ゆめ未来     

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雷神/道尾秀介

2022年09月26日 | もう一冊読んでみた
道尾秀介 『 雷神 』 を読みました。

藤原南人、英、亜沙実、幸人、宮司の太良部容子、希恵親子、みな悲しみの連鎖で繋がり不幸になっていく。
何とも重苦しくいたたまれない展開の物語でした。
物語のような人生のしがらみと連鎖で、愛する人を失うとすれば、胸も張り裂け耐えられないことでしよう。




 哀しいはずのそれらの出来事を、しかし姉はいつも笑って私に話した。はじめはそれを強がりだと思っていたし、事実そうだったのかもしれない。でもたぶん、本当に強くなれるのは、強がることができる人だけなのだろう。

 いまは、父の言葉を少し理解できる。私たちが羽田上村で何事もなく暮らせていた日々は、振り返ればひどく短いものだった。私が結婚してから悦子と過ごした時間も短く、二人で夕見を育てた時間は、もっと短かった。歳を重ねるにつれ、比較する時間だけが延びていき、途切れてしまった時間は遠ざかるばかりで、それだけに、すべてがどれほど大事だったかが身に染みる。

 父は、三十年前、その手で確かに姉を守ったのだ。なのに私は何ひとつできなかった。あらゆる物事が姉を指し示していたというのに、それを認めようとしなかった。見てはいけないものを見てしまった囚人のように、ふたたびもとの暗い場所に戻って息を潜め、見慣れた偽物の影を見つめながら、それが本物であると自分に言い聞かせていたのだ。

    『 雷神/道尾秀介/新潮社 』


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