなたほどの読書家なら、愛の邪魔をすることはできないとわかっていただろうに。愛が求めるのは支援と従順。賛美だ。愛は主人公だから、軽んじたり、舞台裏で待たせたりしてはいけない。
 背を向けるなど、もってのほか。
 あの夜の海を思い出す。


 「わたしたちが愛することを知らないというわけではありませんよ。それどころか、好きなものにありったけの愛情と時間を捧げることがきる。お金はまさにそのためにあるんですもの。そうでしょう? お金は、すてきなものに熱中するためにあるのよ。そして、愛よりすてきなものが、あるかしら。」

 「わたしは彼女がいなくなったことのほうが、ずっとだいじ。これから寂しくなるわ。チーチャは、わたしの心の一部もあの世に持っていってしまったみたい。いくらかでも価値のある部分を」

 ジュゼッペ・ロヤコーノ
 打ち解けやすい人物ではなく、同僚たちが影で呼んでいる中国人というあだ名にぴったりの風貌である。頬骨が高く、切れ長の目は集中すると糸のように細くなる。つややかな黒髪、いまにも突進せんばかりに力をみなぎらせた、たくましい体く。口元に皺が少しあるところを見ると、四十歳を越しているようだが、だとしてもほんの数年だろう。


 無能な輩は----ロヤコーノは内心で思った----他人が成功すると、運がよかったからだと過小評価する。こうした場面に出くわすたびに一セントもらっていたら、いまごろは大金持ちになっている。

 「警視、互いにいやな野郎だと思っているのは、どっちも承知じゃありませんか。必要不可欠な話題に絞りましょう。さっさと用件をお願いします。」
 「ああ、わたしはきみが腹に据えかねている。だから、この話をするのがじつにうれしい。捜査畑の人員をひとり、ほかの分署にまわして欲しいという要請が来た。任期はいまのところ未定。部下のなかでよそに出せるのは、現在捜査を担当していないきみひとりだ」
 ロヤコーノは肩をすくめた。あっさり承諾するのは業腹だ。


 「よろしい。これは、困難な任務と言えよう。ピッツォファルコーネ署について聞いたことはあるかね」

 「承諾した場合のリスクを教えていただきたい。どんな難題が待ち受けているんですか」
 ディ・ヴィンチェンツォは堪忍袋の緒を切らし、鼻を鳴らしてデスクをひっぱたいた。
書類にペン、鉛筆、眼鏡が散乱した。

 「分署を存続する企てが失敗するかもしれないだろう! そうしたら、最悪の場合は全員が任務を解かれてもとの署に戻される。あるいは、各分署がすでに代わりの人員を手配していたら、どこかよそに転任だ。ぜひ、そうなってもらいたいよ。言うまでもないが、今度の同僚は、どの分署でも追い出したがっていた鼻つまみ者ばかりだ。変人奇人、ろくでなしに能無し。きみはそういう連中の仲間入りするのさ!」
 ロヤコーノは平然と答えた。
 「ここを出るためなら、パタゴニアにだって行きますよ。警視をやきもきさせるのも、悪くないかと思って。で、そこへはいつ顔を出せばいいんですか?」


 「レティツィアのトラットリアは店主の美貌と気立てのよさも手伝って、人気の的だ。豊かな胸と美しい美貌は、誰もが絶賛する郷土料理の最高の付け合わせだった。
 いっぽう女性客のほうも、・・・彼女がときたま披露する歌声に期待して詰めかける。おまけに最近は、レティツィアの恋心にひとりだけ気づいていない当の本人、東洋的な風貌の朴念仁を眺める楽しみも加わった。テレビのメロドラマを見ながら、おいしい料理に舌鼓を打つようなものだ。これ以上の娯楽はない。


 上着の襟を喉元できつく握りしめ、風に髪をかき乱されながら、ロヤコーノはしばし彼女を見つめた。恐れを知らず、自分を信じることができ、女性に興味を持たれることをごく自然に受け止められるような生き方をしているときに出会いたかった、としみじみ思った。

 アレッサンドラ・ディ・ナルドとフランチェスコ・ロマーノ両刑事は、ほとんど言葉を交わさずに、それぞれの思い出にふけって歩いていた。そもそも共通の話題がないのだから、会話が成立する道理がない。
 共通しているのは、同じ署に最近配属されたという、ただその一点だ。それも、市の警官全員に“ろくでなし刑事”と蔑まれるピッツファルコーネ署に。信頼し合う基盤は脆弱だし、友情を育むのに適した環境でもない。



最後に、この女性の意地がいいですね。

 レティツィアはそのうしろ姿を見送って堅く心に誓った。
 女の闘いが始まるのなら、一歩も引くものか。


「P分署捜査班集結」は、二十一世紀の「87分署」を意図して書かれた警察小説シリーズの第一作である。


 『 P分署捜査班集結/マウリツィオ・デ・ジョバンニ/直良和美訳/創元推理文庫 』

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