■復活の歩み下 250225
マイクル・コナリー「リンカーン弁護士」シリーズの『復活の歩み 下』を読みました。
辣腕弁護士ハラーと州検事補モーリス、連邦地裁判事コエルホの法廷で丁々発止が面白い。
わたしには息子がひとりいます。息子にもう一度会いたかったんです。あの子を抱いて、
あの子の人生の一部になりたかったんです。こんな長い刑期を科せられるとは思っていな
かったんです。
刑事事件の裁判で証言するのは、ボッシュにとってなんら目新しいことではなかった。
証人席に何百回と座ったことがあった。週末、そのことについて考えたとき、はじめて証
言に呼ばれたのは一九七三年の麻薬関係の裁判だったと思いだした。当時、ボッシュはパ
トロール警官で、制服の袖にはP-Iの袖章が付いていた。ドーシー高校の近くをうろつ
いている男のボディチェックをして、三十グラムのマリファナを見つけた。あれから幾星
霜経っても、ボッシュは逮捕した容疑者のことをはっきり覚えていた。男の実名はジュニ
オール・テオドロだった。当時二十歳で、ドーシーを中退していた。その日の朝の点呼で、
高校付近で商売をしている売人について警戒するようにという通達があった。ボッシュと
当時のパートナーは、テオドロを見つけ、逃げられないようすばやく車を停めて、飛び降
り、ボディチェックでブツを見つけて逮捕した。
ボッシュの証言はその事件の予備審問のときにやってきた。テオドロが裁判に送致され
たあとで、彼と担当弁護士は答弁取引の交渉をした。ジュニオール・テオドロが有罪を認
め、五十年後にはもはや犯罪ではなくなったものために五年から七年の刑期を言いわたさ
れたせいで、ボッシュはそのことをよく覚えていた。当時は正義であったものが、こんに
ちではそれとはほど遠いものになっている時代の変化についてボッシュはよく考えること
があった。あの逮捕と、そのあとにやってきた厳しい判決がテオドロの人生の進路をどれ
ほど変えてしまったのだろう、とボッシュは思った。ボッシュがまだロス市管にいたころ、
カリフォルニア法執行追跡システムでテオドロを追えるようにして、ときどき彼の名前を
検索した。刑務所の門はテオドロにとって回転扉になっていた。ボッシュがテオドロを調
べるたび、彼は刑務所に舞い戻っているか、最近出所して、仮釈放期間を過ごすかしてい
た。五十年後、ボッシュはまだジュニオール・テオドロにその道をたどらせた自分の役割
に悩まされていた。そしてそれがいまボッシュの懸念していることだった。
『 復活の歩み(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫 』
マイクル・コナリー「リンカーン弁護士」シリーズの『復活の歩み 下』を読みました。
辣腕弁護士ハラーと州検事補モーリス、連邦地裁判事コエルホの法廷で丁々発止が面白い。
わたしには息子がひとりいます。息子にもう一度会いたかったんです。あの子を抱いて、
あの子の人生の一部になりたかったんです。こんな長い刑期を科せられるとは思っていな
かったんです。
刑事事件の裁判で証言するのは、ボッシュにとってなんら目新しいことではなかった。
証人席に何百回と座ったことがあった。週末、そのことについて考えたとき、はじめて証
言に呼ばれたのは一九七三年の麻薬関係の裁判だったと思いだした。当時、ボッシュはパ
トロール警官で、制服の袖にはP-Iの袖章が付いていた。ドーシー高校の近くをうろつ
いている男のボディチェックをして、三十グラムのマリファナを見つけた。あれから幾星
霜経っても、ボッシュは逮捕した容疑者のことをはっきり覚えていた。男の実名はジュニ
オール・テオドロだった。当時二十歳で、ドーシーを中退していた。その日の朝の点呼で、
高校付近で商売をしている売人について警戒するようにという通達があった。ボッシュと
当時のパートナーは、テオドロを見つけ、逃げられないようすばやく車を停めて、飛び降
り、ボディチェックでブツを見つけて逮捕した。
ボッシュの証言はその事件の予備審問のときにやってきた。テオドロが裁判に送致され
たあとで、彼と担当弁護士は答弁取引の交渉をした。ジュニオール・テオドロが有罪を認
め、五十年後にはもはや犯罪ではなくなったものために五年から七年の刑期を言いわたさ
れたせいで、ボッシュはそのことをよく覚えていた。当時は正義であったものが、こんに
ちではそれとはほど遠いものになっている時代の変化についてボッシュはよく考えること
があった。あの逮捕と、そのあとにやってきた厳しい判決がテオドロの人生の進路をどれ
ほど変えてしまったのだろう、とボッシュは思った。ボッシュがまだロス市管にいたころ、
カリフォルニア法執行追跡システムでテオドロを追えるようにして、ときどき彼の名前を
検索した。刑務所の門はテオドロにとって回転扉になっていた。ボッシュがテオドロを調
べるたび、彼は刑務所に舞い戻っているか、最近出所して、仮釈放期間を過ごすかしてい
た。五十年後、ボッシュはまだジュニオール・テオドロにその道をたどらせた自分の役割
に悩まされていた。そしてそれがいまボッシュの懸念していることだった。
『 復活の歩み(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫 』