■レーエンデ国物語 2024.1.29
多崎礼さんの『レーエンデ国物語』を読みました。
久々に物語を読むことの面白さを味わいました。
青春小説であり、逃れられない宿命を背負った登場人物たちの人生と戦の大河ファンタジーです。
「鬼殺しに二言はないよ」
「俺は兄上に理由を話した。騎士団から身を退きたいと申し出た。兄上は言ったよ。『お前はシュライヴァの英雄だ。英雄は戦場に身を置いてこそ価値がある。もう戦えないというのであれば華々しく戦死してこい。死して英雄の伝説を完成させてこい』とな」
トリスタンは息を止めた。絞った喉がグゥと鳴った。さっき僕が口にした言葉、それよりもっと辛辣な言葉を、彼はすでに聞かされていたんだ。しかも相手は実兄だ。赤の他人である自分が口にするのとはわけが違う。
「ずいぷんと冷たい兄上ですね」
「兄上の言い分もわからなくはないんだ。俺が戦場から逃げ出したとあっては、シュライヴァ騎士団の価値も士気も下がってしまうからな」
惚けた顔をして、さりげなく目元を拭う。
「とはいえ俺にも意地がある。シュライヴァのためだとしても無駄死には御免被りたい。命を賭すならば価値ある目的が欲しい。俺がそう言うと、兄上は俺に交易路の建設を命じた」
「レーエンデに行って、銀呪病に罹って死んでこいってことですか?」
「まあ、それもなくはないんだろうが----」
ヘクトルは気まずそうに顎をかいた。
「兄上は聖イジョルニ帝国の皇帝になりたいんだよ」
「……は?」
ユリアは上空を見上げた。息を呑むほど美しい流星がレーエンデの夜空を横切っていく。
「前にヘレナさんが言っていました。人は誰でも役目を背負って生まれてくる。自分には何もない、何もなかったって言う者は、まだそれを見つけていないか、見つけたのに目を逸らしているか、そのどちらかなんだって」
ユリアは腹に手を当てた。情を交わすこともなく授かった不思議な命。本当にいるのかどうか、半信半疑だった。でも今は確信している。私の中には希望の光が宿っている。私はエールデの母親になる。
「私の役目はこの子を産むことです。たとえ世界中を敵に回しても、私はこの子を守ります。トリスタンが命懸けで守ってくれたこの命、必ず守り通してみせます」
「私は英雄ヘクトル・シゥライヴァと、誇り高きレオノーラ・レイムの娘ですから」
『レーエンデ国物語』多崎礼 公式サイト 講談社
多崎礼 公式blog 霧笛と灯台
『 レーエンデ国物語/多崎礼/講談社 』
多崎礼さんの『レーエンデ国物語』を読みました。
久々に物語を読むことの面白さを味わいました。
青春小説であり、逃れられない宿命を背負った登場人物たちの人生と戦の大河ファンタジーです。
「鬼殺しに二言はないよ」
「俺は兄上に理由を話した。騎士団から身を退きたいと申し出た。兄上は言ったよ。『お前はシュライヴァの英雄だ。英雄は戦場に身を置いてこそ価値がある。もう戦えないというのであれば華々しく戦死してこい。死して英雄の伝説を完成させてこい』とな」
トリスタンは息を止めた。絞った喉がグゥと鳴った。さっき僕が口にした言葉、それよりもっと辛辣な言葉を、彼はすでに聞かされていたんだ。しかも相手は実兄だ。赤の他人である自分が口にするのとはわけが違う。
「ずいぷんと冷たい兄上ですね」
「兄上の言い分もわからなくはないんだ。俺が戦場から逃げ出したとあっては、シュライヴァ騎士団の価値も士気も下がってしまうからな」
惚けた顔をして、さりげなく目元を拭う。
「とはいえ俺にも意地がある。シュライヴァのためだとしても無駄死には御免被りたい。命を賭すならば価値ある目的が欲しい。俺がそう言うと、兄上は俺に交易路の建設を命じた」
「レーエンデに行って、銀呪病に罹って死んでこいってことですか?」
「まあ、それもなくはないんだろうが----」
ヘクトルは気まずそうに顎をかいた。
「兄上は聖イジョルニ帝国の皇帝になりたいんだよ」
「……は?」
ユリアは上空を見上げた。息を呑むほど美しい流星がレーエンデの夜空を横切っていく。
「前にヘレナさんが言っていました。人は誰でも役目を背負って生まれてくる。自分には何もない、何もなかったって言う者は、まだそれを見つけていないか、見つけたのに目を逸らしているか、そのどちらかなんだって」
ユリアは腹に手を当てた。情を交わすこともなく授かった不思議な命。本当にいるのかどうか、半信半疑だった。でも今は確信している。私の中には希望の光が宿っている。私はエールデの母親になる。
「私の役目はこの子を産むことです。たとえ世界中を敵に回しても、私はこの子を守ります。トリスタンが命懸けで守ってくれたこの命、必ず守り通してみせます」
「私は英雄ヘクトル・シゥライヴァと、誇り高きレオノーラ・レイムの娘ですから」
『レーエンデ国物語』多崎礼 公式サイト 講談社
多崎礼 公式blog 霧笛と灯台
『 レーエンデ国物語/多崎礼/講談社 』
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