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ビリー・サマーズ/スティーヴン・キング

2024年09月09日 | もう一冊読んでみた
ビリー・サマーズ(上・下) 240909

スティーヴン・キングの『ビリー・サマーズ』を読みました。
心優しい殺し屋が、最後に請け負った殺しの話です。
殺し屋を、「心優しい」と言うのは、可笑しな話だとは思うのですが、ページからは優しさがにじみ出ています。

暗殺の当日まで、潜伏先の隣の子供たちと殺し屋ビリーは、心から楽しんで遊びます。
隣人の夫婦との何気ないやりとりにも誠実で心温まります。
親しくしているだけに、心の中では、暗殺後の子供たちに与える影響を憂うのでした。
暗殺後、別の潜伏先のアパートの前で、アリスと言う若い女性が、汚いワゴン車から投げ捨てられのを見ます。
ビリーは、暗殺直後の脱出を模索中と言う、難しい局面であるにもかかわらず彼女を救います。
助けられたアリスは、日を待たずして、ビリーが暗殺犯であることに気づくのでした。

ビリーの幼い頃に起こった悲劇。
施設に預けられ過ごした過酷な日々とつかの間の甘い思い出。
成長して海兵隊に入り、スナイパーとしての腕をみがき、中東での闘いの日々を送る。

このまま、ずっと続けばいい今の幸せが実に活き活きと楽しく描かれています。
しかし、その生活を続けることを困難にする過酷な現実がすぐそこに差し迫って来ます。
ある意味、ぼくにとっては切ない「クライム・スリラー」でした。

 ビリーは思う----仕事のあとに一杯飲みにいかないかと誘うタイミングだ。
 断わられるかもしれない……が、睫毛の下から見あげろあの目つきには、誘いを受けそうだと思わせるものがある。
 しかし、ビリーは誘わない。人と会うのはいい。人から好かれ、そのお返しに人を好きになるのはいい。
 しかし、親しくなってはいけない。親しくなるのは禁物だ。
 親しくなるのは危険だからだ。引退したあとなら事情も変わるかもしれないが。



 おれがきみを助けたのは、あのままきみを道路に放置しておけば、そのうち警官がここへやってくるだろうと思ったからだよ----ビリーは思う。ただし、それが真実のすべてではないかもしれない。おれたち人間はすべての真実をおのれに話すだろうか?
 「わからない」
 「あなたがこんな目にあったなんて気の毒でたまらない」アリスは泣きはじめる。
 「これまでわたしは、自分がなんてひどい目にあったんだろうと思ってた。でも----」
 「きみの身に起こったのも本当にひどいことだよ」
 「----妹さんのほうが、よっぽどひどい目にあってる。ね。本当に相手の男を撃ったの?」
 「ああ」
 「よかった。よかった! そのあとあなたは施設に入れられたのね?」


 『 ビリー・サマーズ(上・下)/スティーヴン・キング/白石朗訳/文藝春秋 』


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