ゆめ未来     

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終の市/ドン・ウィンズロウ

2024年09月02日 | もう一冊読んでみた
終の市 240902

ドン・ウィンズロウのギャング・ノワール三部作
  『業火の市
  『陽炎の市
  『終の市

ぼくは、まだ読んでいなかったので、第一話から順に読もうか、とも思ったのですが、
主人公ダニー・ライアンの一生を逆にたどるのも一興と思い第三部から読み始めました。

ダニー・ライアンは、アイルランド系マフィアの一員ですが、極めてストイックな人物
です。それが、随所に描かれています。

この小説で哀切極まりないのは、子に先立たれた父親の姿です。

「おれたちを信じることだ」
「脅すつもりはないが」とダニーはたたみかける。「ちゃんと理解しておいてほしい。おれをこけにしたら、必ず報いを受ける」
「それが世の習いというものだ」
「いかにも」とダニーは言う。「是非タコスを味わっていってくれ。最高に美味いから」
“おれたちを信じることだ”だと?
“信じる”というのは、サンタクロースを待つ子供のためにあることばだ。


 ダニー・ライアンは今は亡きふたりの女性を愛している。思い出が相手では勝ち目はない。このさき決して失言することもなく、失態を犯すこともなく、贅肉がつくこともなく、こむら返りを起こすこともなく、赤らんだ鼻から鼻水を垂らすこともなく、歳を取ることもない、そんなふたりの女性を彼は愛している。
 決して失望させはしない女性たちを。
 さらにもっと根深い問題もある。
 本人には口が裂けても言えないが、ダニーはその悲しみに恋をしている。悲恋に酔い痴れている。自寛しているにしろ、していにしろ、ふたりの女性との悲劇的な別れがダニーのアイデンティティになっている。彼が哀しみを断ち切ることは決してない。どうすれば断ち切れるのか、彼にはわかりっこない。


「あなたはぼくたちと食事をともにした」とジョシュは言う。「シャバットの夕食に同席した。あなたはぼくをあなたの家に迎え入れてくれた。それには意義がある」
「何十億ドルもの価値があるのか?」とダニーは訊く。
「これは祖父から教わったことだけど」とジョシュは続ける。「金から人は生まれないが、人は金を生む。どんなときも人に投資しろ----立場が逆なら、あなただってドムやジェリーの辞任を認めないと思うけど」
 ジョシュはダニーに同意を求めていない。だから返答は要らない。


  『 終の市/ドン・ウィンズロウ/田口俊樹訳/ハーパーBOOKS 』


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