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鬼火 あれは別のなにかのように偽装された暗殺だった。

2022年01月31日 | もう一冊読んでみた
鬼火(上・下)/マイクル・コナリー  2022.1.31

鬼火(上・下) 』 を読みました。

 ジョン・ヒルトン----一九六六年一月一七日生まれ、九〇年八月三日死亡 未解決事件
 ハリーとバラードは、この未解決事件の捜査を進めるが、新たな事件が次々と起こる。

ハリーの師であるジョン・ジャックは、なぜ殺人事件調書を盗み出し二十年間何もしないで放置したのか。

捜査の過程で浮かび上がってくる女殺し屋「黒衣の未亡人」の存在。

下巻後半、状況は一挙に動き始め俄然面白くなる。
明らかになる真実は、実に悲しいものだった。



 ネオンやキラキラした光が消え、暗い時間帯になるとハリウッドは様相を異にした。バラードはその変化を毎晩目にしていた。捕食者と獲物の場所になり、中間の存在はなかった。持てる者たちが錠のかかったドアの奥に快適かつ安全に過ごし、持たざる者たちが好き勝手にうろつく場所。バラードはレイトショー担当パトロール警官であった詩人の言葉をずっと覚えていた。その詩人は、持たざる者たちのことを、運命の風に吹かれるままに転がっていく人間回転草、と呼んでいた。..........
 バラードは死体と放火班の人間のもとに向かいながら、先ほどの回転草に関する一文を思い出さずにはいられなかった。あるパトロール警官が記した職質カードに書かれていたもので、のちにバラードは、その警官がハリウッドの陰惨な現実と暗い時間帯の出来事をあまりに多く目撃して、みずからの命を絶ったことを知ったのだった。


 「お子さんはひとりっ子ですが、充分な関心を得ていると思っていなかったんですか?」
 「充分な関心を得ていると思う子どもはいません。わたしもそうでした」
 バラードは精神的外傷や喪失に苦しむ人がさまざまな形で悲しみを処理するのを知っていた。人生の大惨事に苦しんでいる人が口にすることに批判的な判断をするのは控えようとつねに心がけていた。


 そちらのほうが可能性が高いと思ったからでなく、多額の金が絡んでいる事件のほうに集中するため、さっさと片づけたかったからだ。金はつねによりよい動機だった。

 「おれが辞める数年まえに、ある隠れ家を急襲する捜査令状を執行したところ、グレープ・ストリート出身の男が別の男とベットにいっしょに入っているところをつかまえたという話を聞いた。警察はその事実を盾にとって、五分足らずでそのおとこを内通者に転向させた。頭の上に五年間の刑期を垂らすよりもずっと大きな影響力をもたらした。必要があれば、勤めをこなし、出所すれば幹部になれる、と連中はわかっている。だが、だれもギャングのなかでゲイの評判は立てられたくない。いったんその評判が立てば、身の破滅だ」

 「いいか、なぜジョン・ジャックがこの殺人事件調書をもっていたのか。あるいはなぜ二十年間、その上に腰を下ろして動かなかったか、その理由がわかっていない」ボッシュは言った。
 バラードは、「それが重要? わたしたちは殺害実行犯の目星をつけている。それにわたしたちは機会も動機もつかんでいる」
 「おれには重要なんだ」ボッシュは言った。「おれは知りたい」
 ボッシュは、この件にはなにか凶々しいものがあるというバラードの説に傾きはじめていた----ジョン・ジャック・トンプスンが殺人事件調書を盗んだのは、この事件を解決させたくなかったからだ、という説に。


 あらゆる殺人、あらゆる捜査には、答えが見つからない疑問がつねに存在する、とボッシュは知っていた。鈍感な連中は、それらを未決事項と呼んで事足りるが、けっして未決のままで放っておいていいものではない。ボッシュの場合、それはそばを離れず、どこに動こうとつきまとい、ときには夜中それに起こされる、しかし、けっして剥がれず、けっしてそれから逃れることはできないのだ。

 ボッシュはジョン・ジャック・トンプスンについて考えていた。彼がしたことと、彼のありうる動機を、ボッシュはひどい裏切りのように感じられた。自分を指導してくれた男が----すべての事件に最善を尽くす価値があるという信念を、だれもが価値がある、さもなければだれも価値がないという信念を叩き込んでくれた男が、自分の血縁が関わる事件で潜りこみをしていた。

 「こないだの夜、強盗殺人課が引き受けたこんがり焼けた放火殺人事件で、あれは別のなにかのように偽装された暗殺だった。モンゴメリー事件とおなじように」

    『 鬼火(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫 』




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