ゆめ未来     

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二人のうち、弱そうな嘘つきの方を罰しよう 湖の女たち

2021年03月15日 | もう一冊読んでみた
湖の女たち/吉田精一    2021.3.15    

湖の女たち』 を読んだ。
後味の良くない作品であった。

佳代と圭介の話は、一度は面白く興奮するかも知れないが、度重なればその内、誰かが「血を見るぞ」と心配になる。そもそも何が面白くて、こんな人生? と思ってしまう。

圭介と組む先輩刑事の伊佐美は、今はいやな奴だが、もう少し厚みを与えることが出来れば味のある人物に描けそうだ。
唯一、ほっとしたのは雑誌記者池田の事件に対するこだわりか。



 片目の野良猫が圭介を窺うように水路にかかる短い橋を渡っていく。

 手元ではちゃんぽんが冷めていた。河井が何杯目かの水を一気飲みする。
「・・・・・・不正がしたくて警察に入って来る者なんて一人もおらへん。その逆やで。不正だけは許せんと思ってる正義感の強い奴らだけが入って来るのが、警察や」
 河井の口から飛んだ唾がスープだけが残った丼に入る。
「・・・・・・そやのに。誰かがそんな思いをひねり潰すねん。あの事件以来やわ、うちの署の雰囲気がすっかり変わってもうたんは。さっきも言うたやろ。人間だけやなくて、やっぱり組織にもトラウマってあんねんな。もうどうにもならへんかった。人間と同じや。もう、どうにもならへん。トラウマが原因で人間が罪を犯すことがあるやろ。それと同じで、組織が犯罪者になることだってあんねん」


 どちらも真実だと思うから、糸が絡み合うのだと検察官や伊佐美は考えている。じゃなくて、どちらも嘘だと思えばいいと。目の前にいるのは、二人の正直者ではなく、二人の嘘つきだと。ならば、二人のうち、弱そうな嘘つきの方を罰しようと。

 「悔しいだろ? でもな、こういう悔しさに慣れていくのも俺たちの仕事の一つだよ」
 渡辺が電話を切ろうとする。池田は、「ちょっと待って下さい」と呼び止め、「もみじ園のほうは引き続き追っていいんですよね?」と尋ねた。
 「ああそっちはやっていいよ。ただ一つ先に言っておく。お前もすぐにこの世の中のしくみが分かるよ」
 電話を切った途端、急に体が重くなった。事件や犯罪というものが、まるで金や権力で売り買いできる商品のような気がした。罪を償わなければならないのは、事件や犯罪を犯したからではない。金や権力を自分が持たなかったからなのだ。


この作品は、「湖の女」 ではなく 「湖の女たち」 である。

    『 湖の女たち/吉田精一/新潮社 』

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