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血塗られた一月/アラン・パークス

2023年10月16日 | もう一冊読んでみた
血塗られた一月 2023.10.16

アラン・パークスのデビュー作『血塗られた一月』を読みました。
本作は、スコットランドのグラスゴーを舞台にした「刑事ハリー・マッコイ」シリーズの第一作です。
この物語は、主人公のハリー・マッコイ刑事が、一般的な警察小説の主人公とは毛色が少々異なります。
“悪くて弱い”アンチヒーローなのです。

日本の警察官の範疇では、正しく悪徳警官。
血に弱く、血を見ると卒倒しそうになります。
マッコイの上司の「マレー」の方が、ずっと主人公のキャラにふさわしく感じられます。

 敷地を構切ってやってきた。雪はまだ降っていたが、マレーはコートも着ておらず、肩のあたりがきつそうなおなじみのツイードのジャケットに中折れ帽という姿だった。彼は大柄な男で、身長は百八十五センチ近く、グレーになりかけた赤毛に口ひげを生やし、赤らんだ顔をしていた。ラグビーのプロップ----実際にそうだったのだが----がそのまま太ったような見た目だった。マッコイはなぜ自分と彼がウマが合うのかわからなかった。見るかぎり、ふたりに共通点はなかった。たぶん、ほかのみんなはマレーを怖がって、普通の会話ができないのだろう。
 「クソみたいな状態だ」とマレーは言い、マッコイの隣に坐った。「ワッティーは、事件が起こる前にあの少女を探しにおまえとここに来ていたと言っていた。理由は聞いていないと。そのとおりなのか?」
 マッコイはうなずいた。
 「なぜだ?」とマレーは静か言った。ボーダーズ訛りの名残があった。彼の話し方はふたつしかなかった。怒鳴る。それは彼が苛立っていること意味していた。静かに話す。それは彼が今にも苛立ちを爆発させようとしていることを意味していた。


 「おれが教えることになってたんじゃなかったか?」
 「ああ、でもあんたはときどき、物事をちゃんと説明してくれないからな」
 痛いところをつかれた。「おれに罪悪感を抱かせようとしてるのか?」とマッコイは訊いた。
 「やってみたところで、うまくいくとは思ってないよ」
 「たしかに。マレーの言うことを聞くんだ。彼だけが自分のやっていることをわかっている。制服組にばかにされるんじゃないぞ。ここはおまえの現場だ。彼らはおまえの望むようにする」
 ワッティーは敬礼をした。「イエッサー」
 「マレーはキャペンディッシュについてほかに何か言ってたか?」
 「特には。ただ頭を低くしておけば、そのうち風も治まるだろうって」
 「ほかには?」
 ワッティーは決まり悪そうな顔をした。「あんたの悪いところを見習わないように言われた。敵と親しくするな、仕事中に酒を飲むな、ひとつの道に固執するな、選択肢を広く持てと」
 「悪くないアドバイスだ。おれもやってみるかな」彼はポケットに手を突っ込むと、歩きだし、ゲートのほうに向かった。


    『 血塗られた一月/アラン・パークス/吉野弘人訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』



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