遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

クローンは美味しい?

2009-01-29 21:18:27 | BIONEWS
クローン問題は、この『クローン』という言葉についてちゃんと定義を明らかにしておかないとややこしくなると感じています。クローンが危険だとか怖いとかいう人の多くがこの言葉の意味が分からなくて騒いでいるからです。このブログでは何度も書いてるんですが、今回も書いておいた方がいいでしょう。
『クローン』とは有性生殖を経ずに無性的に複製させたDNAや細胞、個体のことをいいます。ギリシャ語の『枝』を意味する言葉からきています。枝を地面にさすとそこからその植物が育ってきます。元の植物と遺伝的背景の同じ個体が性的な交雑を経ないでできるわけです。これがクローン。持ってる遺伝子が同じですから基本的な形質は同じです。だからソメイヨシノは同時に開花し、いっせいに花を散らすわけです。これはクローンだから出来る芸当なのです。日本人はクローンを見ながら酒を飲んで、春がきたと喜ぶわけですな。

クローン牛と豚は安全と報告 流通容認の公算、抵抗感も(共同通信) - goo ニュース
さて、動物のクローンだとそんなに素直に喜べなくなるってのが、この問題の複雑なところです。クローン化でやってる作業というのは核移植です。これは組み換えDNA技術ではありません。細胞核をあっちからこっちへ移しているだけ。危険だ危険だといって騒ぐ人に何が危険なのか指摘してもらえれば、それについてちゃんと調べるのですが、科学者・技術者側にとってはどこが危険でどういう点について調べればいいのか分からないというのが本音です。だいたい体細胞クローンは採算に乗るほどの成功率がありませんし・・・受精卵クローンはもうすでに市場に出回っているそうですが。
新しい問題として、優秀な種牛が死んでからそのクローンを作成された事が報道されました。優秀な種牛のクローンなら量産ベースに乗っちゃいます。だってクローン牛の子供はクローンではありません。子供は有性生殖で産まれてくるわけですから! 問題があるという人はどこが問題なのか科学的に指摘する必要があります。「気持ち悪いからダメ」というのでは、いつまでたっても埒があきません。

世界初、ペットのクローン犬誕生=その名も「アンコール」-米(時事通信) - goo ニュース
これはさらに重要なニュースです。死んだペットをクローン化してコピーの仔犬を手に入れたってニュースです。1千万円以上のお金を払えば、失った愛犬をコピーしてもらえます。これは他の誰かに迷惑をかけるわけでもありません。お金を出す人の極めて個人的な満足のために行われた動物のクローン化です。
あなたはどう感じますか?僕は動物のクローン化に対して、食用よりも愛玩用の場合に倫理的な問題が生じると思っています。これは同じ生物でも植物とは根本的にことなる点です。それは我々自身も『動物』だからです。
もし、仮にいいと言うならば、失った子供をクローン化したいという親が現れた時に「それはダメです」とちゃんと言えるように理論武装しておく必要があります。この場合、彼らは他の誰にも具体的な迷惑をかけていません。にもかかわらず、それは良くないと言うなら、(フルタチさん的な)漠然とした感情論ではダメなのです。人類全体の倫理問題として説得しなければならないのです。

本日のお酒:手取川吟 大吟醸・本流 + 土佐栗焼酎 ダバダ火振
コメント (2)
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