水圏環境リテラシー学実習が千葉県館山市にある坂田ステーションにて始まった。坂田ステーションは研究施設であり,潜水による魚類生態学,バイオテクノロジー等の最先端の研究を行っている。宿泊施設,講義室,前浜,館山湾を利用して本実習が行われている。
アオリイカの卵を発見しました。
この実習では,スノーケリング,磯観察,シーカヤックのトレーニングを通して,水圏環境リテラシー基本原則をもととした自然観察ガイドや科学コミュニケーターとして活躍する素地を養う。ここで学ぶ海に対する見方は2つある。
1つは海と人間を一体化する見方である。本来,私たち人類と海との関わりは深い。海は食の恵みを与えてくれる。魚食文化は我々日本人にとってなくてはならない。また,海は航路である。古代より,人類は船で世界中を航海してきた。5万年前にアフリカを出発した祖先は船を使って世界各地に分布を広げた。海は人間生活の一部なのである。体験を通して海とふれあうことで,私たちの祖先の考え方に触れ,人類がいかに海との関わりの中で生活を繰り広げてきたかを体験的に学んでいく。
2つめは,海を客体化する見方である。客体としてとらえるとは,海の環境を客観的にとらえることである。波,風,潮流はどのようになっているのか,沿岸部の地形はどうなっているのか等を陸上から,そして海の上から,海の中から客観的に認識し,議論する。
前者は伝統的なものであり,本来私たちの日常生活にも密接に関わるものである。海に出て体験することで理解が進む。一方で,2つめの見方は前者に比較すると難しい。客観的に自然をとらえることが我々日本人は生活の中であまり行っていない。自然を客観的にとられるのは非日常であり,それは科学者や専門家の仕事である。そもそも,学校教育において客観的に自然をとらえるとはどういうことか,が十分に教えられていない。むしろ,余計なものとして扱われる(育成するには大変な労力を要する)。客観的に自然をとらえるということは,科学的に自然を観察するということである。
自然を客観的に見ることで科学が進歩したことは承知の事実である。そして現代社会も細分化され,それぞれの分野は飛躍的に発達した。しかしながら,細分化し発達したものは統合することが大変難しい。それは,海洋の分野でも同じである。海洋化学,海洋物理学,水産学,等々専門分野が多岐にわたり交流が難しくなり,本来海を理解するために始まった学問が,さらに混沌とした世界を作り上げていく。本来の海の姿が見えなくなってしまう。
かといって,一体化することだけでは,そもそも科学は発達しないし,科学を理解することができない。一体化と客体化の両面を兼ね備えたリーダーがこれからの時代に求められる。